5号館を出て

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島岡要、J.A.Moore著 「研究者の英語術」

 「ハーバード大学医学部留学・独立日記」でおなじみの島岡さんが、「研究者の仕事術」に続いてまた本を出されました。うれしいことに、今度も羊土社から著書を送っていただきました。ありがとうございました。
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 ハーバードでも通用した研究者の英語術―ひとりで学べる英文ライティング・スキル

 もちろん英語を勉強する必要がないほど熟達しているわけではありませんが、私個人としてはいまさら英語を勉強しても It's too late ということで、もしも贈呈していただかなければ自分で購入したかどうかは微妙ですが、生物・医学系の研究者を目指そうという学生・大学院生・ポスドクだったら、絶対に読みたくなるタイトルですね。

 科学研究は基本的に世界が相手の世界ですから、世界共通語で挑んでいかなければ、ほとんど認知すらしてもらえません。もちろん、いまだにアクセスが結構ある私のブログ記事「ほんとうにスゴイ論文は日本語で書いても外国で読まれる」に書いたようなことも起こりえますし、ノーベル賞をとられた益川先生などは「英語は嫌い」とうそぶいておられましたが、これから研究の世界に入ろうという若い研究者が英語を拒否するということは、研究者になることを否定していることと同義です。

 今の日本の教育システムでは大学を卒業するまでに、なんと10年も英語を学んでいるにもかかわらず、「英語が苦手」という人のほうが圧倒的に多いという状況です。最近は、せめて外国人と英語でコミュニケーションがとれるくらいの人を増やすために小学校から英語を教えようという動きもあるようですが、10年教えてもだめなものを13年くらいに延ばしたところで根本的な解決がはかられるとも思えません。

 というわけで、英語を学ぶためにダブルスクールとして英語学校にいっている人も多いようですが、島岡さんは、英語の口頭コミュニケーション能力は学校や外国あるいは英語以外を使ってはいけないような「場」に身を置く以外、上達は望めないと断言しています。私もおおむね同意しますが、逆にいうと、そういう場に身を置くと、会話能力は意外と簡単に身につけることができるのもまた事実だと思います。(歳をとってからでも、大丈夫という感触もあります。)

 さすがに、大学まで10年間も主に読むことを中心に教育が行われているせいもあって、日本人(研究者およびその卵)の多くは英語を読む力を持っている人は多いのです。実は、読む力が十分についていれば、話したり書いたりすることは、あとひとふんばりなのでしょう。

 ただし、英語会話に関しての問題は英語力の問題というよりは、コミュニケーション能力の問題だと私は思っています。そこで、小学校から英語を教えるよりは、まずは日本語でのコミュニケーションの仕方を教え、大学生になっても教室で質問が出てこないなどということがなくなるようになれば、おそらく英会話教室などの助けを借りることなく、ほとんどの人は英語でコミュニケーションができるようになるのではないかというのが私の持論です。

 脱線してしまいましたが、島岡さんはこの著書の中で英文ライティング・スキルの上達法を、日本にいる後輩研究者達に教えてくれています。科学論文は基本的に英語で書かなければならないという需要があるせいか、日本では毎年のようにたくさんの英語で科学論文を書くための参考書が出版されています。私もかなり入手しましたが、読み通した本はほとんどありません。必要に迫られて眼前にある課題を乗り越えるためだけに読むことが多いので、どうしても読み散らかしてしまうと同時に、どんどん出てくる新しい本にまた手を出してしまうということを繰り返してきました。

 この本では、そうしたいわゆる「論文の書き方」のすべてを指南するという、書き手にとっても読み手にとっても労多く得るものが少ないものになることを避け、論文に関連したものとしてはもっとも重要なアブストラクトとカバーレターの書き方だけに絞り、それ以外の研究生活関連のものとして、外国人研究者に送るメールの書き方、英語でのプレゼンテーション原稿の作り方、そして海外での就職の際には必須となる推薦状と履歴書(CV、レジュメ)の書き方などを実践的に紹介しています。

