5号館を出て

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独裁者も大多数の国民の意志には逆らえない

 さすがのムバラクも最後のテレビ演説をしても国民が納得しなかったことを悟り、退陣を決断せざるを得なかったようです。
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 正式な選挙などを経ずに政治体制が崩壊し、新しい体制ができようとしているのですから、これは間違いなく「革命」と呼ぶことがふさわしい出来事です。とは言っても、まだ新しい体制が確立したわけではありませんので、第一章「政権崩壊」までしか進んでいません。

 また、事実上の「無血革命」とは言え、正式な数ではありませんが300名くらいの犠牲者が出ているという情報もあり、やはり独裁政権を倒すということは、それほど簡単なことではないということもわかります。

 どこの国でも大きな広場をうめつくすほどの数の国民が、いつまでも引いていかない状況が続くということは権力者によっては恐ろしいことですから、独裁国家ではほとんど例外なく国民が自由に集会をすることを禁止しています。それを破って人が集まり出すと、初期の段階で強い弾圧をするものですが、たとえそうした序盤の弾圧で犠牲者が出たとしても人々が集まるのを止めることができなくなっている場合には、国家としてはかなり危機的状況にあるということが内外に露見してしまいます。

 そうした状況においても、権力が軍隊を完全に掌握している場合には、たとえ多くの犠牲者が出たとしても徹底的に弾圧することができるケースもあります。中国の天安門事件などはそのようにして弾圧が成功した事例と言えるのかもしれません。

 独裁政権に対する政権交代は選挙という制度がないので、このような「革命」あるいは「クーデター」という手段を取らなければならず、その際にはどうしても犠牲者が出てしまうことが多くなります。犠牲者が出る理由は、政権を守ろうとする独裁者側と、政権交代をさせようとする国民側の間に政権交代のためのルールがないので暴力的に意見を通すしかないからです。

 民主主義と独裁政治との決定的違いは、選挙などという平和的手続きで政権交代が可能かどうかというところですが、独裁政権は独裁こそが最善の政治体制だと信じていますので、それを自ら放棄する手続きがないのは当然と言えば当然です。

 話が飛躍するように思われるかもしれませんが、大学も含め企業などの組織は基本的に独裁政権と同じ構造を持っています。つまり、経営側という権力が会社あるいは大学という国家に加わるメンバーを許諾する権利をすべて持っており、さらにその中から次の権力を担うメンバー(大学ならば教員や経営陣)を選ぶ際にも、基本的にすべての決定権を握っているのは経営者側です。雇用者は不当な解雇に抵抗する権利を有する場合もありますが、組織の中で個人の意志だけでできることといったら基本的には退職することくらいしかありません。もちろん社長や学長の交代を要求する権利などは持っていません。そういう状況で、会社や大学を変えようとするならば、その手続きは「革命」しかないのかもしれないと、ここ数日の「エジプト革命の実況中継」を見ながら感じております。

 そういう意味では、学生や若手教員が大学を占拠して大学や国家にさまざまな要求を突きつけた1970年前後の活動は、(結果的には失敗しましたし、それによる後遺症はいまだに続いているという声もありますが)大学という権力をボトムアップで変える手段としては意外と正しかったのかもしれないという気もします。

 ただし、このボトムアップ「革命」が成功するための絶対的条件があります。それは、大多数の構成員が賛同して「広場に集まること」です。その条件があるのならば、会社でも大学でも「革命」は可能だと思います。

 さて、今の大学は革命前夜と言えるでしょうか?
Commented by まだまだ at 2011-02-13 01:04 x
強力なリーダーシップという号令の下、独裁国家が作られました。その実態は、中期目標・中期計画と各種の評価制度によりコントロールされる傀儡政権でした。これが「国立大学」から「文科省立大学」に変貌を遂げた法人化事件でした。

まさに、この構図は崩壊したムバラク政権と同じですね。

大学革命はまだまだ先でしょうか。
Commented by 大学革命 at 2011-02-13 12:23 x
国の財源に頼ってる限り不可能でしょう。
Commented by stochinai at 2011-02-15 07:24
 「実況中継」を見ていると、「革命」というものは大多数の構成員が路上に集まるだけで達成されるものかもしれないと思えてきます。しかし、そのためには明確な「敵」が必要です。今の日本の大学では「圧制者」が目に見える形でいないように思われます。どの権力をすげ替えたら良いのかわからなければ、人々は道路に出ないでしょう。
Commented by 甘すぎ at 2011-02-15 19:42 x
イギリスやイタリアでは大学の学費大幅値上げや大学学部の廃止問題などで、かつての日本の学生運動さながらのデモが多発している。日本で将来起こりうることは大学の自治や学問の自由のための大学革命でなく、少子化・国の財政状況の悪化による大学の規模縮小・廃止問題をめぐる学生デモのほうでしょう。縮小するパイの中で社会が大学に求める機能と大学が求める機能をどうマッチングさせるかという議論をするか、社会保障費や防衛費を削って大学予算に回せというような議論になるのでしょうか。いずれにせよ権力の首をすげ替えると一夜にして解決する話ではないんでは。
Commented by stochinai at 2011-02-15 20:28
 私の感触としては、今の大学の状態だと、たとえそこまで追いつめられても,一致団結して戦うということはしないだろうと思っています。その結果、ずるずると国の政策に引きずられていくだけでしょう。ともかく利害関係を共有した(あるいは共有していなくとも)「連帯感」というものが一切感じられませんから。

