5号館を出て

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「新しい高校生物の教科書」10刷

 昨日、はがきが届きました。
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 初版が2006年1月20日なので約4年経ったことになります。生物学を教えていると、大学1年生のクラスにだいたい数名ずつ中学生や高校生あるいは予備校の時に読んだという学生がいるのもうれしいことです。

 さすがにまだ内容的に古くなったというようなところはあまりありませんが、手首や足のあるサカナの化石が発見されて手足は両生類ではなくサカナの時代に進化したことが明らかになったり、トリが間違いなく恐竜のグループから進化してきたことが確認されたり、翼を持った恐竜の羽毛の色が特定されたり、ヒトへとつながる類人猿の化石の解析がどんどん進んだりと、この4年間だけでも脊椎動物の進化については面白い話題が続々と出てきているので、そういうものを盛り込んだ教科書があっても良いというふうには思います。
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新しい高校生物の教科書 (ブルーバックス)

 生物学は試験科目になってしまうとおもしろさが半減、あるいは10分の1くらいに激減します。生物学という学問の性質上、おもしろさを保ったまま最先端の研究現場に近づくこともできるのですが、研究内容を試験問題にまで昇華させようとすると、あらゆるおもしろさをそぎ落とすことを要求されてしまうのが現実です。うっかり、おもしろさを保ったまま入試問題を作ってしまったりすると、受験生の背後にいる高校の先生などからいっせいにブーイングを受けてしまいますので、なかなか冒険もできません。もちろん、その背後で文科省も目を光らせていますので、学生選抜の現場にはなかなか「おもしろさ」を導入できないのが現実です。

 それが、たくさんの才能の芽をつみあるいは、才能が逃げ出してしまうということの原因になっているということを証明することが難しい以上、この制度はなかなか変わらないだろうと思います。

 そうであるならば、正面戦ではなくゲリラ戦で生物学のおもしろさを若い人に伝え、彼らの中からもゲリラのように研究現場に潜り込んでくれる後継者を育てる工作が必要なのかもしれません。

 その先に夢や希望を持てないという気分が蔓延してきて、実は今後継者となる人材供給が途絶えようとしていることに気づき、危機感を持っている研究者があまりにも少ないことに、私は非常なる危機感を覚えています。

 このまま放置すると、20年後には大学などの教育研究機関は砂漠化しているだろうと予言しておきましょう。地球温暖化よりもずっと早く訪れる危機です。
Commented by 今回は匿名で at 2010-02-10 16:13 x
まずは増刷おめでとうございます。こんな地味なタイトル(失礼)で10刷、というのは凄いですね(中学時代に読んだという学生はいるのはさすが北大生)。入試問題にすると「おもしろさが1/10になる」というのも賛成です。とにかく制約が多すぎます。それもどんどん酷くなっているように思っています。もう少し自由に出題させてくれないでしょうかね・・・。なんかのCMみたいですが、「答えが1つでなくてもいいじゃないか」という感じの問題が許されればちょっとはマシになるように思うのですが・・・。
Commented by stochinai at 2010-02-11 15:34
 さすがに「教科書」の根強い需要を実感します。やっぱり入試が変わらないと、それ以前の教育体制は変わらないでしょうね。答はひとつだけであって欲しいというのが、受験生側も持っている要求であるというところも悲しい現実ではないでしょうか。
by stochinai | 2010-02-09 21:17 | 生物学 | Comments(2)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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