5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

科学研究には無駄なお金がかかるものです

 事業仕分けで科学研究予算について、かまびすしい議論がわき起こっています。多くの研究費が国民の税金を原資としていることから、無駄遣いをするなという意見はきわめて正当なものです。

 しかし、科学という行為は未踏の領域に踏み込んでいくことであり、予想がつかないことにチャレンジするという際に「効率」とか「無駄を省く」とかいう言葉がまったく通用しない世界であることもまた事実なのだと思います。
科学研究には無駄なお金がかかるものです_c0025115_21573038.jpg
(C) photoXpress

 そういういわば「無駄のかたまり」のような科学研究をするのですから、お金はあればあるに越したことがないので、科学をやっている誰に聞いても「お金は欲しい」というに違いありません。

 しかし、たとえそうであっても「**億円なければ、この研究は達成できない」というような高圧的な台詞には違和感を感じます。

 たとえ、あればあるほどよいというのが事実であっても、スポンサーである国の経済状態がこういうことになっていることを理解できず、科学研究の予算を削減するなどというのは無知蒙昧の証拠である、などという傲慢な態度をとるならば、「だったら研究していただかなくても結構です」と言われても仕方がないと思います。

 過去に、世界に認められる業績を残され、世界的に有名な賞を受賞された方であったとしても、今の日本の経済状況を理解できずにそのような発言を繰り返すのであれば、多くの国民から見放されてしまうこともまた覚悟しなければならないでしょう。

 「資源のない日本という国で、科学技術を振興せずに未来はない」という言葉にも一遍の真理はあると思いますが、科学技術を振興することで当面の財政危機を乗り越えられるのかという問いに、「そうだ」と答えたとしたら、それはその「科学者」がただの社会的状況に無知な人間にすぎないことを表明していることにすぎません。

 基本的に研究や教育というものは、国の基礎体力をつくるものだと思いますが、基礎体力はあくまでも基礎体力であり、目の前の問題を解決する即戦力にはなり得ないことのほうが多いのです。

 そう考えると、やはり科学研究への投資は短期的な見返りを期待できるものではなく、ある意味ではきわめて贅沢な出費ということになりますので、お金が有り余っているのであればともかく、そうでないならばいろいろなものを我慢して投資していただくべきものというものだと思います。

 そのためには、大多数の国民の理解が得られていないならば、科学研究予算を強引に要求するということは、やはり正しくないことだと思います。自民党時代に多く行われた政治主導の研究費獲得には、そうしたものも多かったのではないでしょうか。

 私は研究費を受け取る側として、最低限でも多くの国民の皆さんに「まあそのくらいの費用ですむなら研究してもいいよ」と言ってもらいたいと思いますし、さらにできるならば「いろいろと苦しいんだけど、みんなで我慢するから未来のために研究してください」と言われるのが理想的だと思っています。

 今すぐにそんなことが可能だとはとても思えませんが、今回の「事件」の中で、科学と社会の「いい関係」を作ることの重要性を認識できた科学者がどのくらいいるかが、今後の展開の正否を占う鍵になると思っています。

 残念ながら、あまり明るい未来が見えてこないというのが現在の個人的感触なのですが・・・。
Commented by 一読者 at 2009-12-01 08:52 x
共感します。

今回の仕分けで見せつけられたもう一つの側面は、大型プロジェクトが公共事業と似た構造を持っているということだと感じます。

(すこし乱暴ですが)「将来 年金を満額もられるか、それを削ってでも科学研究に回すか」の議論をしているのに、全ての世代の研究者が「(自分にだけは)金くれ」と言っている様は恥ずかしく感じます。

「歴史の法廷に立てるか」という野依さんの発言は、私たち研究者にも問われうる質問だと感じます。

Commented by bn2islander at 2009-12-01 10:49 x
>スポンサーである国の経済状態がこういうことになっていることを
>理解できず

科学研究の予算を削ることで、国の経済状態・財政状況が改善されるのであれば私も削ることに賛成ですが、科学研究費をいくら削ったところで財政の足しにはなりませんので、削ることには反対です。

科学者が行うべき事は予算の削減を唱えることではなく、現状の予算を維持して、どの分野の研究に対して投資するのが一番妥当なのか、専門家同士で議論することですね。

もちろん、国民に対するパフォーマンスを行い、国民の感情に訴えかけるというのなら、構いませんが。
Commented by bn2islander at 2009-12-01 10:57 x
>一読者さん
>将来 年金を満額もられるか、それを削ってでも科学研究に回すか

