5号館を出て

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自殺志願者に対する殺人

  昨日あたりから、インターネットの自殺サイトで知り合った女性を殺害し山の中に捨てた男(前上博、36歳)が、他にも同様に自殺サイトで知り合った2人(中学生と大学生の男性)を殺害し、その死体を遺棄したと供述してしていることが報道されています。男子中学生の件では、その遺骨の一部が発見されているようで、ひょっとすると日本の犯罪史に残るような連続殺人事件に発展するかもしれない様相を呈しています。

 インターネットというものはその到達規模の大きさから、自分が日常生活する範囲ではなかなか見つからない人を捜すには非常に有効な手段です。

 スポーツやそこそこメジャーな趣味などでは、ある程度の規模を持ったコミュニティならば同好の士に出会うことはそれほど難しくはありません。高校や大学くらいの大きさになれば、かなりオタクな趣味だとしても数人の同好会・サークルができるものです。

 しかし、たとえば一緒に自殺してくれる人と出会うチャンスなどというものは、普通にはほとんどあり得ないことです。ところがインターネットにはかなりの数の自殺サイトがあると聞きます。そこを介しての集団自殺事件は数えるのも難しいほど頻繁に起こっています。少し前に札幌の薬剤師だったかが、自殺に使う薬を配布(販売?)していたという事件もありました。逆に自殺を思いとどまらせることを目指すサイトも多いと聞きます。

 世の中にはいろんな人間がいるもので、不特定多数に対する殺人衝動を持った人間もいます。幼児や婦女に対する暴行衝動も不特定多数に対してわき起こるという点においては似ているものなのかもしれません。

 今回の事件を見ると、インターネットというものがそうした犯罪者にとってもターゲットを探すのに有効な手段を提供していることがはっきりしたと思います。

 殺人そのものに欲求を持った人間というものも、意外とたくさん存在しているようで世界的に見ると理由と言えるほどのものもない連続殺人事件が毎年のように起こっています。

 連続殺人を起こす人間は、警察に逮捕されることを望みませんから、できる限り完全犯罪を狙うのではないでしょうか。そうした犯罪者が自殺志願者を狙うというのは、そういう意味で「よく考えられた」被害者の選択だと思ってしまいました。

 自殺志願者の多くは、周囲の人間にシグナルを発しており、周囲の人間はいつも心配しているものです。しかも、場合によっては遺書なども書いていたりします。その人が、いつの間にか行方不明になってしまい、場合によっては遺体となって発見されたとしても、まわりの人は意外と簡単に納得してしまうでしょうし、場合によっては警察も簡単に自殺と判断して捜査もしてくれないかもしれません。

 そうすると殺人であるにもかかわらず、完全犯罪が成立してしまうということにもなりかねません。

 ネットへのアクセスは、自宅のコンピューターや携帯電話などで簡単にできてしまいますし、それに対する反応もメールのように自分の端末に表示されるので、なんとなくプライベートなコミュニケーションをしている気分になってしまうことも理解できる気はします。

 しかし、ネットにおけるコミュニケーションは常に想像を絶するほどたくさんの人の眼前でさらされているのだという自覚は重要です。

 試しに自分のメールアドレスを明らかにした上で、1000万円ほどの資産の使い道を考えているのだけれどもというような情報を出して見ると良いかもしれません。きっとたくさんの見知らぬ人からコンタクトがあると思います。

 自分の個人情報なのだから自分でどのように公開しようが自由だという意見があるかもしれません。

 自分の命なんだから自殺しようが殺されようが、自分の責任でやりますという意見もあるのかもしれません。

 でも、でも何かが起こってしまった後、とんでもないたくさんの人がその処理に当たらなければならないことがあるということも、今回の事件を見ているとわかると思います。

 自分のことは自分で決めていいのだという議論が良くなされますが、複雑にからみあってできている今の社会の中では、たとえ自分一人だけが関係したプライベートなことのように思えることでも、何かのアクションを起こしたことによって起こる結果が、とんでもなくたくさんの人に影響を及ぼすことも多く、そうなってしまったことに対するいわゆる「責任」は自分一人ではとても取り切れるようなものではないのです。

 そう考えると自分の命のことですら、自分一人で決められないこの世の中はなんと窮屈なものだとも言えますが、あなた一人のことにこんなにたくさんの人がかかわってくれている温かいコミュニティなのだということもできます。

 たとえ死にたくなったとしても、そのことは見ず知らずに人には決して教えてはいけない個人情報です。ネットに流してはいけません。

 追記:この男は猟奇的な犯罪を指向するという異常な性向を持っていることが明らかになりつつあるようですが、そんな男以外にもすきあらば犯罪を行おうと思っている人間が、あらゆる機会を捉えて犯罪実行の助けになる情報を探っているのが現実だと思います。

 非常に残念なことですが、ネットという深い迷路に情報を送り出すことには、想定外の危険があることを心に置いて、常に慎重になる必要があるのだと思います。
by stochinai | 2005-08-07 21:12 | つぶやき | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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