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プラナリアには中心体がない

 動物の細胞分裂では、染色体の分裂に先立って中心体という構造が2つに分かれ、それぞれの中心体が微小管という構造物で染色体を引っ張ると教科書に書かれています。
(図はこちらから引用させていただきました。)

 ただ中心体がなくても起こる細胞分裂も知られており、植物の細胞は基本的に中心体を持っておりませんし、動物でも減数分裂の時や、初期発生の一時期に中心体を持たずに細胞分裂をするものは意外とたくさん知られております。というわけで、染色体が分裂する時に重要なのは中心体ではなく、微小管で紡錘体という構造がきちんとつくられるかどうかだということになっています。微小管がどのように染色体を引っ張るのかはこちらの動画を見るとよくわかります。



 減数分裂の時に中心体が消えてしまうものや初期発生の時に中心体が消えている動物でも、それ以外の時期に起こる細胞分裂の時には中心体が現れることが多く、一生の間ずっと中心体を持たない動物がいるとは思われていませんでした。

 ところが、プラナリアや近縁の寄生性扁形動物が一生の間、中心体を持たずに生きていることがわかったのです。

 Science誌のオンライン早版で1月の初めに出ていたので、その時すでに解説記事が書かれていました。

Flatworm Flouts Fundamental Rule of Biology: Worm Regenerates Without Centrosome, a Structure Long Thought Necessary for Cell Division
ScienceDaily (Jan. 5, 2012)


 上の写真が「切っても切ってもプラナリア(by 阿形清和)」ということで、異常に再生力が強いことで知られている動物です。アメリカの科学者達は、そのプラナリアの再生力を失わせようということで、中心体の中にある中心小体という構造を作っているタンパク質の合成を阻害して中心小体-中心体を破壊したら、再生がおこらなくなるのではないかという実験をしたのですが、再生能力はまったく阻害されませんでした。

SCIENCE VOL 335 27 JANUARY 2012 P461-
 実験が失敗して中心体タンパク質の合成が阻害されなかったわけではなく、中心体と同じ材料で作られる繊毛の基底部にある中心小体が破壊されて繊毛がなくなった結果、このプラナリアはプラナリア独特の滑るような運動ができなくなっており、まるでシャクトリムシのような動きしかできなくなっていたのです。どんな動きなのか、見てみたかったです。

 これは?ということで、ゲノムを調べてみると、驚いたことにプラナリアでは中心体を作る遺伝子のいくつかがなくなっていることがわかりました。つまり、彼らには種として中心体を失う進化が起こっていたというわけです。

 まあ、植物も中心体はありませんし、中心体がなくても細胞分裂はできることはそれほど驚くべきことではないのですが、彼らは中心体なしでも問題ないのでしょうか。

 考えてみると、プラナリアというのは発生初期に細胞がごちゃごちゃに分裂するという、研究者泣かせの性質を持っています。動物細胞の中心体は細胞分裂の引き金を引くというより、細胞分裂の方向を定めて、動物の体の軸などを作ることに大きな働きをしていると考えられています。プラナリアという動物は複数の卵がコクーンという殻の中で発生するのですが、できあがったプラナリアがコクーンからぞろぞろとはい出してくるまで、どういう構造の胚が形成されているのがわからないというのは、中心体がないせいで細胞分裂の方向がメチャクチャに起こり、その結果胚の構造もグチャグチャになってしまうからなのかもしれないと、この論文を読んで妙に腑に落ちてしまいました。

 植物はしっかりとした細胞壁があるので、細胞分裂の方向がそれによってコントロールされているということがあるのかもしれませんが、動物細胞で中心体がないということはこういうグニャグニャの動物が生まれる原因になるのか、と妙に納得してしまった論文ではありました。


by stochinai | 2012-01-27 20:37 | 生物学 | Trackback | Comments(0)
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