5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

伊藤ハムのシアン問題情報 【追記:報道はありました】

 以前、「伊藤ハムも被害者だったかもしれないのに」というエントリーで、どうも原因がつきとめられていないのが気になるので、ウォッチを続けたいというふうに書きました。

 しかし、その後はなかなかマスコミでは取り上げてくれないようで情報が得られなかったのですが、今月1日のブログで松永和紀さんが書いておられました。その時点ではかなり混乱していたことは事実のようですが、引用します。
 情報が混乱したままなのは、伊藤ハムが細かな情報を公表していないこと、そして、週刊誌AERAが「地下水の塩素消毒によって、塩化シアンが発生」という説を出したこと、さらにそれを、中西準子先生が自身のHPの雑感「地下水原水の汚染だったのか、塩素処理後の水の汚染だったのか-伊藤ハムは至急明らかにしてほしいー」で紹介したためだと思う。この問題に注目している食品関係者も、わけがわからなくなっているのだ。
 松永さんがその時点で得ていた情報では、「内部資料によれば、シアンは浄化処理する前の原水からも出ている」とのことで、たとえ塩素処理で生じた塩化シアンがあったとしても、原水問題は片がつかないため、ジリジリしておられるようでした。

 ところが、今月5日に伊藤ハムが記者会見を開き、調査対策委員会の調査結果を発表・説明したものを、記者会見に出席された松永さんが報告しておられます。

 伊藤ハムのシアン問題2~やっぱり塩素処理不十分が原因?
 中間報告で提示された主な事実は次の通り。
・水中のアンモニア性窒素は、塩素の添加によって塩素と結合し、さらに水中や濾過材中の有機物と反応して塩化シアンを生成する場合がある。
・伊藤ハム東京工場の井戸水は、アンモニア性窒素が多い
・再現実験で、塩素添加が不十分だとシアン生成量が増えることが確かめられた
・水質基準項目にこの4月から塩素酸濃度(0.6mg/L以下)が追加され、7月の自主検査で0.62mg/Lという数字が出て再検査したところ下がるなどしていたため、添加する塩素量を抑えめにしていた
・11月始めに濾過材を交換したところ、シアンはほぼ検出限界以下となった
 伊藤ハムの発表はpdfファイルで公開されています。経過報告.pdf

 松永さんの解説では、「委員会は『塩素添加が不足したことから、塩化シアン濃度が上がり基準を超過してしまった』と推測した」ということです。おそらくAERAも、この研究班のデータを前もって入手することができて、記事にしたのだと考えられます。

 私は化学には強くないので、報告書や松永さんの解説を読んで、なるほどと思うのが関の山なのですが、松永さんが原水にもシアンが検出されたことの説明として、塩素の逆流も含めた委員会の結論を、「大筋で妥当な推論」とおっしゃっているので、信じられる気がします。
 今回の事故の場合、原因を確定させることは難しい。だが、伊藤ハムは、仮説をたて再現実験などを行い検証した。この姿勢は、立派だ。記者会見でも、(再現実験を行った北里大医療衛生学部講師の)伊予さんらが、実に丁寧に科学的なメカニズムを説明。あくまでも仮説の検証に過ぎないことを伝え、推論をしっかりと述べ、科学的に不明であること、推測できないことは「分からない」とはっきりと示した。
 松永さんがおっしゃるとおり、この手の事件の事後処理としてはきわめて模範的な良いケースになると思われます。

 一方で残念なのは、このような適切なフォローをしている伊藤ハムのことはほとんどニュースとして流れてこないことです(追記:Google検索してみると、報道されていたことがわかります)。もしも、伊藤ハムが問題の多い事後処理をしたならば、ここぞとばかり袋叩きにすることが目に見えるようなだけに、こうした報道姿勢をこそ批判していかなければならない気がします。反面教師ばかり大きく取り上げるのではなく、こうしたお手本になりそうな対応もしっかりと書いて、他の企業に見習ってもらうようにするのも、報道の使命でしょう。

 そういう意味では、マスコミなどより松永和紀blogがはるかに信頼できるジャーナリズムということになります。今後も、購読を続けさせていただきたく思います。皆さまも、RSSをどうぞ。
Commented by こーた at 2008-12-06 18:46 x
すばらしい!拍手!
既存メディアへの失望感は、web2.0によって深く次第に広がっていくのでしょう。google newなども既存メディアに依存していますし、何かより広く正確かつできる限り平等なオープンソースメディアを作る仕掛けができないものかな。。。
Commented by コメント at 2008-12-06 22:55 x
マスコミの報道姿勢はその通りだと思います。

久米宏がニュースステーションを始めて、情報番組を劇場的に扱い初めてから、視聴率重視で中身がない報道や、スポンサーに気を配り過ぎた偏向報道が増えました。

ネットが普及して、自宅で、生の情報が得られるようになりました。これまでは、、マスコミは、「他の人よりも少しだけ速く情報を入手し、それを流布する」というビジネスモデルで、やってきました。今後は難しくなるでしょう。

その証拠に、上記のビジネスモデルに立脚した雑誌はドンドン廃刊に追い込まれています。

テレビについても、地デジが始まり、チャンネル数が増えたり、番組のネット配信が普及すると、今までのようなビジネスモデルは成り立たず、現状のままだと、廃れて行くと思います。。
Commented by at 2008-12-07 07:19 x
前回のエントリもちゃんと拝読していなかったので何が起こっているのかわかっていなかったのですが、おととい(12/5)朝だったか(正確にはおぼえていなくて申し訳ないです)のNHKニュースを見た後、「あれ?原水は汚染したまま?」という印象が残りました。ただまぁ、事故に対する判断として社内の情報伝達のあり方を見直しましたので今後このような事故を起こさないようにしますと会見したというのがニュース本体で、さらさらと次のニュースに移っていったかな、と。
ということで、情報、ありがとうございました。
(ここぞとばかり?のマスメディア非難が上のコメントでも出ていますが、正直言って、不毛じゃないかと思うのですが)
Commented by stochinai at 2008-12-07 08:11
 NHKでやっていたのですね。Googleでニュース検索してみると、確かに各社報道していることは確認できました。ですから「ほとんどニュースとして流れたこない」と書いたのは、私の情報収集力が足りなかったことを意味していますので、お詫びして訂正しておきたいと思います。
Commented by ある大学教員のたわごと at 2008-12-07 15:56 x
いろいろあったせいか、最近、食品に過敏になりすぎている気がします。某食品のインスタント麺の臭いが実は隣においてあった防腐剤の臭いの付着というのもありました。環境ホルモン、ダイオキシン問題を想起させます。今、何も言わなくなってしまいました。人間の悲しい性です。
Commented by 九州男児 at 2008-12-23 07:49 x
厚生労働省側では、検査上で酒石酸から塩化シアンが出来る問題を認めた。

http://suidou-kawasan.web.infoseek.co.jp/topix/topix.htm(中段)
(日水協衛生常設調査委・シアンの検査方法を検討(11/27日本水道新聞)から引用)

『厚生労働省の○○・水道課水道水質管理官が最近の水道行政の動向について解説した。 「シアン化物イオンおよび塩化シアン」の検査では、塩化シアンの安定化のため試料採取時に酒石酸緩衝液を添加するが、これにより多くの塩化シアンが検出されることになる。そこで水質試験方法等調査専門委員会無機物部会では、これに代わる緩衝液を検討している。』(引用おわり)

伊藤ハム調査対策委員会の報告はなんだったのか。公定法の不都合を伏せるためのつじつま合わせの報告だったのだ。
by stochinai | 2008-12-06 18:13 | 医療・健康 | Comments(6)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai