2005年 08月 27日
ヤドクガエルは毒を作らない
ヤドクガエルは、中南米のものが有名ですが他の地域にもいます。
南米のMelanophyrniscus属 (Bufonidae科)、オーストラリアのPseudophryne属 (Myobatrachidae科)、もっとも有名な中南米のDendrobates属,Epipedobates属, Phyllobates属 (Dendrobatidae科)、そしてマダガスカルのMantella (Mantellidae科)が主なもので、すべてが皮膚腺に毒であるアルカロイドを持っています。タイにも弱いながらもアルカロイドを持つLimnonectes kuhliというカエルがいるそうです。
昔はカエルがアルカロイドを作っていると思われていたこともあるのですが、長い間飼育しているうちに毒が弱くなってくることが知られてきたことから、人工的にショウジョウバエだけで飼育してみたところ、全く毒のない「ヤドクガエル」になりました。また、餌にアルカロイドを混ぜて食べさせたところ、アルカロイドはカエルには全く毒性を示さなかったばかりか皮膚に蓄積することも示されました。つまり、毒を持ったヤドクガエルに変身したのです。
このことから、ほとんどのケースにおいて毒アルカロイドは野生のヤドクガエルが食べている餌(甲虫、アリ、ヤスデ)が持っているものに由来すると考えられています。ただし、オーストラリアのカエルは自分でアルカロイドを合成するそうです。
ヤドクガエルの研究は主に、中南米のカエルを使って行われてきましたが、最近発表された論文(Convergent evolution of chemical defense in poison frogs and arthropod prey between Madagascar and the Neotropics:Published online before print August 8, 2005, 10.1073/pnas.0503502102:PNAS | August 16, 2005 | vol. 102 | no. 33 | 11617-11622 )によると、マダガスカルと中南米のヤドクガエルは全然近縁ではないにもかかわらず、餌であるアリやヤスデからほとんど同じアルカロイドを取り込んで皮膚にためていることが示されました。
中南米とマダガスカルには同じ種の毒を持つヤスデはいるようなのですが、どちらでもカエルの主な餌はアリでありアルカロイドも主にアリから得ているようです。それぞれのアリも進化的には近縁ではなく、アルカロイドもアリ自身が作っているというよりは、植物からアリが取り込んでいるもののようなので、どちらの地方においても毒を持った植物を食べて毒をためるアリが別々に進化して、そしてその毒を持ったアリを食べて毒をためるカエルが別々に進化というお話のようです。
こういう現象を「収斂進化」と呼びます。
収斂は不思議な現象だと言われることがあるのですが、たとえば毒で身を守るというようなことを考えた場合、自分たちを食べそうな動物にとっての毒というものはある程度決まっているわけで、結果的に違う動物でも同じ毒を利用することになることも当然と言えば当然かもしれません。
また、中南米のヤドクガエルとマダガスカルのヤドクガエルが、似たような派手な色と模様の「警戒色」を持つようになったことについても、それが捕食者に対する「俺を食うな」というメッセージだとすると、毒を持つように進化したカエルがそういう機能を進化させることについては、わかりやすい気がします。
地球という狭い環境では収斂進化はごく普通に見られる現象なのではないかと、この論文を読んでまたまた感じました。
論文のオリジナルはこちらに、またここに読みやすい解説記事があります。
南米のMelanophyrniscus属 (Bufonidae科)、オーストラリアのPseudophryne属 (Myobatrachidae科)、もっとも有名な中南米のDendrobates属,Epipedobates属, Phyllobates属 (Dendrobatidae科)、そしてマダガスカルのMantella (Mantellidae科)が主なもので、すべてが皮膚腺に毒であるアルカロイドを持っています。タイにも弱いながらもアルカロイドを持つLimnonectes kuhliというカエルがいるそうです。
昔はカエルがアルカロイドを作っていると思われていたこともあるのですが、長い間飼育しているうちに毒が弱くなってくることが知られてきたことから、人工的にショウジョウバエだけで飼育してみたところ、全く毒のない「ヤドクガエル」になりました。また、餌にアルカロイドを混ぜて食べさせたところ、アルカロイドはカエルには全く毒性を示さなかったばかりか皮膚に蓄積することも示されました。つまり、毒を持ったヤドクガエルに変身したのです。
このことから、ほとんどのケースにおいて毒アルカロイドは野生のヤドクガエルが食べている餌(甲虫、アリ、ヤスデ)が持っているものに由来すると考えられています。ただし、オーストラリアのカエルは自分でアルカロイドを合成するそうです。
