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パンダが肉食を捨てる原因となった決定的遺伝子変異が起こった時

 今年の初めにジャイアント・パンダのゲノム解析の結果が発表された時に、彼らの肉の「旨味」を感じるレセプタータンパク質の遺伝子が壊れていることがわかったことと、彼らの持っているタンパク質分解酵素などは肉食のクマとほとんど違いがないことから、彼らが肉食から草食(笹食)に変わった決定的原因は、この旨味レセプターの変異だったことが推測されています。
パンダが肉食を捨てる原因となった決定的遺伝子変異が起こった時_c0025115_239581.jpg
 (C) photoXpress

 今日のNewScientistに短いながらも、そのことに言及した記事が出ていました。

 How the giant panda lost its taste for flesh
 ジャイアント・パンダはどのように肉の旨味を感じなくなってしまったのか


 それによると、肉の旨味を感じるUmami受容体を構成するタンパク質を作るTas1r1という遺伝子が、パンダの祖先でおよそ420万年前にその働きを失うような変異を起こしたということです。化石の記録から、パンダが部分的な草食になったのが700万年前で、200万年前くらいになると完全な草食へと移行(進化)したと推測されていたのですが、旨味遺伝子の変異が420万年前に起こったという結果はそれと整合するものです。

 このことを書いた論文が出ていました。(オンラインでは夏頃から出ていたようです。)

Molecular Biology and Evolution Volume27, Issue12Pp. 2669-2673

Pseudogenization of the Umami Taste Receptor Gene Tas1r1 in the Giant Panda Coincided with its Dietary Switch to Bamboo

ジャイアント・パンダにおける旨味受容体遺伝子Tas1r1の偽遺伝子化は彼らがその餌をササに換えたとされる時期に一致している

Huabin Zhao, Jian-Rong Yang, Huailiang Xu and Jianzhi Zhang


 その論文の中にある系統樹がこれです。
パンダが肉食を捨てる原因となった決定的遺伝子変異が起こった時_c0025115_23101238.jpg
 イヌやネコを含む肉食類の簡単な系統図の一番上に、ホッキョクグマとジャイアント・パンダが分かれたのが1900万年前、そしてパンダが草食に変わり始めた700万年前、さらに完全に草食になったのが200万年前と描かれています。この論文の研究で遺伝子の変化を解析した結果、旨味遺伝子は1000万年前から130万年前のどこか、おそらく420万年前頃に遺伝子が機能しなくなったと推測されています。

 この遺伝子変化が起こらなければ、今でもパンダは肉食を含む雑食クマだった可能性があるというわけです。

 ご参考までに、こちらに掲載されているクマの系統樹がわかりやすかったので、引用させていただきます。
パンダが肉食を捨てる原因となった決定的遺伝子変異が起こった時_c0025115_23101030.jpg
 これを見ると、ヒグマとホッキョクグマがまだ種としては完全に分離しきっていないという話もよくわかります。また、パンダは大型クマの中ではやはりかなり遠いところにいることも良くわかります。

 ちなみにこの「旨味」という味覚は、「甘味、苦味、塩味、酸味」しか知らなかった西洋人にはなかなか理解されなかったものですが、1908年に日本人によってグルタミン酸の味覚が世界中のヒトにあることが証明されてから味覚として認知されるようになったもので、英語でもUmamiと呼ばれています。
by stochinai | 2010-12-05 23:41 | 生物学 | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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