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新しい理数科の学習指導要領が実施される

 2009年3月に告示された高等学校の新しい学習指導要領に従い、この春から高校の理科と数学が先行実施され、今後の年次進行によって、3年後の大学入試も大きく変わることを余儀なくされます。資料は河合塾さんの提供する大学入試情報サイトKei-Netからお借りしました。厚くお礼を申し上げます。
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 今回の学習指導要領の改訂では理科は単位数を含めた大枠の変化とともに、生物では内容の大きな改訂もありました。右が現行、左が新指導要領による高校理科教育の履修単位です。
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 例えば今まで文系の生徒などが履修していた総合的に理科を学ぶ2単位の「理科基礎」、「理科総合A・B」などがなくなり、2単位の「科学と人間生活」だけになっています。逆に物化生地のIという3単位の科目がなくなり、2単位の物化生地「基礎」となり、2単位のものをどれか3科目履修することが必修になっています。また知識・技能を活用する学習や探究する学習を重視した1単位の「理科課題研究」が新設されています。そして今までの物化生地II(3単位)はすべて4単位の物化生地になりました。

 というわけで、高校の時にどれを履修するかということについても今までとは異なる作戦が必要になるのですが、それよりも我々にとって直接大きな影響があるのは、生物科目で教えられる内容についてです。
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 特に私の専門領域に関係の深い、発生学が現行の「生物1」に相当する生物基礎から消え、現行の「生物II」に相当する生物で扱われるようになったのは劇的な変化といえます。つまり生物系に進まない生徒でも、そのほとんどが高校の時には、たとえ意味はあまりよくわからなくとも、カエルの発生やウニの発生に触れるという経験を共有していたものが、これからは生物を履修するごく一部の高校生だけしか学ばないということになってしまうのです。

 下の図の中で「生物Iより移行」と書いてあるものが、「生物I」から「生物」(旧・生物II)へ移されたもので、発生学以外にも「細胞の構造」、動物生理学と言われる「動物の感覚、神経、行動、植物の環境応答」などが同じように「生物」(II)へと動かされました。

 では、生物IIから生物基礎「生物I」へ移ったものはなんでしょうか。上の表で「生物IIより移行」と書かれている、「遺伝情報とタンパク質の合成」のほかに、「生物の多様性と生態系」という大きなパートがドカーンと入っています。今までは生物IIの最後のところで、時間がないので多様性か生態学かどちらかを選択して学んでも良いということになっていたものが、文系の生徒も学ぶであろう「必修生物」の中に入ってきた影響は小さくありません。
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 結果的には今までと同じく、発生学と進化学が別々の教科書に泣き別れになってしまっているのですが、私の志向する「進化発生学」という新しい学問は、発生学と進化学・生態学などを総合的に研究することで成り立つ研究ですので、できれば両方を一つの「生物学」という教育体系の中で教えていって欲しかったところです。

 いずれにせよ、日本の大多数の高校生が今まで学んでいた発生学を学ばなくなるという事実が目前に迫ってきている状況を、私の所属する「発生生物学会」としては非常に憂いております。嘆いてばかりいても埒があきませんので、高校の生物の先生を通じて少しでも発生学のおもしろさ、素晴らしさを学習に役立つ形で子供たちにメッセージとして送りたいということで、「初等・中等教育のお手伝いをするプロジェクト(仮題)」を開始することにしました。

 まだ動き始めたばかりですが、全国の小学中学高校の先生方に静止画・動画のビジュアル教育コンテンツを提供したり、授業教材などに困っておられる方がいらっしゃいましたら相談に乗るというようなこともしたいと思っております。

 学会としてのポジショントークに聞こえるかもしれませんが、たったひとつの卵細胞から立派な人間などの「個体」が作られていく過程を理解するということは、全国民が理解すべき最低の教養のひとつとして、初等・中等教育でしっかりと教えるようにしていくための運動でもあります。

 どうぞ、よろしくお願いします。

【元資料pdfファイル:文部科学省】
高 等 学 校 学 習 指 導 要 領
高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 新 旧 対 照 表
by stochinai | 2012-03-17 22:59 | 教育 | Comments(0)

日の暮の背中淋しき紅葉哉            小林一茶


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