ヤドクガエルの研究は主に、中南米のカエルを使って行われてきましたが、最近発表された論文(Convergent evolution of chemical defense in poison frogs and arthropod prey between Madagascar and the Neotropics:Published online before print August 8, 2005, 10.1073/pnas.0503502102:PNAS | August 16, 2005 | vol. 102 | no. 33 | 11617-11622 )によると、マダガスカルと中南米のヤドクガエルは全然近縁ではないにもかかわらず、餌であるアリやヤスデからほとんど同じアルカロイドを取り込んで皮膚にためていることが示されました。
中南米とマダガスカルには同じ種の毒を持つヤスデはいるようなのですが、どちらでもカエルの主な餌はアリでありアルカロイドも主にアリから得ているようです。それぞれのアリも進化的には近縁ではなく、アルカロイドもアリ自身が作っているというよりは、植物からアリが取り込んでいるもののようなので、どちらの地方においても毒を持った植物を食べて毒をためるアリが別々に進化して、そしてその毒を持ったアリを食べて毒をためるカエルが別々に進化というお話のようです。
こういう現象を「収斂進化」と呼びます。
収斂は不思議な現象だと言われることがあるのですが、たとえば毒で身を守るというようなことを考えた場合、自分たちを食べそうな動物にとっての毒というものはある程度決まっているわけで、結果的に違う動物でも同じ毒を利用することになることも当然と言えば当然かもしれません。
また、中南米のヤドクガエルとマダガスカルのヤドクガエルが、似たような派手な色と模様の「警戒色」を持つようになったことについても、それが捕食者に対する「俺を食うな」というメッセージだとすると、毒を持つように進化したカエルがそういう機能を進化させることについては、わかりやすい気がします。
地球という狭い環境では収斂進化はごく普通に見られる現象なのではないかと、この論文を読んでまたまた感じました。
論文のオリジナルはこちらに、またここに読みやすい解説記事があります。
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inoue0 at 2005-08-30 10:18
他にも体内の微生物の毒で身を守ってる生物がいたような気がするんですが思い出せません。なんだったか。
環境によって生物が毒を出したり出さなかったりというアイディアは「風の谷のナウシカ」にも登場しました。
環境によって生物が毒を出したり出さなかったりというアイディアは「風の谷のナウシカ」にも登場しました。
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blue
at 2005-08-30 11:15
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フグもそうらしいと言うので、餌の藻を食べさせないで無毒化に成功したと佐賀?で無毒フグ経済特区を申請して、フグ毒については完全に解明されたわけでないと却下されましたね。どうも実際に毒を作る?フグも居るらしいというからややこしい。毒の入ったある種の植物を食べて毒を蓄積しているなら、その植物がないところで自身が毒を作るのは進化かもしれないけど。ところで毒きのこですが、食用きのこそっくりの毒キノコと言うけど、あれは食用キノコが毒キノコそっくりに進化した結果で、毒きのこそっくりの食用キノコと言うのが正しい??
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stochinai at 2005-08-30 14:29
ホタテやカキの貝毒もプランクトン由来ですが、貝はだんだんと毒に対して抵抗性を持ってくるように進化してくるため、人間や他の動物に食べられなくなる(それらが死ぬから)という話があります。
イモリもフグと同じテトロロドキシンを持っていますが、こちらの起源は細菌説と自作説がまだ決着していないようです。一方、アメリカのイモリを食べるガータースネイクは、テトロドトキシンに抵抗力を持つように進化しています。
食うか食われるかにまつわる進化には、とてもおもしろいお話が満載です。
イモリもフグと同じテトロロドキシンを持っていますが、こちらの起源は細菌説と自作説がまだ決着していないようです。一方、アメリカのイモリを食べるガータースネイクは、テトロドトキシンに抵抗力を持つように進化しています。
食うか食われるかにまつわる進化には、とてもおもしろいお話が満載です。
by stochinai
| 2005-08-27 17:15
| 生物学
|
Comments(3)