5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

ツリー・オクトパス騒ぎ

 このウェブサイトをご覧ください。太平洋の北西沿岸地方で発見された tree octopus (樹上生活生のタコ)を絶滅から救おうというホームページになっています。
c0025115_20554220.jpg
 ネットで tree octopus を検索するといくつかの写真とともにこのサイトがトップで出てきます。

 子ども達に学校の先生が、最近「tree octopus」という生物が発見されたのだけれども調べてきてくれないか、という宿題を出したところ子ども達はネット検索でこのページを発見し、もちろん信じ切ってたくさんのレポートを出してくれたのだそうです。Googleの画像検索でも tree octopus の写真は山ほど出てきます。
c0025115_2134435.jpg
 もちろん、さらによくネット検索をすれば、ウィキペディアでこの話がでっち上げであるという情報も見つかりますので、ネットには嘘しかないという言い方もまた嘘であるということになります。 Pacific Northwest tree octopus: Wikipedia

 実はこのサイトはもう10年以上も前に作られていたものだそうで、先週からの tree octopus をめぐって「デジタルネイティブのネット・リテラシーに問題があることがわかった」という騒ぎはあるプレスリリースに乗せられて、マスコミが大々的に報じたということらしいのですが、ちょっと調べればこのサイトが前からあることも、またこのウェブサイトを使った同じような実験は2006年や2007年にも行われて、同じような結果が得られており、何も最近のデジタルネイティブの子ども達に新たに生じている問題というわけではないということもわかります。

 Researchers find kids need better online academic skills by Beth Krane - November 13, 2006

 というわけで今回の騒ぎはむしろ子ども達というよりもジャーナリスト達の問題であり、彼らが新しい情報(プレスリリースなど)に接するとすぐにネット検索をして、そこに関連情報があるとあっさりとそれを信じてしまう状況になってきているということを心配させるエピソードなのではないかという記事が出ていました。

Press release reveals journalists believe everything they see on the Internet (PHYSORG.com)

 上の2006年の記事にあるように、これは全然ニュースになるようなものではありません。昔からこの件について実験を重ねたり、熱心に教育をしてきたコネチカット大学のD.J.Leu教授が1月末におこなった講演の中で、インターネットを正しく使いこなすためにこの tree octopus のサイトや、dog island のサイトは、ある意味で「良い教材」になるということで引用したものが、あたかも教授が子ども達を教育するために作った偽サイトであるかのごとく誤解したのはマスコミのほうだったというお粗末だったようです。

 子ども達を心配する前に、まずはマスコミは自分のことを心配した方が良さそうということでしょうか。
Commented by ぢゅにあ at 2011-02-10 05:56 x
たこ足のピンクリボンがリアルです。
ところで、このお話で以前紹介されていたMega spiderを思い出したのですが、あれは本当だったんでしょうか?
Commented by さなえ at 2011-02-10 09:14 x
>ジャーナリスト達の問題であり…あっさりとそれを信じてしまう
ジャーナリストでさえもということなのでしょうね。私を初め一般人は大々的にマスコミで報道されたものや、ウェブで話題になっているものをまず信じてしまうことが多いでしょう。まず疑ってかかるへそ曲がりな私ですが、もしかしてそういうことがあるかもと思いはじめるとすべてをそれに当てはめて考えるようになりかねません。
ツリー・オクトパスのようなまさかという物ならともかく、もしかしてあり得るかもという類の、直ちに証明できない事柄や出来事はよほど心してかからないと自分がデマの発信源となるコワイ時代です。科学者、その道のプロで懸命に火消し役を果たすボランティアが大量に必要になるかも
Commented by stochinai at 2011-02-10 10:30
 ぢゅにあさん。あのクモの話の続編は聞きません。実は再発見はなかったのかもという気もしますが、それでも過去には実在が確認されていたものなので、空想のものを信じるというのとはちょっと違うかもしれません。

 ぢゅにあさんもご存じだと思いますが、ネット時代になる前から本が出ている「鼻行類」の話を信じる大学生は今でもいますので、この手の話はネットというよりも、いかに情報を扱うかという一般的なリテラシーの問題なのだと思います。

 さなえさん。基本的に「へそまがり」という資質はこういう問題に直面した時にはとても貴重だと感じます。

 基本としては、問題毎に「その道の専門家」の意見を参照するということだと思いますが、その前に「専門家」の真贋を見分ける必要があるので、ちょっと堂々巡りっぽくなりますね。
Commented by beachmollusc at 2011-02-24 09:57 x
ミクロネシアのパラオ島には樹上で仔を産むタコがいるという話があります。

海洋生物と漁業関連の民話を古老などから聞き取って、著者がそれを海洋生物学者として実地検証し、記録を書き残したものです。
Words of the Lagoon: Fishing and Marine Lore in the Palau District of Micronesia
by R. E. Johannes
University of California Press, 245 pp.

この著者はサンゴ礁魚類の繁殖生態などについてよい論文を残しています。彼の生前にパラオやグアムで何度も会って話をしました。ニューカレドニアの国際会議の時に一緒にフィールド旅行したのが懐かしい思い出です。
http://www.pewmarinefellows.org/fellows/rjohannes/fellows-dir-profile.php?pfID=3602

樹上繁殖するパラオのタコの話について、地元民の証言がリアルなので無視することもできず、Johannesはその裏づけを得るためにかなり頑張ったが結局証拠は得られなかったとのことです。ヨタ話で担がれた可能性は否定できませんが、全否定ができなかったので、この話は伝承として書き残されています。
Commented by beachmollusc at 2011-02-24 09:58 x
Many Palauans say they have seen octopi climbing trees in the mangroves. Many of the old men I talked to throughout the islands said that they had witnessed this event several times during their lives. Most of them said that the octopus climbed the urur tree, Sonneratia alba, up to a point several feet above water level, where a ring of ferns typically grows out of the trunk. Here, to make the story even more bizarre, the octopus is said to give birth to several dozen babies, which soon crawl down the tree and into the water, being preyed upon by birds and crabs as they do so.

タコ類は知られている限り「卵生」ですので、ジョハネスはこの話に否定的ですが、熱帯の生態はびっくり話が出てきてもおかしくない世界です。モノマネや二足歩行のタコが発見されたのはごく最近でした。
Commented by stochinai at 2011-02-24 18:37
 beachmolluscさん貴重な情報をありがとうございました。これがおそらく例のサイトの元ネタではないかと想像されます。確かに樹上で(卵ではなく)子を産むタコというのは話が大きすぎますが、一時的にマングローブの木に登るくらいはやるのではないかと思います。といいますのは、私は北海道にいるミズダコが岩の上を歩いて(走って)いるのを見たことがあり、その素早い動きから短時間なら陸上の移動も可能だと確信しました。というわけで、サメなどに追われたタコが一時的に木に登るところが目撃されたことに尾ひれがつくと木の上で繁殖するタコの伝説ができあがるのはそれほど不思議はない気がします。
by stochinai | 2011-02-09 22:05 | コンピューター・ネット | Comments(6)

ひとくきの 白あやめなり いさぎよき     日野草城


by stochinai