5号館を出て

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コンピューターに殺されたタイプライター

 大学院に入学した時に、入学祝いにオリベッティのタイプライター(もちろん手動のもの)を買ってもらったことを思い出しました。当時は大学院に入ったら、日本語はほとんど使わなくなり、あらゆる公式な論文はたとえ修士論文といえどもすべて英語で書かなければならないということになっていたので、大学院生はおそらく全員がポータブルのタイプライターを持っていたと思います。

 しばらくすると、電動タイプライターというものが出現して、それまでの重いキーとは比べものにならない軽さに感動したものですが、値段が高かったため個人で持っている人はそれほど多くなかったと思いますが、研究室には「清書用」のどっしりとした電動タイプがあったものです。

 そうこうしているうちに、電動タイプがどんどん進歩して、調べてみるとずいぶん前からあったものらしいのですが、IBMのセレクトリックという電動タイプが研究室に導入されました。これは印字部分がゴルフボールのような形をしたタイプボールという構造になっていて、それを交換することで、フォントを変えることができるという優れものでした。
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 1970年代には大活躍をしたこのボールたちですが、先日なんとゴミ箱に捨てられているのを発見して、思わずいくつかを拾ってきてしまいました。プラスチック製なのですが、金属光沢を持ったなかなかカッコいいデザインだと、今見てもそう思います。
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 少し遅れて、オリベッティが放射状に活字が並んだデイジーホイールという同じように交換可能な機種を出していましたが、ほぼ同じようなクオリティの印字が可能だったとしても、IBMマシンの軽快なダンスを踊るような印字には(少なくとも私の気持ちの中では)遙かに及ばなかったと感じていました。

 なんと、その懐かしのセレクトリックが印字する様子がYouTubeにありました。この音とともに、その軽やかな動きをお楽しみください。30秒頃から1分頃の画面にあります。



 続いてデイジーホイールの印字の様子も出てきます。こちらの方が静かで品が良いとも言えますが、勢いのあるセレクトリックはやかましいのにそれがそれほど気にならず、そのすべてが当時の怖いものがなかったアメリカを象徴しているようで、今でも忘れられません。

 この後、セレクトリックは印字をはがして消し去る機構に続き、数10文字を記憶して逆戻りしながら魔法のように消す機構を装備してくるのですが、コンピューターの中に住むバーチャルなタイプライターとしてのワードプロセッサー(今はなきWordStarという名前に郷愁を感じる人は同年代)にあっという間に駆逐されてしまいました。

 技術は技術に殺されるのが宿命なのでしょう。逆に言うと技術を越えたものがあれば、生き残る可能性があるということだと思います。レコードは日本ではあっけないほど簡単に消え去りましたが、欧米ではまだ生き延びています。印刷された本はどうなるでしょうか。日本人の本に対する文化観が試される時なのかもしれません。

 どうなるのか、ちょっと楽しみですが、かなり怖くもあります。
Commented by 週刊金曜日な日々 at 2010-10-19 22:55 x
この丸い印字ボールは、刑事コロンボ「魔術師の幻想」で、事件解決の糸口になっていましたね。。。
Commented by stochinai at 2010-10-20 14:14
 その話は初耳でした。向こうでは、どんなオフィスにもあるポピュラーなタイプライターですから、推理ドラマには使いやすいアイテムなんでしょうね。
by stochinai | 2010-10-19 19:17 | コンピューター・ネット | Comments(2)

日の暮の背中淋しき紅葉哉            小林一茶


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