5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

動物愛好家と密売

 選挙がらみの話ばかりで、少々食傷気味なので少し毛色の変わった話題です。

 NHKのニュースなどでも結構大きく扱われているのですが、売買が禁止されているワニの1種「ガビアルモドキ」を密輸した上、国内で繁殖したものというニセの登録証をつけて販売(共同)したというニュースがありました。

 日本は今、空前のペットブームだそうで、世界中からありとあらゆる動物が合法・違法を問わずに大量に輸入されていて販売されています。ネットでちょっと調べてみると、こんなの売っていいのかという希少動物が堂々と値段付きで見つかります。(こんな話を聞くにつけても、「日本が不況から抜け切れていない」とおっしゃる経済界の方々の認識も、わからなくなります。)

 私も動物好きのひとりなので、いろんな珍しい動物を自分でも飼ってみたいという気持ちは良くわかります。

 しかし、冷静に考えてみると珍しい動物ということは数が少ないということですから、絶滅の危険があるものがほとんどです。そういう動物は、ワシントン条約という国際条約で取引が制限されています。日本も1980年に条約締結国となっていますので、条約違反の動物の取引を禁止しています。

 しかし、条約適用前に輸入されたものや国内で繁殖したものに関しては国際取引とは関係がありませんので、環境省に申請をして登録すると「自由に」取り引きすることができます。

 このガビアルモドキというのは、草津熱帯圏という「動物園」で日本で始めて繁殖に成功したことがニュースにもなっているので、草津熱帯圏で生まれた個体に関してはワシントン条約適用外の個体を登録申請できるわけで、環境省としてもそこから出された申請には簡単に許可を出したものと思われます。

 ところが、今回は爬虫(はちゅう)類卸売会社「レップジャパン」経営白輪剛史(36)が密輸入したガビアルモドキの幼個体を、「草津熱帯圏」の園長今井敏夫(59)が自分のところで繁殖したものとして虚偽の申請をしたというのです。このワニは密輸品だと闇で10万円前後で取り引きされているということなのですが、登録証があると100万円以上の値段がついて堂々と取引ができることから、業者が園長に話を持ちかけたのかもしれません。

 こういう話を聞くと、最後にワニを飼うのはいわゆる愛好家と呼ばれる動物好きなのかもしれませんが、それを商売としている人が間にはいると何とも許し難い犯罪が成立してしまうことが良くわかります。

 あるいは、場合によっては一部の「動物愛好家」と呼ばれる人達は特定の動物を手に入れるためならば、違法行為や環境破壊などはいとわない人種なのかもしれません。

 まあ、そういう人がこの世の中にいるということは理解できますけれども、そういうことまでして動物を「愛する」っていったいなんなんだろうと考え込んでしまいます。

追記:
 このすぐ後に、同じ業者がガビアルモドキと同様に絶滅危惧(きぐ)種に指定されているリクガメの一種「ホウシャガメ」についても「自分で繁殖させた」と偽り、個体登録(共同)していた疑いが強まったという記事が出ました。叩けば、いくらでも出てきそうです。ホウシャガメの画像はこちらにありますが、これも密輸摘発で保護されたものという説明を読むと、この問題の根の深さを思い知らされます。

追記2:
 今朝の朝日新聞には、ペット業者が動物園側に謝礼として別の種類のワニ2匹を渡していたことがわかったと出ていました。犯行はなかなか巧妙で、孵化するはずのないガビアルモドキの卵を5個譲り受けて、そのうち4個が孵化したということにして登録申請したということです。これならなかなかバレなさそうですが、ばれたということは内部告発があったのかもしれません。

