5号館を出て

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水月昭道「ホームレス博士」

 昨日、大学に送られてきました。ありがとうございました。早速読ませていただきました。
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ホームレス博士 派遣村・ブラック企業化する大学院 (光文社新書)

 目次より

 第一部 派遣村・ブラック企業化する大学院

 第二部 希望を捨て、「しぶとく」生きるには

 対談 大学院に行く意味を考える 鈴木謙介 x 水月昭道

 第一部は巷で繰り返されている、「博士残酷物語」です。このパートは、この問題に感心のある方々にはもう耳にたこができるほど聞かされていることが描かれており、これでもかという感じで読まされるのは、正直言って少々つらいところがありますが、大学院というところや、博士のその後についてのイメージを持っていない方々(特にこれから進学を考えている人々)には必読の部分です。
 繰り返すが、東大卒で六〇パーセントが無職。これが、我が国で最高学歴の証たる「博士号」を持つことの真実だ。

 すでに、優秀な学生ほど、活躍の場を失うというパラドックスが生まれている。

 信頼を寄せることができる最後の砦であった教育機関ですら、その職責を放棄するなかで、すでに寄りかかれるものはどこにもないことを、私たちは覚悟すべきかもしれない。とすれば、自分の思考力や判断力を鍛えていかねば、サバイバルなど無理である。
 第一部の最後の結論はあっけないほど明快でもあります。
声を出すこと。そうしなければ、何も変わらないこと。
 第二部は重たいエピソードがいくつも出てきますが、私がそこから読み取ったことは、大学院や博士などといった学歴や資格から、「自分から卒業していくこと」の大切さです。誰かに認めてもらうことからの卒業とも言えるかもしれません。納得できれば自信につながりそうでもあります。

 第三部は水月さんと後輩の鈴木さんという方の対談なのですが、これがすこぶるおもしろく元気が出ます。この章を読むためだけでも本を買う価値があります。鈴木さんの言葉を少し引用します。
大学院に入ったらトップスターを目指せ、それに失敗して路頭に迷っても、それは自己責任だ、っていうんじゃ、人材の活用という面から見てもあまりに非効率だし、そんな状況で斬新なアイディアなんか出てくるわけがない。

大学院には、特殊な価値観が形成されていて誰もがそれを疑わない。それどころか、指導教官や先輩から、大学院での“正しい”生活のあり方がいつも教化されています。(洗脳ですね-stochinai)

 まずは、自分の指導教員の影響から離れる努力をしてみる。「自分」をとりもどすということです。良いところも悪いところも、強みも弱みも含めてほんとうの自分の姿を鏡に映してみること。その上で、欠点や弱点を知恵や工夫でどう再活用できるか考えてみること。とくに、大学以外で通用させる--金を稼ぐ--ことにどう転用できるのかを柔軟に“発見できる”環境をつくりあげること。
 というように、サバイバルの哲学や直接役に立つノウハウなども含めて、たくさんの有益な「言葉」が満載です。

 もちろん、読む人の過去や現在置かれている場所によって、強く響いてくる箇所は違うと思いますが、少なくとも大学院と博士という点で重なるところのある人には文系理系を問わず響いてくるものが多い内容の本だと思います。

 15年ほど前に、ポスドク等一万人支援計画が出され、Natureが紙面でその政策を非難した時、私は大学院生向けの講義の中で家庭医という意味の「ホームドクター」をもじって、「ホームレスドクターにならないために」という話をした時には、半分冗談のつもりだったのですが、その後も状況はそのまま突っ走って、「ホームレス博士」がタイトルになる本が出てしまうという状況がほんとうにきてしまいました。

 現在、大学院進学、特に博士後期課程への進学には躊躇する学生が増えてきていますので、大学院の進学を考えている多くの若者にとって、この本に書かれているようなことはある程度実感されているのだとは思いますが、頭の中を整理するという意味においても、一度じっくりと読んでみて損はない本だと思います。

 値段も、読者の幸運を祈って777円となっているのも、悪くありません。
by stochinai | 2010-09-14 19:29 | ポスドク・博士 | Comments(0)

日の暮の背中淋しき紅葉哉            小林一茶


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