5号館を出て

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ウロコの少ない突然変異遺伝子

 日本ではドイツゴイと呼ばれることもあるウロコの数が極端に少ないカガミゴイというサカナをご存じですか。ウロコの少ないコイはニシキゴイにもいるので、おそらく一度くらいは見たことがあるという方が多いと思います。ドイツでは spiegel kaupfen と文字通り鏡の鯉(英語だと mirror carp)ですから、日本語もドイツゴイよりもカガミゴイが適切だと思います。もともとはドイツから輸入されたものだと思いますが、四国などでは野生化しているものもいるようです。下のような写真を見ると、ヨーロッパでは釣りの対象としても人気があるポピュラーなサカナであることが良くわかります。
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 今日のNatureに解説記事が出ていますが、今月3日のCurrentBiologyでは、ゼブラフィッシュでこのウロコが少なくなる原因が突き止められたという記事が載っています。

Natureの解説記事

Nature 461, 149 (10 September 2009) | doi:10.1038/461149b; Published online 9 September 2009

Evolution and development: Genes in the mirror (進化と発生: 鏡の中の遺伝子)


 タイトルにある鏡はカガミゴイとかけたシャレです。写真が出ていますが、下にあるカガミゴイとそっくりなウロコの少ないゼブラフィッシュの突然変異が作られて、その遺伝子が突き止められたということです。
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 原著の論文、現在印刷中という扱いです。

Rohner et al., Duplication of fgfr1 Permits Fgf Signaling to Serve as a Target for Selection during Domestication, Current Biology (2009), doi:10.1016/j.cub.2009.07.065

 タイトルに書いてあるのは、細胞増殖を刺激するタンパク質を受け取る受容体タンパク質のひとつを作るfgfr1という遺伝子がサカナの進化の過程で重複したことで、ひとつだった時には致命的になる突然変異が、片方の遺伝子に起こったとしてもサカナは正常に発生できるだけではなく、遺伝子が変異することでサカナが新しい性質(ここではウロコが少なくなること)を獲得することが可能になるということです。

 これは、「遺伝子重複による進化」として昔から理論としてはとても有名なものでしたが、これほど直接的に証明されたことはあまり例がないのかもしれません。

 ウロコの少ないサカナの種は他にもいろいろと知られており、まったくないものもいます。今回ゼブラフィッシュで作られたspiegelzebra(カガミゼブラ)で変異を起こした遺伝子と同じ遺伝子がカガミゴイで変異を起こしているということがわかり、サカナでは重複したfgfr1遺伝子の片方が変異を起こすことによってウロコが少なくなるカガミ突然変異が比較的頻繁に起こるということもわかったそうです。

 2003年にコイの遺伝子系統解析をした論文で、ドイツのカガミゴイとロシアにいるウロコの少ないカガミゴイの系統がかなり離れているということが示されていますが、それも今回の研究から別々の系統で同じような突然変異が起こったものが育種家の手によって選択されてきた人為選択の結果だったということで簡単に説明がついたようです。

J.F. Zhou, Q.J. Wu, Y.Z. Ye and J.G. Tong, Genetic divergence between Cyprinus carpio carpio and Cyprinus carpio haematopterus as assessed by mitochondrial DNA analysis, with emphasis on origin of European domestic carp, Genetica 119 (2003), pp. 93–97

 遺伝子を破壊して実験的に「進化」を起こしたのですから、「進化発生学」の真骨頂のような論文だと言えるかもしれません。
Commented by ぜのぱす at 2009-09-10 21:50 x
> 遺伝子が変異することでサカナが新しい性質(ここではウロコが少なくなること)を獲得する

同じことの裏表ですが、私は、寧ろ、『重複していたfgfr1のひとつが、進化の過程で、鱗の形成に必須な役割を持つように新たな機能が付加された』と読んだのですが。 だから、それが変異すると鱗に異常が出る。
Commented by stochinai at 2009-09-10 23:30
 そうですね。いずれにしても、教科書に書いてあった「進化の原因」がこうして(意外と簡単に)示される時代になったということは感慨深い気がします。
by stochinai | 2009-09-10 21:29 | 生物学 | Comments(2)

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