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エヴォ-デヴォの反革命的歴史?

 進化発生学はEvo-Devoと呼ばれることが多いのですが、進化学と発生学が劇的に結びついてまさに「革命」と呼ばれるような新しい学問分野を開花させました。
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 これは、そのEvo-Devoの研究者であるポール・ザカリー・マイヤーズのブログPharyngula(咽頭胚と呼ばれる脊椎動物胚の発生ステージのこと)に引用されていた、Evo-Devo研究の第一人者であるショーン・キャロルの言葉です。動物の発生の際に使われる重要な遺伝子が、さまざまな動物で比較的普遍的に使われているということがわかったことが、Evo-Devo研究の革命を成功させた要因だということを言っています。

 このブログ記事(The problem with evo devo:進化発生学の問題点)は、著者がある大学で行った「evo-devoの反革命的歴史物語」という講義の要約のようなもののようです。evo-devoの信奉者であるはずの著者が、それをこき下ろすような歴史を語るというのですから、どんなことになるのかと興味をそそられます。
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 内容を読んでみると、それほどセンセーショナルなものではなく、evo-devoのもとになった進化学と発生学とは水と油のような関係にあった学問だという、あたりまえの話から始まっていました。

 中にあったRaffという人の作った表(この著者によって、ちょっと改変されている)がその水と油加減を良く表しています。
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 進化生物学者と発生生物学者のものの見方の違いを示しているもので、生物現象を見てその原因を前者は「自然選択」に求め、後者は「胚の中にあるメカニズム」に求めますし、遺伝子とは何かというと前者にとっては「多様性を生む原因」であり、後者にとっては「機能の支配者」であると考えます。同じように、大事な遺伝子は前者にとってはタンパク質の設計遺伝子であり、後者にとっては調節遺伝子で、多様性を重視する前者に対して一様性を重視する後者がいます。さらには、生物の時間推移を考える時、進化生物学者は進化(系統発生)を考え、発生生物学者は細胞系譜(個体発生)を考えるのです。当然、扱う時間の単位は、10年から10億年の範囲を扱う新科学者と秒単位からせいぜい1ヶ月くらいに起こる生物現象しか扱わない後者の研究が融合するなんて、誰も考えていなかったのです。

 それが発生に関わる遺伝子の超保守性が発見されることであっさりと革命的結婚をしてしまったのですから、学問分野の違いなんてわからないものだということです。

 そして、今はevo-devoは環境がいかにして発生遺伝子をコントロールして進化させたのかというところを射程に入れた研究をしているのです。
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 しかし、先見の明があった人はずっと前からいたのは、この名言が1973年に発せられていることからもわかります。

 というわけで、「反革命」から始まったはずのevo-devoの歴史はやはり「革命」だったという讃歌になってしまうのは、著者が現役のevo-devo研究者ですから、仕方ありません。

 このブログの最後に出てくる宗教アイコンを模したevo-devoの未来像つまり生態学をも巻き込んだ、心の意味での進化学の完成を意味する図を見て、ちょっとびっくりしました。
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 というのは、はるかに素朴なものではありますが、私が15年くらい前に何となく書いた図(私の目指す研究)にそっくりだったからです。
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 この図は今でも私の研究室の紹介ページで見ることができます。

 なんとなく「いい気分」です(笑)。
by stochinai | 2012-02-22 19:46 | 生物学 | Comments(0)

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