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アメリカ国内における食物アレルギー分布調査論文

 アレルギーやアトピー、喘息が最近になって増えてきているというのは世界的共通認識のようで、それに対する有力な答えのひとつが文明化・都市化との関係だと言われています。

 これは、寄生虫博士として有名な医学博士藤田 紘一郎氏のインタビュー記事に載っている図ですが、戦後寄生虫病や結核が減ったことと反比例するように、花粉症などのアレルギー性鼻炎や、アトピー性皮膚炎、気管支ぜんそくが増加していることを示しています。
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 こうした相関関係は世界的に認められており、近代化や都市化によって寄生虫や細菌にさらされるチャンスが少なくなったことがこうした病気を増やす要因になっているのではないかと考えられる根拠のひとつになっています。

 ただ、こうした時代の変化と病気の増減の調査というのは、他の様々な要因が含まれて解析を困難にするということもありますので、できれば同時代で同じような生活をしていて異なる環境に生活するグループにおける比較ができれば望ましいのですが、このたびアメリカ合衆国内で食物アレルギーに関する疫学的調査が行われ、非常に興味深いデータが出てきました。
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 アメリカ国内における子どもの食物アレルギーの地域による違いを調べたものです。

 2009年の6月から2010年の2月までのアメリカ国内における18歳以下の38465人の調査結果です。結論の図がこれです。
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 一概に食物アレルギーといっても、ピーナッツ、貝類、ミルク、魚、卵、木の実、小麦、大豆などの種類があるのですが、程度の差こそあれ、基本的に同じ傾向が出ています。結果をまとめると次のようになります。(論文の解説記事 City Kids More Likely to Have Food Allergies Than Rural Ones: Population Density Is Key Factor, Study Finds より)

・都市の中心部では、田舎での6.2%に比べて9.8%の子どもが食物アレルギーを持っている。

・ピーナッツアレルギーは都市では2.8%の子どもが持っているのに対し、田舎では1.3%で、貝類に関しては都市が2.4%、田舎が0.8%と倍以上だった。

・ただし都市でも田舎でもアレルギーを持っている子どもの症状の程度に差はなく、40%くらいは命に関わるような経験を持っていた。

・アレルギー患者の多かった州は、ネバダ、フロリダ、ジョージア、アラスカ、ニュージャージー、デラウェア、メリーランド、ワシントンのコロンビア特別区だった。

 これらの調査は、家族の収入、人種、民族、性別、そして年齢に対して補正がかけられて結果の判定が行われているので、最終的には都市に住んでいるか田舎に住んでいるかということだけが結果の大きく影響していると結論されています。

 この調査だけからは原因に迫ることができるわけではありませんが、今まで言われていたように子どもの時に田舎で出現する可能性の高いある種の細菌との接触とか、あるいは人口密度と関連した何らかの要因が食物アレルギーの原因として考えられるということのようです。

 とりあえず原因はわからずとも田舎で育つほうが安全ということだけは言えるのかもしれません。
by stochinai | 2012-06-10 23:59 | ダーウィン医学 | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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