 まあ、これは大学に限ったことではなく、「日本という国」がそのような状況にあるというふうにも感じられます。
Commented by 甘すぎ at 2011-02-15 23:03 x
>「連帯感」というものが一切感じられませんから。まあ、これは大学に限ったことではなく、「日本という国」がそのような状況にある。

 連合赤軍の結末や労働組合がイデオロギー色の強い反戦平和運動を行ったり、人権擁護活動にエセ同和が潜んでいたりしたから、社会運動に感じる「うさん臭さ」が広く一般に広がっているわけで、このあたりを克服しないと「連帯感を」出そうにもはじまりませんね。

 大学の話に戻ると、「国の政策に引きずられ」たくなければ、大学(の研究者)が自らの研究成果を元に政策提言をしていくしかないのではないでしょうか。大学の将来だけでなく、経済や社会問題、科学技術全般にもいえることです。国の議論に大学から提案されるアジェンダを載せることです。科学技術社会論の成果がエネルギー問題の議論のあり方に影響を及ぼしたり、公共政策や都市計画の研究成果が地方自治体の都市環境整備事業に活用されたりする時代です。サイエンスコミュニケーション(のありかた)だって国の科学技術の理解増進活動に影響を与えられるでしょう。そうすることによってステークホルダーとしての大学の地位が高まり、大学の将来に良い影響を及ぼすでしょう。
Commented by stochinai at 2011-02-16 09:45
>大学(の研究者)が自らの研究成果を元に政策提言をしていくしかない

 これは大学ぐるみでなければできないことではなく、個々人でもできることですし、これだけインターネットが発達してくるといろいろとルートを探れますので、とりあえずはここから蟻の穴をあけることでも考えてみます。ありがとうございました。
Commented by 逆では at 2011-02-16 15:43 x
自分の研究をもとに提言しても、研究者の我田引水にしかならんでしょう。まず社会問題をちゃんと議論して、それから研究プログラムを組むべきかと。
Commented by 甘すぎ at 2011-02-16 17:47 x
>自分の研究をもとに提言しても、研究者の我田引水にしかならんでしょう。まず社会問題をちゃんと議論して、それから研究プログラムを組むべきかと。

おっしゃるとおりです。研究者の我田引水な主張より、実証的な学術研究の成果にはそれなりのインパクトがあると思いますよ。
Commented by stochinai at 2011-02-16 18:27
 「自らの研究成果」をそれほど狭くとらえる必要はないと思います。

 自分の狭い専門分野を含もうが含むまいが、自らの研究活動の成果として広い世界的視野での科学観を持つことができなければ政策提言と呼べるものなどは提案できません。

 研究費獲得合戦のようなレベルの低いことを想定した話をしているつもりはなかったのですが、誤解を与えてしまったようでしたらスミマセンでした。
Commented by 逆では at 2011-02-16 20:22 x
世界的視野も結構ですが、まず足元の人間の生活を知らないと、ろくな政策は出てこないでしょうね。鳩山さんは世界も科学もご存知でしたけど、ああですから。
Commented by stochinai at 2011-02-16 20:35
 鳩山さんは、何もご存じなかったのだと思いますよ。
Commented by 逆では at 2011-02-16 23:51 x
東工大を出てスタンフォードでPh.Dをとり大学助教授をつとめても何もご存じない、というのが大学の知なのでしょうかね。
Commented by stochinai at 2011-02-17 10:18
 彼のせいで、東工大とスタンフォードが恥をかいたということだと思います。
Commented by stochinai at 2011-02-17 10:19
 でもまあ、自戒を込めて申し上げますが、博士や大学教員などといっても、それほどのものではないというのが多くの実態ではないかと思います。
Commented by 甘すぎ at 2011-02-17 17:50 x
ドクターの就職問題とか理系の地位向上にまじめに取り組んでる人から見たら、鳩山や菅のトンデモぶりには迷惑千万だね。
ちなみに鳩山氏の経歴は東大工学部卒、スタンフォードでPh.D、東工大助手、専修大助教授。専門はオペレーションズリサーチ
菅総理は東工大理学部卒。弁理士
by stochinai | 2011-02-12 23:42 | つぶやき | Comments(16)

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