2009年 07月 10日
カロリー制限をすると病気にならず長生きできるか
これまで、酵母、線虫、ショウジョウバエ、マウスなどいろいろな生物を使った実験で、栄養失調にならないようにしながらカロリー制限をすると寿命が延びるということが示されてきました。
しかし、それがヒトを含む霊長類にも適用できるかどうかを実験で示したものはなかったようです。今日のScience誌に載った論文で、サル(ニホンザルに近い仲間)を使ってカロリー制限をした実験結果が公表されています。このサルの寿命は27年くらいだそうですので、実験も20年以上をかけた長期戦でした。
結論はタイトルどおりです。
Science 10 July 2009:
Vol. 325. no. 5937, pp. 201 - 204
DOI: 10.1126/science.1173635
Caloric Restriction Delays Disease Onset and Mortality in Rhesus Monkeys
Ricki J. Colman et al.
カロリー制限はアカゲザルの老化関連疾患の発症を遅らせ寿命を延ばす
同じ27歳の2匹のサルを比較したこの写真が、ある意味ですべてを物語っています。左が食い放題を許したサルで、右が30%くらいのカロリー制限をしたものです。(実験開始は7歳から14歳)
左のサルは、どうやら歯も抜けているようで、顔もしぼんでいます。Bを見ると、身体の毛もかなり抜けていることがわかります。おしりの辺りが赤くなっているのは、「お猿のお尻はなぜ赤い」の赤さではなく、皮膚病だと思われます。足の関節も曲がりにくくなっているのがわかります。
対して、右側のサルは精悍な顔をしており、毛もふさふさで、尻尾も立っており、膝も柔軟に曲がっています。これが平均寿命に達したサル(日本人でいうと80歳くらい?)には、なかなか見えません。
老化に関連した病気に関しては、がん、心臓病、糖尿病などが調べられています。このグラフは横軸がサルの年齢で、縦軸に病気を持っていないサルの比率がパーセントで示されています。
青い線が食べ放題グループで30歳くらいになるとほとんどが老化に関連した病気持ちですが、赤い線で示されたカロリー制限グループでは、平均寿命に達したサルでも病気のないものの方が優勢です。
というわけで、腹7分目の生活をしていると病気にもなりにくく、長生きできるという結果がヒトに近いサルでも示されたということの意義は大きいと考えられています。
ただし、この結果からただちに我々の食生活のカロリーを30%減すれば(がんを含む)生活習慣病から逃れられ、長生きできると考えるのは短絡だと思います。我々の大多数は、普及した医学常識から食べ放題というほど食べてはおらず、多くのヒトはすでにある程度のカロリー制限をしていると考えられますので、カロリー制限によって効果を得られるのはごく一部のヒトだけのような気がします。
それにしても、上の写真を見ると食べ物だけでこれだけ老化現象に差が出るというのは、ちょっとショックではありますね。
しかし、それがヒトを含む霊長類にも適用できるかどうかを実験で示したものはなかったようです。今日のScience誌に載った論文で、サル(ニホンザルに近い仲間)を使ってカロリー制限をした実験結果が公表されています。このサルの寿命は27年くらいだそうですので、実験も20年以上をかけた長期戦でした。
結論はタイトルどおりです。
Science 10 July 2009:
Vol. 325. no. 5937, pp. 201 - 204
DOI: 10.1126/science.1173635
Caloric Restriction Delays Disease Onset and Mortality in Rhesus Monkeys
Ricki J. Colman et al.
カロリー制限はアカゲザルの老化関連疾患の発症を遅らせ寿命を延ばす
同じ27歳の2匹のサルを比較したこの写真が、ある意味ですべてを物語っています。左が食い放題を許したサルで、右が30%くらいのカロリー制限をしたものです。(実験開始は7歳から14歳)
対して、右側のサルは精悍な顔をしており、毛もふさふさで、尻尾も立っており、膝も柔軟に曲がっています。これが平均寿命に達したサル(日本人でいうと80歳くらい?)には、なかなか見えません。
老化に関連した病気に関しては、がん、心臓病、糖尿病などが調べられています。このグラフは横軸がサルの年齢で、縦軸に病気を持っていないサルの比率がパーセントで示されています。
というわけで、腹7分目の生活をしていると病気にもなりにくく、長生きできるという結果がヒトに近いサルでも示されたということの意義は大きいと考えられています。
ただし、この結果からただちに我々の食生活のカロリーを30%減すれば(がんを含む)生活習慣病から逃れられ、長生きできると考えるのは短絡だと思います。我々の大多数は、普及した医学常識から食べ放題というほど食べてはおらず、多くのヒトはすでにある程度のカロリー制限をしていると考えられますので、カロリー制限によって効果を得られるのはごく一部のヒトだけのような気がします。
それにしても、上の写真を見ると食べ物だけでこれだけ老化現象に差が出るというのは、ちょっとショックではありますね。
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ぜのぱす
at 2009-07-10 22:53
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> 実験も20年以上をかけた長期戦
今の日本じゃ無理な実験ですね。
粗食に励もう(笑)、と云う気になりました。
今の日本じゃ無理な実験ですね。
粗食に励もう(笑)、と云う気になりました。
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stochinai at 2009-07-11 07:52
京大に50年間暗闇で飼育され続けてきたショウジョウバエがいます。実際にやっていた時には、半分笑われていたものですが、今や京大の宣伝に使われています。今の日本の科学は残念ながらそうした資産を食いつぶしているだけで、新しい芽を育てることはまったくといっていいほどできなくなっているのかもしれません。「一生かけて続けられる」場所がなければできない研究が生物学には多いものです。
これですが、過食は肥満になり肥満は寿命を縮めるということではないですか???いつも疑問なんですが、過食と適正量食とカロリー制限の三つでどうなんですかね???