年金の「満額」という概念がよく分かりませんが、年金の給付金は物価や賃金、少子化によって自動的に決まるので、科学研究と年金は独立しているように思います。

>「将来 年金を満額もられるか、それを削ってでも科学研究に
>回すか」の議論をしているのに

どこでそのような議論が行われているのか分かりませんが、あまり本質的ではない議論ですね。そもそも、年金の基本は保険なので、税金はあまり関係ないですし。
Commented by 経済も勉強してね at 2009-12-01 19:37 x
あの、あまりに経済に無知な発言が多くて???なんですが、今の日本の問題ってのは、お金が回ってないことなの。お金が回るってことは、誰かが何かを買うためにお金を使うってことが連鎖していくことなの。そうすると税収が増えて政府やっほーってこと。それいきすぎるとバブル。今はだれもお金を使わないの。だから税収も下がるっていう負のスパイラル。誰かがお金を使わないと、このスパイラルは脱せないわけ。それ政府しかないでしょ。じゃ何に使うってのが問題で、以前は道路や鉄道やダムを作ってたわけ。道路やダム作ると、コンクリートや工作機械が必要でこいつらを作るためにもいろんな機械が必要で、ってわけでどんどん需要が連鎖して、お金の流れも雇用も連鎖していくわけ。その道路によって人や物の流れが促進されたりするとさらにお金が流れて雇用も生まれるってわけ。でも必要な道路やダム全部作ってしまってこれ以上熊しか通らない道しか作れないことが問題なわけ。
Commented by 経済も勉強してね2 at 2009-12-01 19:38 x
じゃどうするってときに、一番優れてるのが科学技術に投資するってこと。ここで大事なことは個々の研究者が研究費に見合う成果があげられてるかってことじゃなくて、科学技術研究にお金を使ったら、研究用の機械や試薬を作る企業に需要が生まれるだけでなくて、その企業の技術力競争力がアップして、投資効果としてはかなり優良なわけ。だから個々の研究者胸張ってどんどん研究費を使わないといけないの。もちろん研究者はいい研究しようとがんばらないとダメだけどね。
そんなことわかってる、でも原資がってのも、今の日本では実は実はそれほど大きな問題ではないわけ。だって国債発行すればいいから。えーっ???赤ちゃん含めてもうすでに700万800万の借金があるのに、破綻だよおーってのは間違い。国債ってのは政府の借金で、で誰から借りてるかっていうと個人や民間企業なわけ。この国債がドルやユーロ建てで外国から借金してると、これは大変。アコムやレイクからの借金と変わりません。でも日本の国債は円建てなわけ。
Commented by 経済も勉強してね3 at 2009-12-01 19:40 x
通貨発行権は政府が握ってる(ホントは日銀だけど)のでいざとなったらじゃんじゃんお札すればいつでも返せる、ってのは乱暴な議論だけど、今の日本では政府の借金は国民の資産なわけ。んなこたわかってる、でも政府の借金はよくないっていわれれば、もちろんそんなにいいことでもないけど、今は仕方ないってこと。だって先行き不透明なこの時代みんな少しでも預金しておきたいでしょ?じゃ銀行はそのお金を運用して利益を出さないといけないわけ。でも確実に利益が出せそうな優良企業はお金借りてくれないわけ。ホントに必要な中小企業には貸してくれないけどね。ここでまた国債登場ってわけ。これほど安全な運用先はないからね。好況のときはみんながお金を借りていっぱい使うからお金が足りなくなって物価が上がるのね。不況のときはみんなお金を使わないから、お金が余って(みんなのポッケに)物価が下がるの。これがデフレ。聞いたことあるでしょ?で、政府がみんなのポッケに余ってるお金を集めて(代わりに国債発行して)、大きな支出をしましょうってのが公共投資。
Commented by 経済も勉強してね4 at 2009-12-01 19:40 x
公共事業っていうと悪の代名詞みたいにいわれるけど、問題は自然破壊するようなものを作ること。ね、科学技術研究に投資するってのはいいことでしょ?ポッケにお金のないポスドクさんにもね。
鳩山政権は、山火事(デフレ)が広がっているのに、未来の水資源が心配だから、今目の前にある水(国債刷ってみんなのポッケのお金集めること)を使って消すのはよくないって言ってるの。子供手当?少子化対策としてはそんなに悪い考えでもないけど、普通の人だったらこの時代子供の大学進学に備えて預金するよね。で銀行にしてみると、誰も借りてくれない、国債で運用するかってことなの。だからみんな破綻破綻って騒いでいるけど、国債に人気殺到して金利が下がっているわけ。公共サービス(上下水道とか治安維持とかね)とか福祉みたいに絶対お金を使わないといけないことと、国内にお金を回し将来に投資する公共投資は分けて考える必要があるの。で、科学研究はどっちかってことだけど、公共投資の側面が強いってこと。
Commented by 経済も勉強してね5 at 2009-12-01 19:43 x
日銀が金融緩和に踏み切ったらしいけど、この時代お金借りて設備投資する人います?ってこと。問題は、経済っていう算数の問題(だってお金の勘定は足し算できなきゃダメだし、利率の計算は掛け算できなきゃだめでしょ)に取り組む政治家とか官僚とかそれを伝えるマスコミが算数できないってことなの。だから算数得意な皆さんはちゃんと経済を理解して、説明してあげないとだめなの。だって経済学やってる人って算数できないから経済学やってんだよ。だから理系の先生方もちゃんと経済勉強してね。
Commented by 経済勉強してる? at 2009-12-01 20:06 x
公共投資の原理はいいとして、科学技術に投資すれば乗数効果が高いとは限らないよねー。研究に使われる試薬や機器が輸入に頼ってたら?内需にはぜんぜん効かないよ。それに関わる仕事が国内で広がりを持ってないと、公共投資の効果は高くないんだよ。基礎研究なんて狭い分野の科学研究に金を注いでも波及効果なんて知れてるよ。それよりは住宅や医療技術に金を出したほうがよっぽど経済効果高いと思うけどね。
Commented by 経済ちょっとかじったよ at 2009-12-01 21:24 x
そうだよ。住宅や医療技術もいいと思うよ。要は政府がどんとお金を出して、波及効果の高い事業をやることなの。でも波及効果だけではなくて将来を見据えた事業が大事ってこと。スパコンとか国産ロケットとか双方兼ね備えた事業だと思うけどね。それにしても、将来を担う若手研究者育成の費用がムダだって、お前が一番ムダだよ、レンホウ。
Commented by そうかい? at 2009-12-01 21:33 x
その将来見据えたプランを担当者が語れないってのは致命的だと思うがねぇ。波及するはずの企業も撤退してるありさまだし。少なくとも見直しは当然だろうね。
Commented by 振り出しに戻すのですか? at 2009-12-01 23:53 x
日本ローカルでお金がぐるぐる回れば税収が上がってみんな幸せ、っていまだに単純に信じている人がいるのですか。生態系と同じで一見閉じた系で回っているように見えても、結局のところ系外からのインプットがなければ系は破綻するでしょう。歴史を見れば明らかです。

