5号館を出て

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正しい研究費配分方法はこれしかないはずだが・・・

 日経バイテクがやっている、Biotechnology JapanのWebmasterである宮田満さんのブログ「Webmasterの憂鬱」に的確な指摘が出ていました。

2009年11月24日
官僚が予算配分するシステムには限界が。基礎研究から臨床研究まで、シームレスに資金供給する仕組みの確立を
(2009/11/24 RANKING MAIL 第1361号)


 例によってサッカー談義から始まるのですが、今回の事業仕分けに関するコメントがメインです。
 特に「科学の成果を見せろ」という金色夜叉の仕分け人に対して、(官僚や関係者は)科学の波及効果や、企業と政府の研究開発投資の差について説明をすべきであったと思います。
 とまあ、ここまではよくあるコメントですが、この後で仕分け人の中にいた科学者たちに容赦ない言葉を投げかけます。
自分達が利用されているということに気がついていなかったのが残念。近視眼、視野狭窄の専門家は、全体のシステムを議論する場合では道具として利用されてしまうことも、是非とも皆さんご承知願いたい。
 この後に書かれている、完了が予算配分の主導権を握ると、科学予算も土木予算と変わらない配分の仕方になってしまうというエピソードが語られています。
 結局、官僚が予算配分するシステムでは説得力に限界があります。稲ゲノム計画で農水省が結局、1日も早くゲノムを解読する科学者の常識に逆らい、当初の計画通り年月を掛けて、稲ゲノム解析を完了させたのも、毎年研究費が保障されていることを優先したためです。組織維持のために科学予算を投入する倒錯した世界がわが国にはいたるところに存在します。
 というわけで、なかなか見事な議論の展開です。そして、この後に続く結論には私は諸手を挙げて賛成します。
 ここは是非とも、米国科学財団(NSF)のような科学者の組織が予算を受け取り、わが国が今必要な科学とはなにか、大所高所に立って、配分する仕組みが必要です。日本学術振興会と科学技術振興が、それぞれ旧文部省と旧科学技術庁の出先として、科学政策をまた先状態にしていることがそもそも、無駄であると私は思います。これでは、科学者は官僚の予算配分機構の添え物に過ぎません。両団体を廃止して、日本学術会議やNSF的な活動をすべきだ
 全くその通りだと、私もここ数日考えておりました。しかし、長い歴史を持つ日本学術会議は今までそれをできなかったわけです。先日は国立10大学の理学部長会議が声明を出し、今日は国立7大学と早稲田慶応の学長がが記者会見を行いました。いずれも、「(1)公的投資の明確な目標設定と継続的な拡充(2)研究者の自由な発想を重視した投資の強化(3)大学の基礎的経費の充実と新たな枠組みづくり(4)若手研究者への支援(5)政策決定過程における大学界との「対話」の重視」などを要望したものの、予算を配分する仕組みを変えろとか、さらに進んでその権限を科学者コミュニティに渡せなどというような要望は出していないようです。

 私としては、せっかく全国の大学の有力者が国に対して意見をしようというのですから、もっと強気になって、せめて「対等に」話をしても良いのではないかと思うのですが、我々のコミュニティを代表される方々はいつも政府に紳士的に要望を出すだけです。

 宮田さんがおっしゃるようにすぐに体制を変えることは難しそうなので、「日本の科学者の近視眼的縄張り争いを見ると、3年計画で権限や予算を委譲し、人材の育成から始めなくてはならないでしょう」というのが現実的な提案とも思えますが、現状ではそうした提案すらされておりませんし、残念ながら我々大学側のコミュニティ内部からのそのような動きもありません。

 そうなると、3年計画どころか10年20年かかるような気がします。もちろん、それも今動き出すことができればの話ですから、今動き出すことができないのであれば50年たっても何も変わらないかもしれません。それではいずれにせよ、今困っている人が救われないではないかという声も出てきそうですが、戦後60年以上かけて熟成されてきた官僚機構を壊すためにはその位の時間は覚悟しておかなければならないとも思います。

 というわけで、現在苦しんでいる学生やポスドクを救うための応急処置をしながら、日本の国の科学技術政策の体制を根本的に変えることに着手しなければならないと思います。それができないのならば、民主党政権になった意味はないと思います。

 政権がひっくり返ってももとに戻らないような理想的なシステムを、科学者と政治家が協力して作れたら良いのですが・・・。
1) 米国科学財団(NSF)のような科学者の組織が予算を受け取り、わが国が今必要な科学とはなにか、大所高所に立って、配分する仕組み

