5号館を出て

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カッコ悪い日本人とカッコいい日本人 【再追記】本人原稿

 立て続けに世界的ニュースになっていると思います。

 カッコ悪い日本人は、もちろんG7の記者会見で記者団の質問に対してもうろうとした対応を見せた中川昭一財務・金融相です。本人は風邪薬の飲み過ぎと弁解しているようですが、あれは誰が見てもアルコールによる酩酊状態に見えるのではないでしょうか。もちろん、本当のことはわからないとは言え、諸外国に報道される時にはそうなってしまうのは仕方がないような「姿」だったと思います。

 しかも、中川氏は今までにも何度も酒のからんだ失敗談の多い人です。

 あれを見て思い出したのが、ロシアのエリツィン元大統領です。彼の場合は、同じような状況のフィルムを日本では「酩酊」と断定的に報道していましたから、今回は逆に外国のメディアでは「酩酊」と報道されても仕方がないと思います。

 これは「単なる酒の席」の笑い話になると思ったら大きな間違いで、この世界同時大不況という時に開かれたG7を、日本政府が酒席程度にしか捉えていないということになるわけで、とてつもなく日本の国益を損なう行為であることが、今の政府にはおわかりにならないのでしょうか。

 ロイターによれば、「中川財務・金融相の発言を受けて、16日の欧州外為市場で円円は一時1ドル=92.08円まで下落」と報道されています。

 そんな状況をであるにもかかわらず、総理大臣が財務・金融相に言ったのは、中川氏の言葉によれば「首相から『体調管理をしっかりして、職務に専念してほしい』と言われた」なのだそうです。となると、世界が日本を見る目はさらに厳しくなることが予想されます。

 内閣が国益を損なったら、国民には退陣を要求する権利があります。

 さて、一方でものすごくカッコいいことをした人もいました。

 村上春樹さん、エルサレム賞記念講演でガザ攻撃を批判

 イスラエルの文学賞である、エルサレム賞を受賞するというニュースが、しばらく前から流れていて、タイミング的にもあのテロ国家であるイスラエルから賞をもらうのはいかがなものかという論調の意見もあちこちで見聞きしましたが、当の村上春樹さんが沈黙を守っていたのには、ちょっと違和感を感じていました。すばらしい賞なので受けるのは栄誉なことだと思いますが、私としては、それをもらうならばイスラエルという国に対してもなんらかのコメントがあり、その上でそれはそれこれはこれとしてありがたく賞をいただく、というあたりのものを期待していたような記憶があります。ところが、今日の授賞式の記念講演の内容を聞いてぶっ飛んでしまいました。

 浅はかなことを考えていた私がバカだったのね~、という感じです。
 村上さんは、授賞式への出席について迷ったと述べ、エルサレムに来たのは「メッセージを伝えるためだ」と説明。体制を壁に、個人を卵に例えて、「高い壁に挟まれ、壁にぶつかって壊れる卵」を思い浮かべた時、「どんなに壁が正しく、どんなに卵が間違っていても、私は卵の側に立つ」と強調した。
 朝日の記事では、村上さんが具体的にどう言ったのかが今ひとつはっきりしませんでしたが、こちら中国新聞に共同通信社が配信した講演要旨がありました。
 一、イスラエルの(パレスチナ自治区)ガザ攻撃では多くの非武装市民を含む1000人以上が命を落とした。受賞に来ることで、圧倒的な軍事力を使う政策を支持する印象を与えかねないと思ったが、欠席して何も言わないより話すことを選んだ。

 一、わたしが小説を書くとき常に心に留めているのは、高くて固い壁と、それにぶつかって壊れる卵のことだ。どちらが正しいか歴史が決めるにしても、わたしは常に卵の側に立つ。壁の側に立つ小説家に何の価値があるだろうか。

 一、高い壁とは戦車だったりロケット弾、白リン弾だったりする。卵は非武装の民間人で、押しつぶされ、撃たれる。

 一、さらに深い意味がある。わたしたち一人一人は卵であり、壊れやすい殻に入った独自の精神を持ち、壁に直面している。壁の名前は、制度である。制度はわたしたちを守るはずのものだが、時に自己増殖してわたしたちを殺し、わたしたちに他者を冷酷かつ効果的、組織的に殺させる。