科学の世界に経済原理や公共投資の感覚での財政出動をすることは反対です。現材の破綻状況はまさにこの考え方でハコモノ、高額輸入品中心の投資が科学界に行われてきた結果だと思っています。そこからは人材の養成にコストをかける考え方は出てこないと考えます。
Commented by 振り出しに戻すのですか? at 2009-12-02 00:19 x
これまでも科学は景気対策の性格を帯びた投資をされてきましたが、表向きにはもちろんそのようなことはあからさまになってはいませんでした。

科学にお金を持ってくるための、日本人に一番有効な説得の方法は、「海外の一等国に比べて日本はこんなに野蛮である、したがって何とか頑張って恥をかかない程度にしなければ国際的に馬鹿にされる」というロジックで了解を得ることで、本当にちょっと前まで科学の基本政策(基礎科学重視、ノーベル賞重視)はこのロジックにのっとっていたのです。このロジックは日本の文化では有効に働いてきましたが、前提として日本国民に「恥」の感覚がなければ機能しませんので、多数の日本人が恥をかなぐり捨ててしまった今の状況ではこの方法はもう望み薄でしょう。
Commented by 残念! at 2009-12-02 09:59 x
インプットがいらないとはいえないが、日本経済の8割は内需で動いてる。内需が動かなければ景気回復はないし、税収もないし、科学への投資もないんですよ。もう少し恥を知ってください。
Commented by 一読者 at 2009-12-16 21:03 x
スパコンは復活したとの報道ですね。
圧力団体の勝ちですか。
バーターで文部科学省が削減する要求50億円分はどこに当たるんでしょうねぇ。

sankei.jp.msn.com/economy/finance/091216/fnc0912162032018-n1.htm

Commented by stochinai at 2009-12-16 21:31
 これで議論が収束するのだったら、せっかくの事業仕分けも骨折り損のくたびれもうけ、元の木阿弥になってしまいますね。
by stochinai | 2009-11-30 22:28 | 科学一般 | Comments(16)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai