5号館を出て

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適度な量のアルコールは脳内エンドルフィンを放出させる

 アルコールが脳に影響を与えることはほとんどのヒトが経験していることだと思います。適度な量のアルコールを飲むと、気分が良くなったり楽しくなったりすることを経験したヒトも、少なくないでしょう。しかし、時としてヒトはアルコール依存症になり、アルコールが切れると病的な症状を示すようになったりもします。

 脳に不要やものや危険なものがはいっていかないように、血液と脳の間には関所(脳血液関門)があって、そこをくぐり抜けたものだけが脳内に到達します。アルコールはこの関門を簡単に通過するので、脳の神経細胞にアルコールが作用することが、(直接・間接はさておき)上に書いたようなアルコールの効果を生み出すのではないかと考えられていました。しかし、アルコールがどうしてそのような効果を生み出すかについては、はっきりしていなかったのです。(拙著『進化から見た病気』 105ページ「アルコール依存」参照

 3月19日に公開されたAlcoholism: Clinical and Experimental Research という雑誌のオンライン早出し版に、その謎の答となる論文が出ました。

Effect of Acute Ethanol Administration on the Release of Opioid Peptides From the Midbrain Including the Ventral Tegmental Area
(急性のアルコール投与による腹側被蓋部位を含む中脳でのオピオイド・ペプチド放出に及ぼす効果)

Samuel Jarjour, Li Bai, and Christina Gianoulakis

 AAASによる3月19日のパブリック・リリース EurekAlert! に紹介記事が載っています。

Low to moderate, not heavy, drinking releases 'feel-good' endorphins in the brain
(少量あるいは適量の飲酒によって、脳内に「気持ちよく感じさせる」麻薬(エンドルフィン)が放出される)
* Scientists know that alcohol affects the brain, but the specifics are unclear.
(アルコールが脳に影響を与えることはわかっていたが、その理由ははっきりしていなかった。)

* New findings show that low and moderate but not high doses of alcohol increase the release of beta-endorphin.
(今回の発見で、少量あるいは適量のアルコールがβエンドルフィンを放出させることが明らかになった。しかし、大量のアルコールではその放出は起こらない。)

* Beta-endorphin release produces a general feeling of well-being that reinforces the desire to drink.
(βエンドルフィンの放出によって一般的快感が得られることが、飲酒への欲求を強める原因となる。)
 アルコールが神経を麻痺させる作用は古くから知られており、脳への作用もそういうことではないかと考える人もいたのですが、それだけではたくさんの人を依存症にしてしまうほどの強い習慣性を説明するのは困難だとも考えられていました。

 この度の実験ではラットを使って、アルコールを注射した後、脳内から直接細胞を浸している外液を採取するという方法で、連続して3種の麻薬物質(エンドルフィン、エンケファリン、ダイノルフィン)の分泌量を測定することに成功しました。測定したのは、薬物やアルコール依存症に強く関係していると考えられている脳の部位である中脳のVTA(腹側被蓋部)と呼ばれる場所です。

 その結果、βエンドルフィンだけが、低濃度と中濃度(1.2, 1.6, 2.0 g ethanol ⁄ kg体重)のアルコールに対して有意な増加を見せましたが、エンケファリンはまったく変化がなく、ダイノルフィンに関しては低濃度(1.2 g ethanol ⁄ kg)のところで遅い時間に少しだけ増加が見られました。図は、βエンドルフィンの結果です。
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 ラットで得られたこの結果は、おそらくヒトにもあてはまるだろうと考えられ、適量のアルコールは脳に高揚感を与え、不安感を取り除く「報酬」効果をもたらすことが予想されます。ところがアルコールの量が増えると、麻酔・鎮静・睡眠作用が強くなってしまうようです。つまり、酩酊して寝てしまうということでしょう。

 この研究は、今まで経験的にアルコール依存症治療に使われてきて、ある患者には効果が認められてきたnaltrexoneという脳内麻薬受容体の拮抗阻害薬がどうして効くのかということの説明にもなるということで、かなり説得力があるものです。

 最後に、紹介記事に載っている研究者のアドバイスを紹介しておきます。「今回の結果で、アルコールを飲むことでエンドルフィンが出て幸せな気分になることはわかったと思うが、もし1杯か2杯飲んでも幸せにならなかったら飲むのを止めなさい。それ以上飲んでも、エンドルフィンは出ないし、他の影響が出て不安やうつを感じることになるかもしれないのだから」とのことです。

 いずれにしても、お酒は控えめにということで(笑)。
by stochinai | 2009-03-21 18:00 | 医療・健康 | Comments(0)

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