5号館を出て

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ハスカップ(北海道大学学術成果コレクション)

 ハスカップは、ブルーベリーと並んで北海道を象徴する木の実として有名です。

 その名前をとったプロジェクトが、北海道大学図書館で立ち上がりました。北海道大学学術成果コレクションを略してHUSCAP (Hokkaido University collection of scholarly and academic papers) と書きますが、ハスカップと読んで欲しいということのようです。

 このプロジェクトのことは、学内の広報メールなどで知っているには知っていましたし、個人的にメールもいただき、協力を要請されていたのですが、今ひとつその趣旨を理解しかねていたことともあり、忙しさにかまけて対応をさぼっておりました。

 昨日、私の所属するZ学会の本部からわざわざ事務局の方が見えました。事務局のNさんは、前から学術雑誌のオープンアクセスを強く主張しておられ(Nさんからメールをいただきまして、ここに関しては「機関リポジトリはオ-プンアクセスの手段として筋が良いと考えているということをあらためて表明したいと思います」との注釈を頂きました。お詫びして訂正させていただきます)、どのような形でそれが実現できるのかということを一所懸命に考えて、実践なさろうとしておられる方です。

 そのNさんが、北大において中心になってHUSCAPを推進しておられる図書館の情報システム課のS係長と一緒に来られ、理学部にいるZ学会員のめぼしいメンバーを取り急ぎ集めて、HUSCAPの説明とそれに対する協力の依頼をされたのです。

 それで、私も改めてHUSCAPについて考えてみました。

 ウェブサイトの説明には、「HUSCAP は、本学の研究者や博士課程後期学生等が著した学術論文、学会発表資料、教育資料等を保存・公開するものです」と書いてありますが、やはりその目玉は我々が学術雑誌ですでに刊行している論文を全文公開して、世界中の人が無料でアクセスできるようにすることだと思います。利用に関しても、基本的にはクリエイティブ・コモンズ・パブリック・ライセンス日本版の下で許諾すると考えて良いようです。

 ほとんどの学術論文の著作権は出版社が持っています。もちろん、論文の内容は著者のオリジナルな研究の成果ですから、内容に関しては著者が知的オリジナリティを持っていることは間違いありません。それで、著者および著者の所属する機関において、論文の内容を公開することにはほとんどの出版社が許諾の意志を示しているようで、現時点では世界の91%の出版社が、出版された論文の「最終原稿」を著者個人のサイトまたは、著者の所属する機関のサイトで公開することを許諾しているということです。

#もちろん、あくまでもこれは「原稿」ということなので、電子ジャーナルを購読することによって手に入れることのできる、印刷されたものと同じ形式になったpdfファイルを公開することは、多くの場合著作権侵害の違法行為ということになります。

 大学による論文リポジトリの動きは、世界的に見るとすでにいくつかの大学で実行されているようです。そういえば私も、北大図書館が購読していない論文の原稿をGoogle検索で見つけて読んだ経験があり、今から思うとこのシステムによるオープンアクセスの恩恵を、すでに受けているということだったようです。

 もともと科学というものは、その成果は個人のものではないと私も信じておりますので、もしも私の論文を見たいという方がいらっしゃったら、それは無料で見ていただきたいと思います。昔から、論文には別刷りというものがあって、著者が有償で購入し、請求に応じてそれを無料で配布するという伝統があります。インターネットの時代になったのですから、それをより安くより便利に実現することができるのならば、そうすべきだと誰しもが考えるでしょうが、それがフリーアクセスなのだと思います。

 全文が、サイトに登録されると積極的にGoogleなどの検索にかかるようになりますので、思わぬところからの引用が増えることも期待されます。

 出版社は営利企業なので、収入元である雑誌をフリーアクセスさせるわけにはいかないでしょうから、著者が所属する大学などの公共機関がそれを代行するというのは理にかなっています。

 逆に、大学ごとに情報がまとまることで、個々の大学でどんな研究が行われているのかということが整理されて把握できるようになります。個々の論文に興味がなくても、「この大学ではどんな研究が行われているのだろう」と思うタックス・ペイヤーや受験生などの疑問に答える情報公開としての意義という「副産物」も生み出されます。

 なにやら良いことづくめのようですが、大きな障害が立ちはだかります。

 それは、たくさん集まらなければ力にならないということです。実験中ということですので仕方がないかもしれませんが、3ヶ月間にHUSCAPに登録された論文などの資料数がわずかに37編だったということで、いかに北大の研究者に理解されていないかがわかります(私も2編の登録を促されておりながら、協力しませんでした^^;)。

 今後、このシステムを発展させていくためには、HUSCAPの意義を学内外に浸透させることと、論文原稿の登録が簡単にできるようにすること(印刷論文から原稿を抽出する reverse publishing などという技術はないのでしょうか?)、そしてこのシステムが研究者の研究活動にプラスになる「使い方のノウハウ」を開拓・蓄積することが大切だと思います。得になるとわかったら、あっという間に広がります。

 まだ、ちょっと想像できないところもあるのですが、Google Scholarで、原著論文がどんどん検索できるようになっているのを初めて見たときに、これはすごいと思いました。しかし、個々の論文にアクセスしようとすると大学で購読していない雑誌の論文は読むことができません。その失望を味わわなくてすむようになるとしたら、零細な研究者にとっては大きな光明になります。

 将来は、そもそも有償の学術雑誌というものすらなくなる可能性もあるとは思いますが、それとは関係なく今からフリーアクセスのリボジトリ構築を始めるということは、未来を見据えた正しい選択なのかもしれません。

 フリーアクセスは世界中のすべての研究者が賛同してくれれば、すぐにでも実現が可能なことなのですが、たんなる夢物語に終わってしまう可能性もある壮大なプロジェクトだと感じます。

 もともと科学者などという職業は、夢を食べて生きているようなところがありますので、夢の実現に協力してみようかなと思い始めております。
by stochinai | 2005-08-03 21:00 | 大学・高等教育 | Comments(0)

ひとくきの 白あやめなり いさぎよき     日野草城


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