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stochinai at 2009-07-12 13:28
私もあまり詳しくはないのですが、与えた餌が高カロリー食ではなさそうで、普通のサルだと食べたいだけ食べさせても肥満というほど肥らないのかもしれません。またカロリー制限も栄養不足にはならないようにしているようですので、痩せているようには見えません。ですので、今回は過食による寿命の短縮は含まれずに、適正量とカロリー制限の比較ということになるのではないかと思っています。
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mukku
at 2009-07-13 09:17
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人間で言うとカロリー制限は何キロカロリー摂取になるんでしょうね。
基礎代謝体重計で測定できるものだと私は1200キロカロリー程度。
このぎりぎりで摂取と言うことでしょうかね・・。
カロリー摂取をしないと体のカロリー吸収がよくなりリバウンドしにくいと言うのが定説ですが、この節約な体こそエネルギーを消化しない→老化を遅らせる という状態になるんでしょうか。
消化酵素を使わないほうが長生きすると言うのも聞いたことがあります。
つまりよくかんで食べたら長生きできるとか。
食べたいだけ食べたら、消化酵素もどんどん使うでしょうし・・
人間も食事は3回、高カロリー食はやめて和食にしたほうがよさそうですね☆
基礎代謝体重計で測定できるものだと私は1200キロカロリー程度。
このぎりぎりで摂取と言うことでしょうかね・・。
カロリー摂取をしないと体のカロリー吸収がよくなりリバウンドしにくいと言うのが定説ですが、この節約な体こそエネルギーを消化しない→老化を遅らせる という状態になるんでしょうか。
消化酵素を使わないほうが長生きすると言うのも聞いたことがあります。
つまりよくかんで食べたら長生きできるとか。
食べたいだけ食べたら、消化酵素もどんどん使うでしょうし・・
人間も食事は3回、高カロリー食はやめて和食にしたほうがよさそうですね☆
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mukku
at 2009-07-13 09:21
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すいません、リバウンドしやすいの誤りでした。
追記:自然界には餌はそんなにいつも決まって同じようにはないし、毎日3食は食べすぎだとは思います。
猫も1週間に一度は絶食させた方がいいとか聞きましたし、人間も絶食日は必要?
腸の働きがよくなるそうですね。
でも、食べることしか楽しみ無いような生活をしていると、厳しいお話ですね・・。
追記:自然界には餌はそんなにいつも決まって同じようにはないし、毎日3食は食べすぎだとは思います。
猫も1週間に一度は絶食させた方がいいとか聞きましたし、人間も絶食日は必要?
腸の働きがよくなるそうですね。
でも、食べることしか楽しみ無いような生活をしていると、厳しいお話ですね・・。
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どうでしょう
at 2009-07-13 09:48
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疫学的には小太りくらいの平均寿命が一番長いという話もありますね。
実際にはカロリー以外の要素もいろいろあるんでしょう。
実際にはカロリー以外の要素もいろいろあるんでしょう。
人間の寿命の延長は明らかに栄養摂取の改善からでしょう。では成長期に低栄養だと寿命が短いと言えるかと言えば、戦後一貫して寿命が延びているわけで、敗戦直後の栄養不足の成長期の世代にもそれほど影響がないようです。これはサルの単なる過食実験じゃないのかな???
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stochinai at 2009-07-13 18:56
おそらく飼育下に置かれたサルも、その多くが人間と同じように「寿命」をまっとうするようになっていると思います。栄養障害が起こらないようにしてカロリー制限をするというのは、健康的に暮らしている多くのヒトがすでに実行していることだと考えると、さらにカロリー制限をするのは栄養障害の原因になりそうですね。ただ、Blueさんがおっしゃるように戦後の栄養障害の時代に育ったヒトも決して短命ではないということは、カロリー制限に害はなさそうということにもなるでしょうか。また、「過食実験」と言っても、フォワグラみたいに無理矢理に食べさせているわけではないので、欲望のおもむくままに食べると身体に悪いですよ、という程度のことなのかもしれません。
by stochinai
| 2009-07-10 18:21
| 医療・健康
|
Comments(9)