5号館を出て

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もうけを優先して文化を守る

 今日は新聞記事の論調に引きずられないようにしてみます。公立博物館の民間委託(共同)に関するニュースですが、本当に取材をして書いたのかと疑ってみたい気がしています。

 まずは、公立の博物館についての評価ですが「管理・運営に経費が掛かる割に入館料収入に期待できない」と書かれてます。この説明自体が手あかのついたものですが、さらに「金食い虫」という死語にも近い形容が続きます。

 博物館の管理や運営にそれなりに経費がかかるのは当然のことだと思います。さらにそれほどの入場者がいないために入館料収入が限られているのいうのも現実だと思います。しかし、だからといって民間に運営を委託すれば逆転劇が起こるのでしょうか。

 もしも、同じ状態の博物館でも民間に委託すれば経営が上向くというのなら、民間に委託しなくとも「民間がやるように」運営すれば、経営の改善ができるという理屈にならないでしょうか。

 しかも、地方自治法の改正かなんかは知りませんが、直営の維持は難しいと自治体が判断したのなら、(自治体が税金からさらに)「運営費用を拠出」するというのは筋がとおりません。どこまで税金をつぎ込むべきなのかは、自治体の構成員(つまり住民)が決めることであって、税金を出す側が「博物館はいらない」というのならなくするという選択肢もあって良いと思います。

 この先はおそらく予想通りで、たとえ税金をつぎこんで「民間企業・団体が実務を行」ったとしても、各地でさまざまな第3セクターが破綻していった歴史を見るならば、いずれつぶれるものに無駄な税金をつぎ込むだけのことになりそうな気がします。

 一方、この世の中には博物館を愛して、大切にしたいと思っている人もたくさんいます。お金がないから博物館をなくするというのなら、単なるお金儲けの手段として博物館を利用しようとする「民間」にではなく、博物館を愛してもっともっと繁栄させてみたいという人々に経営を任せて、できるだけ収入を上げる努力をしてもらってみても良いのではないでしょうか。

 そういう人達がやる「もうけ主義」ならば、もうかったお金は博物館を管理・運営し、さらに良くするために使ってくれることは間違いありません。そういうやり方こそ、NPO、NGOのあり方として望ましいのではないでしょうか。

 本当に言ったかどうかは明らかではないです(おそらく言っていない気がします)が、現場の学芸員らの不安の声ということになっている「もうけ優先の展示が増える」「収蔵品の維持と管理は可能か」などど言っている場合ではなく、どんどんもうけるためにお金をあまりかけずに工夫を凝らした展示を考えたり、スポンサーを探したり、地元の子供達を教育する代わりに、父母らにボランティアや募金をお願いしたり、あるいは博物館という場所を積極的に地元に開放していって多目的なふれあいの場にしたり、といくらでも工夫のしようはあるのではないでしょうか。