追記3:
 読売のITメディアニュースによると、「IFAWの3カ月にわたる調査の結果、英語のWebサイトとチャットルーム、オークションサイトのeBayを通じ、生きた動物や野生生物関連商品が1週間に9000品目以上販売されていることが判明」しただけではなく、「英米のサイトで生きたゴリラ、チンパンジー、シベリアタイガーなどが売りに出されていたり、ライオンや白熊の剥製、海ガメの甲羅、象牙製品などが販売されている事例があった」とのことです。どうやら、動物愛護とは異なる動機があるケースも多いのかもしれません。
Commented by Ken at 2005-08-19 09:56 x
はじめまして。「珍しい動物ということは数が少ない」ということが気になりました。これは考察が浅すぎるでしょう。珍しいというのは誰も買わないから入荷が無い、たくさんいるけど輸出許可しないオーストラリアなど事情はさまざまです。野外で珍しいから高価だから欲しいということはありますが、流通しないから日本では珍しいということもあります。そんな簡単なものですはないんですよ。
Commented by stochinai at 2005-08-19 11:35
 はははは、細かいところを指摘されてしまいましたね。
 Kenさん、コメントありがとうございました。確かに、「日本でだけ珍しい」というものもあるでしょうが、そういうものはワシントン条約で縛られていないでしょうし、ここで問題にしたかったのは違法行為のことなのです。Kenさんは、法をやぶってまで動物を手に入れることの是非については、どうお考えになりますか。
Commented by Ken at 2005-08-22 17:40 x
 別に論争する気は無いのですが、ワシントン条約は個体数が純粋に少ない希少生物だけを規制するものではないことをご存知でしょうか?日本固有の動物でCITESの付属書1類に記載され国際取引が制限されている種をご存知ですか?国内では特別天然記念物に指定されていますが、決して数が少ないから貴重ではありません。世界的に見て貴重な動物だから保護しようというわけです。しかも環境も含めて保護する必要があるからです。また本当に希少な動物は採集もされないのでペットルートに載ることもほとんどありません。ある程度個体数がいて、商業的に成り立つから輸入されます。今回のガビアルモドキはほとんど飼育下では繁殖しないので希少種ですが、ワニは全種付属書2類で規制され、多くの種は1類で規制されていますが、例外的に輸出入許可が出やすい動物です。それはワニ革は産業として養殖されて大量に消費されるからです。他のワニであれば違法であれ合法であれ、養殖個体は消費されるためにいます。野生個体であれば違法なのは問題でしょうが、養殖個体であれば結果的には死ぬ運命にあります。しかもペットであれば生き延びる可能性はあるとは思いますが…..。
Commented by Ken at 2005-08-22 17:41 x
私は法を破ってまで欲しいものはありませんが、stochinaiさんが言われる、「珍しい動物ということは数が少ないということですから、絶滅の危険があるものがほとんどです。そういう動物は、ワシントン条約という国際条約で取引が制限されています。」という単純な図式ではないということが言いたいだけです。例えば保護しているサルが増えすぎて害になるから今度は殺せという場合は、許可が出れば合法なんだから大手を振って殺せるという、法で規制し、法で許可されたという矛盾が生じる難しい問題です。法を守ることが大事なのか希少な動物を保護することが大事なのか、ですね。今回のような業者などはどんどん摘発されるべきでしょうが、密輸はなくならないでしょう、残念ながら。許可があれば欲しい人は多いですし、許可がなくても売っていれば欲しい人は大勢います。しかも買う側はその動物がどのようなルートで入ってきたかは、なかなか知りようが無いですから。今回の業者のようにうすうす知っている場合も多いですが….。
Commented by stochinai at 2005-08-22 18:13
 Kenさん、補足説明ありがとうございます。
 私は単純に「絶滅の恐れがあるものが保護されていて、それは数が少ない」と思っていました。日本で特別天然記念物になっている動物もそうだと思っていました。オオサンショウウオもそんなに珍しくもなく、タンチョウやコウノトリに至っては邪魔者扱いされたりすることもあるようですが、珍しい(少ない)と判断されているのだと理解していましたが、そうでもないのでしょうか。さらに、絶滅の怖れがなくなったら指定からはずれるということはないのでしょうか。それとも、国内ではもてあまされているようなどこにでもいる動物が、ワシントン条約で指定されてしまったために迷惑を被っているというような例もあるのでしょうか。あったら、是非とも教えてください。
 私は、ワニ皮を取ったりするために家畜として繁殖することに反対はしません。ウシやブタと同じだと思っています。動物そのものを殺すのが悪いという思想とワシントン条約とは関係のないことだと思います。
Commented by stochinai at 2005-08-22 18:21
>法を守ることが大事なのか希少な動物を保護することが大事なのか
 議論のすれ違っているところがわかりました。私は動物を保護するために法律を利用しようと思っています。法律がないところでは、建前でしか議論できないのでお願いしかできないのですが、法律があるのなら(私から見て)悪いことをやっている業者は、どんどん取り締まれば良いと思っています。
 ディープな動物愛好家の多くはかなりの知識を持っている人が多いので、密輸で手に入れたものであるかどうかとか、書類が偽造されたものであるかどうかなどということを知った上で、確信犯的に手に入れている人が多いような印象を持っています。それでも、きちんと寿命が尽きるまで育ててくれて、場合によっては繁殖させてくれるとしたら、たとえ違法行為をしていたとしてもそんなに強く責めなくてもよいかな、とは思っています。
 要は、動物を人間の欲望(所有欲など)によって絶滅させてしまってはいけないと思っているということなので、人間の欲望のおかげで放って置いたら絶滅するものが繁殖できたのだとしたら、本心では褒めても良いとすら思っています。
by stochinai | 2005-08-17 19:59 | つぶやき | Comments(6)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai