5号館を出て

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近眼だけど目が見えていたヒトデ

 ヒトデが5本の腕の先に複眼をもっているというのは、かなり昔から知られていたことですが、せいぜい光の向きを感じるくらいだと思われていたその目で実は物体が見えていた、という論文が出ました。
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Garm A, Nilsson D-E. 2014 Visual navigation in starfish: first evidence for the use of vision and eyes in starfish.
Proc. R. Soc. B 281: 20133011.
http://dx.doi.org/10.1098/rspb.2013.3011


 オープンアクセス論文なので、どなたでもここにアクセスすると全文を読めますし、pdfのダウンロードもできます。

 材料になったヒトデはアオヒトデという美しい青色のヒトデですが、おもしろいことに自然に生きているものの実験は沖縄のアカジマというところにあるサンゴ礁で行い、解剖したり眼の構造を調べたりする実験は、研究室があるデンマークのコペンハーゲンのペットショップで購入した動物を使ってやったと論文に書いてあります。
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 左上がアオヒトデです。右上がその腕の一本で盾に裂けたように見える足のもっとも上側に複眼があります(ヤジリ)。下の2枚の写真が眼を取り出して横と上から見たところで、赤い点々が複眼を構成する一個一個の個眼です。

 この論文の解説記事にヒトデの足の裏側から見上げたように眼を見た写真がありました。
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 右斜め上の方に赤く見えるのが眼です。

 論文の中にはこの眼がまわりの組織によって出されたり隠されたりして、まるで眼を開いたり閉じたりできるようになっているところの写真も出ていました。
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 ここまでは、実は200年位前からわかっていたことのようですが、今回は沖縄のサンゴ礁でヒトデが普段住んでいる場所に帰れるかどうかという実験をした結果が出ています。
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 こちらの写真が沖縄の海の中で、左上がヒトデの住んでいるサンゴ礁側から砂の海底を見たところです。こちらにはヒトデのエサになるようなものはほとんどありませんから、ヒトデにとっては行きたくないところです。右上の写真が反対側を振り向いたところにあるサンゴ礁で、ここにはヒトデのエサになるようなものがたくさんあるので、ヒトデがいつもいる場所です。

 そのサンゴ礁からヒトデを取ってきて、サンゴ礁からおよそ1メートル離れたところに置いてやります。(c)と(d)はヒトデを海底の砂の上において、上から時間ごとに観察した結果をトレースしたものです。(c)は何もしていないヒトデで、(d)はすべてである5つの複眼を取り除いた個体の行動です。

 見ただけで一目瞭然ですが、眼がある個体はほとんど(ここでは5匹のうち4匹)があっという間にサンゴ礁に戻ったのに対して、眼を除かれた個体のほとんど(5匹中4匹)はサンゴ礁の方に移動している様子はまったくありません。

 また、これはサンゴ礁から1メートルの距離でしたが、距離を2メートルや4メートルにして同じ実験をしてみたところ、眼がある個体でもぜんぜん戻れなかったということです。さらに、たとえ1メートルの距離でも夜に同じ実験をした時にも戻れなかったそうです。

 というわけで、わずか1メートルの距離までですが、ヒトでは明らかにサンゴ礁が見て行動しているということがわかりました。

 今度の夏に海に行ったら、ヒトデの足の先をよく見てみてください。1メートルより近くで彼らの眼を見たら、彼らもあなたの顔が見えていると思ったら、ちょっと怖くないですか(笑)。
by stochinai | 2014-01-09 20:52 | 生物学 | Comments(0)

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