5号館を出て

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やっぱり「おばあさん細胞」よりは「ジェニファー・アニストン細胞」でしょう

 昔(といっても20年くらい前)、「おばあさん細胞」仮説というものがありました。

 何かを見て、それが何かを判断するのは脳の仕事であるのは誰でもわかるのですが、その判断を脳内のたくさんの細胞が一緒に働いて行っているのか、それとも少数の細胞がそれをやっているのかということが議論されていた時に、「手」のようなものにだけ強く反応する「手細胞」という神経細胞があるらしいということが発見されました。

 その後、「おばあさん」とわかる写真や絵にだけ反応する細胞もあるらしいという実験結果から、おばあさんであるということを判断するのは単一あるいはごく少数の細胞であるという説のことを、「おばあさん細胞」仮説とか、「黄色いフォルクスワーゲン細胞」仮説と読んでいます。

 いちおう、それは仮説にすぎず証明されているわけではないということになっていたのでしょうが、今日のNatureには、女優のジェニファー・アニストンやハル・ベリーを見せると活発に活動するユニット(神経細胞)や、シドニーのオペラハウスにのみ反応する細胞があることを示して、おばあさん細胞仮説を支持する論文(おばあさん細胞を主張していた同じ人も著者にはいっていますが)が載っています。

 しかも、それらの写真に反応した細胞は「ハル・ベリー」とか「シドニー・オペラ・ハウス」という文字にも反応したということなので、なかなかおもしろい結果だと思います。

 「おばあさん細胞」では、なかなか話題になりにくくても「ジェニファー・アニストン細胞」だと、ワイドショー・ネタにもなりやすいのか欧米ではかなりの話題になっているということです。ジェニファー・アニストンって誰?という方も、今年の1月まであのブラッド・ピットの奥さんだった人と言えば納得されませんか。

 極東ブログさんが早々に取り上げておられますが、科学論文にもキャッチフレーズが必要な時代になってきたのかもしれません。
Commented by さなえ at 2005-06-25 07:29 x
名前がつくことで素人にもわかりやすくなりますし、今後研究費を広く集めるために、マーケティングの観点から、どのように注目を集め、わかりやすく提示できるかということが重要になってくるのではないかと思います。
それにしても特殊なものだけに反応する細胞は、進化の過程で、どういう目的で組み込まれているのでしょう。不思議が一杯です。
Commented by stochinai at 2005-06-25 13:19
 そうですよね。いままでの大多数の「科学者」には、素人の方にわかってもらうという視点が決定的に欠けていたと思います。専門家にさえ理解されれば良いという思い上がりは今でも現場には色濃く残っています。非専門家のの方からも「出資者である我々にも理解させろ」という圧力が必要なのかもしれません。

 それはさておき、脳が特殊なものだけに反応するというしくみは、似たような姿形の動物がたくさんいる集団の中で親と子が互いを認識したりする際などにとても重要です。あるいは瞬間的に敵と餌を見分けたりする時にも役立つと思います。そういう性質を獲得した動物だけが、家族や社会を作るように進化できたのだと思います。
 そして、もしこの話がほんとうだとするならば、次の疑問はどうやってジェニファー・アニストン細胞ができあがるか、です。これも、とても興味深い研究テーマだと思います。記憶形成の本質に迫れるかもしれません。
Commented by さなえ at 2005-06-25 20:58 x
つまり、ジェニファー・アニストンが現われたときにそれと見分けることが必要だとはるか昔に細胞が判断したということなのでしょう?おばあさんというのはまだ分かりますが、シドニーオペラハウスとか、どうなっているのでしょう。おもしろいですね。
Commented by stochinai at 2005-06-25 22:24
 はるか昔というか、それを大事だと思い込むように被験者が成長(学習)したということですよね。進化的に見ると、そういう細胞ができるようになったということは恋の起源なのかもしれません。人によっては(たとえば私)は彼女を見ても認識できないでしょうから、その細胞を持っていないことになります。
 オペラハウスの認識も大切な我が家を覚えるところから進化してきたのではないでしょうか。いずれにしろ、ロマンあふれる話が思い浮かぶおもしろい研究だと思います。
by stochinai | 2005-06-24 20:48 | 生物学 | Comments(4)

ひとくきの 白あやめなり いさぎよき     日野草城


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