 この中で推薦状だけがちょっと異色ですが、私は推薦状を書く時にはしばしば被推薦者の研究者にどんなことを書いてもらいたいかを書いた自薦状を送ってもらい、それを参考に推薦状を書きます。若い研究者の方々ももしも誰かに推薦状を書いてもらいたいならば、どういうことを書いてもらいたいのかという自薦状を「参考書類」として推薦を依頼する方に送るのが礼儀でありまた効率的でもあると思いますので、そういう意味ではここに推薦状の書き方があるのは、大いに納得してしまいました。

 最後に言わずもがなですが、この本に込められた「隠しメッセージ」についても触れておきましょう(笑)。それは、たとえ「バーバードでも通用」している島岡さんと言えども、こうした「英語を書く本」の執筆はひとりでやり抜いていないことを見てもわかるように、正式な英語の文章の最後の仕上げは Native speaker さらには Native writer の助けを借りるべきだということだと思います。

 さすがに島岡さんくらいになると必要ないのかもしれませんが、私たちは今でも英語論文は最終バージョンができあがったら Native の英文校閲者に査読してもらって訂正したものを投稿しています。もちろん、日常的なメールやCVなどまで校閲してもらう人は少ないかもしれませんが、我々のような英語を話さない言語圏の人間の英語力はその程度くらいまで上達すれば良いのだという「あきらめ」も、また必要な「英語術」なのかもしれません。

 というわけで、今回の本も島岡さんにあこがれるすべての若い研究者は、とりあえず書店で一度手にとってみるべきだと思います。ただし、いつもながら羊土社の値付けは、プアな研究者フレンドリーではないので、買うかどうかは立ち読みをしてから決めてもいいかもしれません(笑)。
Commented by ぢゅにあ at 2010-04-04 04:56 x
中学高校と6年も英語をやってるのにという話がよくでるが、1日50分の授業で換算すると、丸1年にもならない。英語を話せるようになる訳がない、という話を何かで聞いたことがあります。
自薦状、夫も推薦をお願いするときは必ず書いてました。それはもう自分のことをよくこれだけ褒められるものだなあ、と。謙遜を美徳とする日本人には絶対マネできないでしょうね(笑。どんなに英語ができるようになってもNativeにはなれっこない、となんだか吹っ切れたのを思い出します。
Commented by 島岡要 at 2010-04-04 06:40 x
stochinaiさん、
書評ありがとうございました。
Commented by さなえ at 2010-04-04 10:36 x
日々意味不明な日本語及び英語で苦労している身としましては(明らかに日本人による英語の和訳という依頼も来るのです)、英語で書かれるときにお願いしたい点は、きれいな英語を書こうとせずに、1sentenceには意味することを1点のみ、つまり、複文を作らずに、格好良く見えるような飾りもつけようとせず、主語と動詞と述語だけはっきりさせた短い文を書いていただきたいことです。兎に角、明確に、シンプルに、伝えたいことを伝えることだけに専念していただきたいです。
Commented by stochinai at 2010-04-04 16:17
 「伝えたいこと」があることが前提で、次にはそれを「伝える相手」が誰かということですね。英語が登場するのは、「たまたま」その相手が英語しか受け付けてくれないからだと考えると、問題は英語ではなく「誰に何を伝えたいか」というコミュニケーションだということがはっきりします。

 日本人がコミュニケーションが下手だと言われるのは、「空気」だとか「言わなくてもわかってくれる」というオカルト的手段に頼っていることにも一因があるのではないかと思います。もちろん過剰宣伝は後悔を生む原因にもなりますが、自分を売り込むのに謙遜していたら相手にすらしてもらえないのが国際化というものなのかもしれません。

 というわけで、「国際化教育」は単なる英語教育ではいけなくて、コミュニケーション教育であるべきなのではないかと感じています。
by stochinai | 2010-04-03 16:53 | 科学一般 | Comments(4)

ふと咲けば山茶花の散りはじめかな        平井照敏


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