5号館を出て

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ボアの奇妙な単為生殖

 日本のマスコミではあまり取り上げられていないようですが、海外マスコミではBBCを初め科学系のメディアでは興奮気味に伝えています。やはり、キリスト教圏では「処女懐胎」がネタになりやすいということなのかもしれません。
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 こちらはBBC Earth NEWSの写真です。色素パターンが母親と同じ白とブラウンという特徴が見られるようです。

 Snake gives 'virgin birth' to extraordinary babies
 ヘビが「処女懐胎」で驚きの子ども達を生んだ

 もうひとつはScienceDailyのScience Newsです。

 Boa Constrictors Can Have Babies Without Mating, New Evidence Shows
 新しい証拠によると、ボア・コンストリクターは交尾なしに子どもができることがわかった

 最近は世界中の動物園の生物学的レベルが上がってきたこともあって、きちんと管理された飼育条件のもとで脊椎動物の無性生殖が続々と報告されるようになってきました。

 今回も、ペットショップの人たちとノースカロライナ州立大学の共同研究のようですので、事情は同様だと思われます。結果は論文としてオンラインで発表されています。
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 爬虫類では単為生殖しかしないトカゲやヤモリがいたり、数年前にはロンドンでコモドドラゴンが単為発生したりということで、オスなしの発生はそれほど珍しいことではないのですが、今回のケースはその内容がちょっと珍しい感じです。

 コモドドラゴンの時に話題になりましたが、爬虫類の多くは性染色体がZW型といって、我々ヒトとは逆でオスがホモのZZ型でメスがZW型です(ヒトではメスがホモのXX型でオスがXY型)。ZW型のメスが作った卵が単為発生で子どもになると、子どもの性染色体はZZとWWになることが予想されます。WW型の動物は自然にはおらず普通は死んでしまうので、爬虫類が単為発生すると子どもは全部ZZのオスになると信じられています。実際、ロンドンで生まれたコモドドラゴンの場合はそうだったようです。

 そこで当然、今回のボアの場合もそうなのではないかと予想されていたのですが、2回の単為生殖で生まれた子はすべてメスでした。ただ、残念ながらボアでは性染色体を見分けることができないために、外部生殖器と解剖して卵巣の存在で雌雄を確認しただけですが、すべてメスだったということです。

 遺伝子を検査してみると、子ども達は一緒に飼育されていた4匹のオス(なんと!)の遺伝子はまったく受け継いでおらず、すべての遺伝子が母親から受け継いだものだけがホモの組み合わせになっていることがわかりました。
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 ということは、この子ども達は卵細胞と2回目の減数分裂の時に放出された卵と同じ遺伝子を持っている極体が合一して2倍体になってできたことが推測されます。
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 こうして子どもが作られる方法をautomixis(図の出典はこちら)と呼ぶのですが、この方法で子どもが発生したということは、性染色体もホモになっているはずで、それでオスが出ないということはこの母親はZ染色体を持っていないWO型の性染色体を持っている個体だと推測されています。

 ということは、生まれたメスの子ども達の性染色体は、今までの常識をくつがえして死ぬと考えられていたWW型に違いないということになりました(もちろんOO型は死ぬはずという前提です)。

 この母親は今までに、一緒にいたオスとなんと「有性生殖」によって子どもを作ったこともあるという「つわもの」だそうで、この写真の左にはそうして有性生殖でできた子どもと、今回の単為生殖でできた子どもが並んで写っています(写真はScienceDailyより)。
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 要するに生物はいよいよとなったらオスなしでどんなことをしてでも子どもを生き延びさせることにトライするということなのかもしれません。

 「常識」はくつがえされるためにあると考えると、ヒトを含むほ乳類は自然状態では単為発生しないということになっていますが、遅かれ早かれ発見されるかもしれませんね。
by stochinai | 2010-11-04 19:48 | 生物学 | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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