5号館を出て

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メルクが偽装科学雑誌を出版していた

 The Scientist という科学雑誌がありますが、そこにタイトル通りのとんでもない大スクープ記事が出ました。

News: Merck published fake journal
メルクがニセの科学雑誌を出版していた

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 technobahnの日本版に簡単な紹介記事がありますので、ご覧ください。

嘘を嘘と見抜ける人でないと学術専門誌を読むのは難しい? 米科学雑誌が警告

 The Scientist の記事によると雑誌名は Australasian Journal of Bone and Joint Medicine です。北大図書館の電子ジャーナルの一覧にないかと調べたりしているうちに、その雑誌のタイトルがよくある Australian Journal ではなく、 Australasian Journal だということに気が付きました。オーストラリアとアジア地域のジャーナルという意味でしょうか。ということは、意外と日本にも入り込んでいるのではないかと思ってしまいました。

 企業が、一般学術雑誌のように見せかけた宣伝紙を作ることは良くありますが、多くの場合それは見ればすぐにわかるような体裁をしているので、このような問題になることはなかったと思います。今回、なぜこんな大きなニュースになったのかというと、なんとこの雑誌は医学系の出版社としてはかなり有名な Exerpta Medica が作っており、さらに大変なことにあの Elsevier (エルゼビア) が販売しているというのです。そして、それが本当の学術雑誌ではない証拠の一つとして MEDLINE に載っておらず、ウェブサイトも持っていないということで、偽装だと断定されています。

 私は専門外なので良くわからないのですが、中の「論文」は結局のところメルクの骨粗鬆症治療薬であるFosamax や、あちこちで薬害訴訟を受けている Vioxx という薬を持ち上げる記事ばかりだということのようですが、医師が読んでもこれは整形外科の専門学術誌だという体裁にはなっているとのことです。(この偽装雑誌のことが明らかになったのも、Vioxx の訴訟の中のことでした。)

 The Scientist では、まさにフェアユースということなのでしょうが、著作権などは完全に無視して、この雑誌2冊分のゼロックスコピーをpdfファイル化して、ウェブで公開しています。日本だったら、即著作権侵害で告訴されそうなものですが、ここでは「正義」が生きているようです。

Volume 2, Issues 1, 2003
Volume 2, Issues 2, 2003

 The Scientist の記者は当然にも Elsevier にも取材をしており、当時も Elsevier ではこれが一般の学術雑誌ではなく、コマーシャル誌であることを知っていたし、メルクからお金を受け取っていたけれども、当然メルクはそのことを情報公開しているものだと考えていたとシラを切っているらしいです。さすがに、今の Elsevier はこういう雑誌をいわゆるジャーナルとは考えない、つまり出版しないと言っていますが、責任を逃れることは難しいと思われます。

 掲載された論文は他誌からの転載のようなものが多かったようですが、レビューと称して引用文献が1つか2つのものもあったようで、どこがレビュー(総説)なんじゃというものを書いたレビュワーの責任も問われるべきでしょう。

 まだホッカホッカのこの問題には、日本の産業界にも影響力の大きなメルクとエルゼビアという巨大勢力が関わっていますので、この後日本のマスコミがどのようにフォローするのかあるいはしないのかというあたりは、かなり見所だと思っています。あちらでさえ、オーストラリアの The Australian を除くと、まだ大手マスコミは手を出していないようですので、なかなか難しいところでしょうね。

The Australian
Doctors signed Merck's Vioxx studies

blog
The Tale Of Merck's Fake Medical Journal As Told At A Vioxx Trial In Australia
Drug Company Paid Scientific Publisher Elsevier To Produce What Was Essentially A Marketing Publication For Vioxx And Fosamax


Merck Makes Phony Peer-Review Journal
by stochinai | 2009-05-06 22:55 | 科学一般 | Comments(0)

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