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島岡要「研究者のための思考法10のヒント」

 ボストンのハーバード大学医学部でポスドクから叩き上げで助教授、准教授になり、いわば日本のポスドクの憧れの星としてブログを発信し続けておられた島岡要(しまおかもとむ)さんが、2011年に三重大学大学院医学系研究科の教授として戻ってこられてからはお忙しいのかあるいはもはや目標を達成されたということでなかなか発信しづらくなったのか、それほど目立った活動をされていなかったと感じていたのですが、さすがにそんなことはないようで、アメリカにいらしたときの『やるべきことが見えてくる 研究者の仕事術』(羊土社、2009年)や『ハーバードでも通用した 研究者の英語術』(羊土社、2010年)に続いて、三部作の完成版とでもいうべき新著を発行されました。(この度、恵贈いただきまして、感謝いたしております。)

 研究者のための思考法 10のヒント~知的しなやかさで人生の壁を乗り越える

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 もはや教授だけでなく、災害救急医療・高度教育研究センター長にバイオエンジニアリング国際教育研究センター代表さらには軟式庭球部顧問もされているということで、後に続くポスドク諸君へのアドバイスもやりにくくなっているのではないかと心配もしておりましたが、ポスドク時代の心は今でも健在のようで、安心しました(笑)。

 前書きが公開されているので、これを読んでいただくのが一番いいのですが、感動的部分を一部引用させていただきましょう。
 日本→米国→日本と二重に相対化を行うことにより見えてきたものは、
必ずしも明るいことばかりではありません。最も重大な問題の1つが、米
国風の競争原理が劣化した形で日本に広がってしまったということです。
競争原理の導入は、前提となる3つの重要な社会の整備である“情報開示・
人材の流動性維持・セイフティネットの確保”とセットで行われるべきで
した。しかし日本ではこれらの社会整備が不十分なまま、競争原理がグ
ローバリゼーションとともに社会に押し寄せました。その結果として、個
人は(情報開示が不十分なので)意識しないうちに自分ではコントロール
できないリスクに曝され、(人材の流動性が低いので)一度失敗すれば再
チャレンジが効かず、(セイフティネットが確保されていないので)常に
不安に苛まれ、自己責任を強要されるので孤立してしまいます。そして今
後ますます個人の満足度や幸福度は低く抑えられることが予想されます。
このような厳しい世の中では、社会人として生きていくための環境は決
して最適であるとは言えません。サブオプティマル(最適化されていな 
い)世界で満足度の高い幸福な人生を生きていくためには、脆さと表裏一
体の強さだけでは不十分で、さまざまな予期せぬストレスのなかでも折れ
ずにしなやかに生きていくための資質が必要です。そのような資質が知的
柔軟性であり、抗脆弱性です。本書では知的柔軟性を身につけ、厳しい世
の中でも満足度の高い抗脆弱な人生を送るために、プロフェッショナルや
エキスパートをめざす社会人や学生が知っておくべき10の基本的な論点
を、各章1つずつ、1〜10章でわかりやすく説明します。       
 この後に、日本の医学系の研究者が置かれた環境の過去と現在についてありのままの状況を書かれ、さらに将来も決して明るくないという見通しも述べられます。その上でこの本に書かれているメッセージがこちらです。
 本書はサブオプティマルな環境でもしなやかに生き、自分で花道を飾る
力をつけるための論点とヒントについて書いています。今は人生の花道は
非常に多様化しています。花道のパーソナル化という相対的視点も大切に
なってきます。また花道は人生に1回きりではありません。花道を一度飾
れることができれば、とりあえず世間体を繕うことはできるかもしれませ
ん。しかし、花道を飾ること自体が究極の目的ではありません。花道は一
里塚・通過点です。1回目の花道を飾った後も、いい仕事をすることを目
標とすべきです。その結果、さらなるキャリアアップで第2、第3の花道
を飾ることもできるはずです。                   
 私は40歳までに自助努力で花道を飾る、つまりPIになることを20代
半ばで漠然と意識しました。そして何とか1回目の花道をボストンで飾る
ことができました(テニュアトラック助教授)。2回目の花道は、ボスト
ンでのPIとしての仕事が認められて日本でのテニュア職・教授になった
ことかもしれません。そして今、第3の花道を意識してこの文章を書いて
います。第2の花道に安住せずに、次のキャリアアップの落としどころ
(=第3の花道)を常に意識しています。               
 後に続くポスドクたちへの力強いエールになるのか、あるいは「自分たちには島岡さんのような『成功』はもはや望めないだろう」と思うかは読んでいただいて一人ひとりが判断するしかないと思います。

 そういう意味では、この本はある種の「劇薬」となるかもしれないことを思いつつ手にとっていただきたいという気もしました。

 参考までに、目次を転載しておきます。

はじめに
1. 好きなことをする 天職に出会えなくても、仕事は充実する
2. 研究者と英語 日本人研究者はなぜ英語を勉強しなければならないのか
3. 研究者の幸福学 研究者も幸せになりたいのです
4. イノベーションについて知っておくべきこと Innovation =「技術革新」ではない
5. 知的しなやかさ 結果を出すリーダーはみな軸がブレている
6. 研究者のあたらしい働き方 ///スラッシュのあるキャリア
7. 抗脆弱性(アンチフラジャイル)とは 想定外の衝撃「ブラックスワン」に備える
8. 賢い選択をするには 幸せな選択と不幸な選択を分つもの
9. 創造的な仕事をするために 社会に創造的価値を提供する
10. リベラルアーツとしての論理的思考法 英語プロポーザルライティングで構想力を育てる
11. 読書術と毒書対策 無理せず優位性を構築する
12. 知的生産のための健康術 研究ができる人はなぜ筋トレをするのか…
あとがき

 11章と12章は「外伝」なので、肩の力を抜いて読んでいただきたいとのこと、著書のユーモアが届きますかどうか?(笑)

 また、大隅典子さんをはじめ、4人の研究者との対談も興味深いものとなっています。

 とりあえず、素晴らしい前書きを読んでみてから購入をご検討ください(笑)。
by stochinai | 2014-07-09 20:08 | ポスドク・博士 | Comments(0)

ふと咲けば山茶花の散りはじめかな        平井照敏


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