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オープンアクセスの時代がやってきた

 さすがにWikipediaは、こうした領域に関しては簡潔で明快な定義を与えています。
オープンアクセス(英: Open Access, OA)は、主に学術情報の提供に関して使われる言葉で、広義には学術情報を,狭義には査読つき学術雑誌に掲載された論文、インターネットを通じて、誰もが無料で閲覧可能な状態に置くことを指す。インターネットの普及を背景にして、1990年代後半から広まり始めた理念および運動である。
 最近はよく見るようになったオープンアクセスのロゴです。
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 オープンアクセスの学術雑誌はどんどん増え続けていますが、未だにその「クオリティ」に疑問を持っている研究者や出版者も多いようです。しかし、最近になってどんどん質が上がっているという論文と解説記事が出ています。解説記事はこちら
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 非常に良い選択が起こった結果、少ないながらもきちんとしたOA雑誌は質を上げながら生き残り、ダメだという評判のものがどんどんつぶれていったのですが、そうした状況から「オープンアクセス雑誌というものは質が保証できないのだ」という評価を受けていたことも事実です。

 しかし、約10年前にPLoS(Public Library of Science)とBMC(BioMed Central)が出現してから、事情は変わってきました。良質なOA雑誌は、OAじゃない雑誌に負けない質を獲得したからです。ここらで、元論文(BMC Medicine)の方へ移動しましょう。もちろん、この論文もオープンアクセスです(笑)。
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 まあ「質」を判断するのにインパクトファクターでいいのかという議論もあるかもしれませんが、それはさておき普通の有料ジャーナルとオープンアクセス・ジャーナルの2年間のインパクトファクターを比較したデータは興味深いものです。

 いつできた雑誌かという比較(1996年以前、1996-2001年、2002-2011年)と、どこの国で出された雑誌かということ(アメリカ、イギリス、オランダ、ドイツとその他の2つの地域で分けてあります。)
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 灰色がオープンアクセス・ジャーナルで黒が普通の購読雑誌です。欧米で明らかなのですが、初期には確かに差があったものの、2002年以降ではほとんど差がなくなってきているのです。そして、この傾向は特に医学・ヘルス系の雑誌で顕著で、その他の雑誌に関してはまだまだレベルの低いOA雑誌も新しく創刊されているようではあります。

 最後に出ているグラフで興味深いのは、OAの費用をちょからか著者から取っているものと、取らないものとでは明らかにインパクトファクターの値に違いが出ていて、費用を徴収している雑誌のインパクトファクターは優良雑誌と変わらないくらいに高くなっているのに、無料で投稿できるものでは明らかにOA雑誌のインパクトファクターが低いのはどうしたことでしょう。
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 白いのが無料OA、灰色が有料OA,そして黒が普通の有料雑誌です。

 やはり雑誌の質を維持するためにはたとえOA雑誌でも「お金」が必要で、その費用をきちんと著者から取っている雑誌のレベルが高いのは意味があることだとともに、その意味が投稿する側に理解されてきたということのなでしょうか。

 ともかく、OAであろうと高いインパクトファクターがあれば、どんどん投稿する人が増えてくることは間違いなく、そうなってくるとポジティブ・フィードバックが働いて、どんどん良くなり、どんどん発表される論文が増えるということになるのかもしれません。

 問題はOAであるかどうかではなく、良い雑誌かどうかということになると、買わなくても読める良いOAが増えてくるということになるような気もします。

 時代はOAですね。
Commented by プアでマイナー分野の研究者 at 2012-08-08 22:04 x
研究費が潤沢で高額な掲載料を払える分野はインパクトファクターが高い分野だというだけのことではないでしょうか。
Commented by stochinai at 2012-08-09 06:14
そういう意味では、インパクトファクターを「質」のものさしに使ったところが、まさに「大問題」なのかもしれませんね。
by stochinai | 2012-08-08 20:32 | コミュニケーション | Comments(2)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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