 一、壁はあまりに高く、強大に見えてわたしたちは希望を失いがちだ。しかし、わたしたち一人一人は、制度にはない、生きた精神を持っている。制度がわたしたちを利用し、増殖するのを許してはならない。制度がわたしたちをつくったのでなく、わたしたちが制度をつくったのだ。
 さすがに、文学者だけあって言葉に命が吹き込まれています。日夜、どこぞの大臣達の言葉の軽さにさらされている私達の感性が、いかに痛めつけられているかがよくわかりました。

 「欠席して何も言わないより話すことを選んだ」「どちらが正しいか歴史が決めるにしても、わたしは常に卵の側に立つ」。受賞を拒否することでも、イスラエルのやっていることを非難することはできます。しかし、イスラエルの懐にまで入り込んだ上で、これだけ強い言葉で相手を批判するということに、どれだけの勇気がいることでしょう。そして、その分だけ相手に与える効果も大きいはずです。

 ものすごくカッコいいとは思いますが、自分ができるかというとかなりビビリます。

 もちろん、賞を贈られると聞いた時に彼も悩んだと思いますが、その状況の中で平和に対してもっとも自分の力を発揮できるやり方を、村上さんは選び取ったのだと思います。逆に、賞を与えられるなどという立場に立った時、人が取るべき行動を彼は義務として果たしたように思えます。

 ノーベル賞も取るかもしれないと言われていますけれども、ノーベル賞の受賞者講演の何百倍も大きなインパクトのある役を演じたと思います。ノーベル賞も取るかもしれませんが、そんなことはどうでもよい小さなことに思えてきます。

 つまらないニュースの後でしたからなおのこと、「まだまだ日本・日本人も捨てたもんじゃない」ところを見せてもらった、すがすがしいニュースでした。

【追記】
 村上さんの講演の要旨の英語版が、池田信夫さんのところにあります。英語に堪能な方はこちらで読まれた方が、ニュアンスがわかるかもしれません。

【再追記】
 こちらに本人の書いた原稿があります。

 Always on the side of the egg By Haruki Murakami
Commented by varoko at 2009-02-17 03:39
村上さん、めちゃくちゃかっこいいです。
英語版読みましたが、日本語に比べるともっと穏やかというか「愛」を感じます(日本語が違うという訳ではありません)。
ガザ攻撃の批判というよりはもっとレベルの高い話のような気がします。
村上氏はどちらの側に立つべきか、と考えた時「卵」の側に立つとしています。卵=人の側に立つと言ってます。だから「You are the biggest reason why I am here」という言葉が出てくるのだと思います。すごいです。

ところで中川氏に対するアメリカ人の反応をちょこっと見たのですが意外とやさしかったのに驚きました。あれはアンタビュース作用(抗生剤を服用すると例えグラス半分のワインでもモウロウとした状態になる)、とか(今の経済を考えると)酒飲んでなきゃやってられない、のはよくわかるとか(笑。おそらくアメリカ国民の心境でしょう。
Commented by stochinai at 2009-02-18 15:53
 村上春樹さんご本人の書いた原稿が出ました。

Always on the side of the egg By Haruki Murakami
http://www.haaretz.com/hasen/spages/1064909.html
Commented by varoko at 2009-02-19 02:22
早速、拝見しました。

私が感じた事を「Talk back」の7番と8番の方がうまく説明してくれています。

Commented by stochinai at 2009-02-19 13:27
 ニュースサイトに普通にコメントが書き込めるようになっているのは、ちょっと驚きました。イスラエルのジャーナリズムは、日本よりもはるかに進んでいると感じられます。日本は・・・・。
Commented by マルセル at 2009-02-19 23:52 x
彼の言う"壁"とはエルサレムにあるユダヤ教の聖地・嘆きの壁の暗喩でもあるんでしょうね、こう言える政治家がいて欲しいです、こう言える外交官は緒方貞子さん以外に浮かびません、人材がいないな。
ところで沸騰都市シンガポールはみましたか?京大の研究者がシンガポールに行っているのですが、番組をみる限り解雇寸前です、日本は閉鎖社会ですから戻れないハズ、解雇された場合シンガポールに雇われたを実績に、日本ではないどこかに潜り込めるのでしょうか?心配になってしまいました。
Commented by マルセル at 2009-02-20 00:05 x
スイマセン、上記の村上さんの記事ではない、沸騰都市の記事でTBしてしまいました、コメントのURLはどちらも村上さんの記事です。
Commented by stochinai at 2009-02-20 11:43
 ありがとうございます。沸騰都市のほうにコメントを残しました。よろしくお願いします。
by stochinai | 2009-02-16 20:58 | つぶやき | Comments(7)

日の暮の背中淋しき紅葉哉            小林一茶


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