2011年 04月 12日
ブラインド・ケイブ・フィッシュの不眠症は収斂進化
メキシコの洞窟に住み、真っ白で眼のないブラインド・ケイブ・フィッシュという小さなサカナがいます。そのサカナと同じ種と考えられているサカナが地上の池などに住んでいて、両者は今でも自由に交雑ができるほど近縁です。
(Credit: Image, New York University)
そのサカナはメキシコの中でも遠く隔離された洞窟のあちこちで見つかっているのですが、それぞれ同じく色素を失って白くなり、眼も退化しているのですが、調べてみると色素を失ったり、眼が退化するために起こった遺伝子の変異の場所がそれぞれの地域ごとに異なっていることがわかり、洞窟に閉じ込められたことで起こった収斂進化だと考えられています。
このたび、そのサカナの日周行動を調べてみたところ、洞窟魚は地上のサカナに比べると、ほとんど眠らなくなっていることがわかりました。
これがそれぞれのところでとれたサカナの日周行動を調べたところのグラフです。一番上の黒いグラフが地上にいる普通のサカナで、昼には活発に活動し、夜には「寝ている」ことがわかります。洞窟魚のなかでも赤いグラフのものは比較的日周活動が維持されていることが示されていますが、彼らは眼が退化していても「光」を感じることができるらしく、真っ暗な洞窟の中ではこの活動をするかどうかかはわかりません。一方、その下の二つのグラフでは、「夜」になってもほとんど活動が落ちずに、一日中活発に泳ぎ回っていることがわかります。
さらに不思議なことが掛け合わせ実験からわかりました。眼の退化や体の色の場合もそうだったのですが、違う地域の洞窟から取ってきたサカナを掛け合わせると、子どもではかなりの程度眼の形成(正確には退化しないという性質)が回復したり、体色が回復したりということが見られたのですが、夜寝ないで泳ぎ回るという性質は、どうやら「優性」であるらしく、洞窟魚と地上魚、さまざまな洞窟のサカナ同士の掛け合わせでは、いずれの場合も眠らなくなる子どもが生まれたそうです。
どんな遺伝子が「不眠症」の原因になっているかはわかりませんが、洞窟に閉じ込められた太陽から遮断されたサカナが、どこの洞窟でも体色を失い、眼が退化するとともに、夜眠るという性質を失う「収斂進化」が起こるというのは、それらの性質が洞窟生活で有利だということを示しています。
解説記事などでは、この結果がヒトの不眠症の解明につながるなどと書いてありますが、それはちょっとこじつけのような気がします。
私には不眠の性質が収斂進化するというだけで、十分おもしろい論文でした。
忘れていました。原著論文はこちらです。
そのサカナはメキシコの中でも遠く隔離された洞窟のあちこちで見つかっているのですが、それぞれ同じく色素を失って白くなり、眼も退化しているのですが、調べてみると色素を失ったり、眼が退化するために起こった遺伝子の変異の場所がそれぞれの地域ごとに異なっていることがわかり、洞窟に閉じ込められたことで起こった収斂進化だと考えられています。
さらに不思議なことが掛け合わせ実験からわかりました。眼の退化や体の色の場合もそうだったのですが、違う地域の洞窟から取ってきたサカナを掛け合わせると、子どもではかなりの程度眼の形成(正確には退化しないという性質)が回復したり、体色が回復したりということが見られたのですが、夜寝ないで泳ぎ回るという性質は、どうやら「優性」であるらしく、洞窟魚と地上魚、さまざまな洞窟のサカナ同士の掛け合わせでは、いずれの場合も眠らなくなる子どもが生まれたそうです。
どんな遺伝子が「不眠症」の原因になっているかはわかりませんが、洞窟に閉じ込められた太陽から遮断されたサカナが、どこの洞窟でも体色を失い、眼が退化するとともに、夜眠るという性質を失う「収斂進化」が起こるというのは、それらの性質が洞窟生活で有利だということを示しています。
解説記事などでは、この結果がヒトの不眠症の解明につながるなどと書いてありますが、それはちょっとこじつけのような気がします。
私には不眠の性質が収斂進化するというだけで、十分おもしろい論文でした。
忘れていました。原著論文はこちらです。
by stochinai
| 2011-04-12 19:47
| 生物学
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