5号館を出て

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43年前に初めて会ったカエルのゲノムが解読された【追記あり】

 札幌は予報を越えて朝からアラレやミゾレが間欠的に降っており、誰もが見逃すはずもない正真正銘の初雪日となりました。

 そして以前から水面下で動いていると聞かされていた論文が発表になりました。表紙も取りました(^^)。

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 アフリカからスイスのバーゼルさらにアメリカを経て、日本で群馬大学さらに北海道大学で継代飼育されてきたアフリカツメガエルJ系統(最初は群馬由来なのでG系統と呼んでいました)の全ゲノム解析の結果が発表になりました。

 Natureの論文はオープンアクセスになっているので、どなたも全文を読むことができます。


 日本語バージョン(タイトルと要約だけですが)はこちら


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 いきなりNature論文を英語で読めと言われても、生物学科の4年生でも戸惑うかもしれませんが、東大のプレス・リリースがわかりやすく解説してくれています。

 2016/10/20

 私が北海道大学の理学部動物学専攻の大学院に入学したのが1973年でした。その時に実験動物として与えられたアフリカツメガエルの飼育個体がここで解析されているJ系統のもとになっています。
注6 J系統
片桐千明と栃内新(北海道大学)によって1973年からオスメス一番(ひとつがい)を用いて樹立された、アフリカツメガエルで唯一の高度に純化された近交系。近交系とは、兄弟姉妹の集団から近親交配を繰り返して得られた、父親由来のゲノムと母親由来のゲノムが同じになった系統のことである。JはJapanから命名。現在その系統が井筒ゆみ(新潟大学)により維持され、免疫学の実験に用いられている。
 当時からこの飼育個体群はある程度近交化が進んでいたことはわかっていたのですが、私が当時与えられていた免疫学をテーマとする研究のためにはできる限り遺伝子の均一化が進んだ「純系」が欲しかったので、とりあえずという感じで始めた兄妹交配による近交が現在に至るまでなんと40年以上も続いてきたことになります。外から見たら「ただ飼育していただけじゃないか」ということですが、やはり継続は何かを生み出すということですね。この論文に私は直接の関与はしていませんが、非常におもしろい結果に大満足しています。

 もともと、アフリカツメガエルの種は異種交雑によって染色体が倍加することを繰り返してきたと考えられていました。いわゆるアフリカツメガエルとして広く使われているXenopus laevisは36本の染色体を持っていますが、これは18本の染色体を持つ祖先となる2つの近縁種の交雑によって「4倍体」の新種となったものだと言われていました。こういう交雑で新種ができると同じ働きをする遺伝子が4つある状態になります。我々の持つ遺伝子(染色体)は通常2つずつでうまく働くようになっているので、3つでもうまくいかないことがあります(ほとんど問題がない場合でもダウン症と呼ばれる状況になることもあります)。ましてや4つになるとうまく生きてはいけない可能性がかなり高くなってきますが、その時に多すぎる遺伝子(染色体)を眠らせることによって異常の出現を抑えるとともに、その眠っている遺伝子を今度は別のはたらきを持つようにすることによって今までにない能力を獲得することもできるだろうとも考えられていました。スーパー新種の誕生です。

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 今回のゲノム解析ではXenopus laevisの持つ36本の染色体がもとは別種のカエルに由来すると考えられる18本組の染色体が2セットからなることが見事に示されています。

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 赤っぽく染められた染色体のセットと、青っぽい染色体のセットが異なる祖先に由来するセットだということを示唆しています。

 世界中の研究室(とくに動物発生学の研究室)で使われているため、あらゆる両生類の中で世界でもっとも分布域が広まったと言われるアフリカツメガエルですが、その遺伝子の複雑さから分子遺伝学的解析が遅れていると言われてきました。しかし、今回のJ系統のゲノム解析の終了によって再び生物学研究の先頭に立つことが期待されています。

 私はすでに現場を引退していますが、昔育てたカエルたちの子孫が世界中でこんなにたくさんの研究室で使われているのかと思うと、なんとも言えない思いになるものではあります。






by STOCHINAI | 2016-10-20 22:25 | 生物学 | Comments(0)

風わたり泥も乾きて春の草             嵐雪


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