 私たちがやろうとしている、新しいプロジェクトでも、そうした博物館の活動などもできる限り応援していきたいと考えています。

 地元の人々が科学や文化を楽しみ、学ぶ場としての博物館の未来は決して暗いものではありません。

 安易に民間委託して、遊園地化したあげくに倒産させてしまったりすると取り返しがつきません。

 敗退的処置ではなく、攻めの姿勢でいけば、博物館には必ずルネッサンスが訪れると思います。あきらめないでください。
Commented by inoue0 at 2005-07-11 19:47
 博物館はここ2年ほど「総合学習」の対象になって、対応に追われているそうです。遠足だろうが修学旅行だろうが関心をもってくれるのはありがたいことですが、実際に足を運んで、資料を読んで実物を見て考える手間を省いて、e-mailや電話で情報を得ようという「教えてくん」が多くて困っているという報道がありました。
Commented by stochinai at 2005-07-11 20:16
 そういう「教えてくん」からはお金をとって儲けてもいいんじゃないでしょうか。大学の体験入学もそうですが、有料にしたほうが本気の子供が集まってベターな状況になるような気はしています。
 「タダ」の施設はサービスする側も力が入らないし、手を抜いても罪悪感がなく、使う方でも「タダならこんなもんか」ということで結局使い捨てられそうな気がします。お互いに不幸です。
Commented by inoue0 at 2005-07-11 22:24
 外来患者が、帰宅してから病状が変化したとか、聞き漏らしたことがあって、電話で医師に相談します。そうすると、医療保険の点数表では500円ぐらいの料金が発生するんですが、再診のときにそれを請求すると怒り出す人がいる。だから、常連を失いたくない開業医は請求しない人が多い。
 ある開業医が、受け持ち患者の急変に備えて、携帯の電話番号を教えた上で沖縄に旅行していたら、かかってきた電話が
「先生、孫がハチに刺されたんですが、どうしたらいいでしょう」
だそうで。
Commented by ヤマグ at 2005-07-11 22:49 x
学術とお金儲けとは、まだまだ相反するものでなければいけないみたいですね。このあたりが、まだまだ日本がうまくないところですよね。米国を見ているとそう思います。特に、NASAとかで配信される映像などを見て、学術をエンターテイメントにすることがまだまだ苦手だなと思います。
科学技術をどう伝えるか、どう見せるかそう言ったことがこれからもっと重要ですよね。
Commented by inoue0 at 2005-07-12 07:14
 3セクで成功している事例なんてないんだそうです。民間で採算が取れるのなら、完全に売却していいし、採算が取れないなら補助金をつぎこんでサービスを供給させるしかない。
 しかも、3セクの場合、職員が公務員でないから、不正人事をやり放題です。消防署員の採用試験で点数操作していた職員が収賄で逮捕されましたが、消防署が3セクだったら、背任罪にしかなりません。それも告発がある場合だけです。
Commented by stochinai at 2005-07-12 16:43
 ヤマグさん
>科学技術をどう伝えるか、どう見せるか
 スターウォーズだって、科学技術を利用したお金のもうけ方のひとつだと思います。何もあそこまでもうけなくても良いでしょうが、自分たちのやりたいことをするために補助金を要求するだけではなく(それだと道路や新幹線と同じです)、自分たちでもうけることのほうがまっとうだと思います。まあ、簡単には儲からないと思いますが、まずはコスト意識を持つことが大切だと思います。
Commented by stochinai at 2005-07-12 16:54
>inoue0さん
 そう言われてみると、大学法人ってお金はほとんど稼いでいませんが、第3セクターに似ているかもしれません。我々も、もう公務員ではないので不正人事もやり放題にできるということでしょうか・・・・。
 振り返ってみると、公務員時代から研究職に関しては採用試験なんてないですし、不正人事はかなり多かったような気がします。
 不正の起こる原因のひとつは、不正人事が大学や社会に損害を与えたとしても自分の研究には得だからです。大学や研究所という組織は、個々の研究者が自分のキャリアをあげるために利用すべきものにすぎないという考えがいまだにメジャーですが、それが克服されない限り大学は変われないような気がします。
Commented by inoue0 at 2005-07-12 20:09
 大学法人職員はみなし公務員ですので、人事、守秘義務について規制があります。身分保障がなくなっただけです。
Commented by stochinai at 2005-07-12 22:00
 そうでしたか。見なされているんですね。いずれにしても、不正は前のまんまなんですが、、、、。
Commented by さなえ at 2005-07-13 11:49 x
こんにちは。博物館大好き人間です。
日本は全般的な教育水準が高いし、体裁を気にする人が多いので、博物館や美術館など、ボランティアをもっと募集し、研修して準学芸員のような地位を与えて働いて貰えば、人件費の抑制にも、興味を持つ人の掘り起こしにもなるのではと思うのですが、どうもテリトリー意識が強いようでここをなんとかできればいいのですが。
satochinaiさんのおっしゃる通り民営化の前にできることは沢山あると思います。
Commented by stochinai at 2005-07-14 23:05
 さなえさん、いつもありがとうございます。
 博物館って、これから伸びそうな「業界」のひとつのような気がするのですが、まずは「官」からの精神的脱却が前提になりそうです。(どこを見ても、日本はこればっかりですけれど、、、、。)
Commented by inoue0 at 2005-07-15 00:00
 人文系でも大学院生が増えていて、修士や博士がごろごろしているのだから、彼らの雇用の場として博物館は有効でしょう。年収200万円でも、無関係な仕事に就くよりはましです。
Commented by stochinai at 2005-07-15 15:47
 民営化するひとつのメリットは給料を自由に設定できるということかもしれません。公務員だと、給与体系はガチガチに決められていますので、人を安く雇って予算を浮かすということができません。年収600万円のポスドクを雇うより、200万円で3人のオーバードクターを救済することのほうが、社会的にも研究にとっても良いケースもあるような気がするのですが、今の大学ではそんな柔軟なお金の使い方はできないようです。何とかしないと。
by stochinai | 2005-07-11 19:18 | つぶやき | Comments(13)

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