2) 健康や医学研究に関しても、英国のMRCや米国のNIHなどのような、研究機関と研究資金の供給機関を
 そのためには、「個別の事業の予算確保を訴えるだけでなく、科学予算投入の仕組みに対して、科学界の側から大胆な提案をする必要があると確信しています。当然、総合科学技術会議のあり方も、俎上に載せるべき」だと、本当に思います。

 宮田さんは、政治家や官僚などにもお知り合いがたくさんいるようですが、その方々は宮田さんがこんなにすばらしい正論をお持ちだということを知らないはずはありません。そうであるならば、なぜそうした政治家や官僚の方々が行動しないのか不思議です。ということは、彼らは正解を与えられてもそれに則った行動をとらないあるいはとれないということなのでしょうか。そうだとしたら、現状は想像以上に厳しそうです。

 どうしたものでしょうか。
Commented by 穴鳥仏 at 2009-11-24 22:46 x
まったく自然な正論ですね。

しかし学界主流が産業界とも組んで強引に行ったスパコン復活劇を見てても、正論が通るのは難しそうですね。研究予算を色なんなところからいろんな名目で、各分野の大ボスや研究費マフィアが取ってくる。それにからんだ研究者、関連業者、官僚が個別にいい思いをする。これをカオティックに積み重ねたのが、今の大型資金の現状で、全体図もないし、優先順位もあまりないですね。まあこういうのも少数あった方が研究予算が完全に一元的なのよりは健全な気もします。

多分現にこうした資金で潤ってる研究者個人個人に聞けば、こういうのは今より少し減らして、その分科研費を配分数や個々の額を格段に拡充するほうがいいって言う筈です。「人類の夢をになう基礎研究」という内心の抱負と「明日にでも特許でお金がざくざく」という予算獲得時の建前の乖離にも、常になんとなく後ろめたさを感じてますし。でも実際自分から動く事は決してない。
Commented by 穴鳥仏 at 2009-11-24 22:46 x

現状で既得権をもつ関係者はわりと裾野も広いし、例えばポスドクの多くはこういう資金で雇われてるので、これをすぐに変えると、実際に本当に困るのは若手です。(トップ研究者は最悪「ただの教授にもどる」だけですから。)こういう構造は強固で政治的に強力ですから、学界以外から強烈な外圧がかからないと、変わりそうにないですね。
Commented by ぷらなりあ at 2009-11-25 02:25 x
今回の仕分け対象となった基礎科学関係では、スパコンが一番無駄なのですが(私は、中核とされる分野の1つが専門ですが、そう思います)、これが一番騒がれ、科研費や学振の縮減が隠れているのは皮肉というか、既得権益守護の底力というか。
ちょと調べれば、この前身であるグリッドコンピューティング以来、プロジェクトに投資した費用・人件費に比べ、最も実績が上がっていないものの1つだというのすぐにわかるはずです。これにぶら下がっている大ボスや、本来もっと早くクビを切られるべきポスドクを一掃し、よりスッキリしたプロジェクトにするチャンスだったのにと思います。
Commented by どらごん at 2009-11-25 14:38 x
10年ほど前のNatureに、日本の科学技術分野のレビューが大々的に掲載され、その予算配分に問題があるというという趣旨の話を当時のアメリカのボスと話をした記憶があります。アメリカ方式にすべきだという論旨でした。従って宮田氏のオリジナルな意見でもなんでもないと思います。また、10年以上も前に指摘されてきた事が10年かけてもクリアできないのだから今更無理だろうと言うのが私の感想です。しかもアメリカのように予算の配分やその他マネージメントに特化したプロフェッショナルな人材育成をしてこなかった日本で、アメリカと同様の事を実行するのは難しく、結局、有名な科学者の方達が自分に都合の良いように予算を配分することになるのは目に見えています。
Commented by stochinai at 2009-11-25 21:16
 もちろん、すぐには絶対に無理でしょうが、いつかは始めないといけないのではないでしょうか。私も自民党政権下では無理だと思っていましたが、政権交代した今がひとつのチャンスではないかと思っています。
Commented by 甘過ぎ at 2009-11-26 10:46 x
どらごんさんの指摘はNSFの組織の充実ぶりと学振の組織の貧弱ぶりを見れば明らかですね。個人的には大所高所にたってあるべき予算配分を考えるより、現行の予算配分後のマネジメントと評価、その後にフィードバックをかけることが重要と考えている。ぷらなりあさんが指摘したグリッドコンピューティングの評価が正しければ、途中で柔軟に計画変更がなされるべき。まあこれまでゲノムやタンパクでも同じことを繰り返してきたんだけど、既得権益を離したくない科学者と予算配分後のマネジメントをしたくない役人/研究機関の共犯ですな。
by stochinai | 2009-11-24 21:08 | 科学一般 | Comments(6)

今日二つ三つ朝顔の通り道          稲畑廣太郎


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