5号館を出て

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続く真冬日の中、南半球の有袋類に思いをはせる

 今日で3連続の真冬日となっています。今日は出かけたこともあって写真がないので、1週間ほど前にオープンアクセスになっていた論文を読んでみましょう。

 タスマニアタイガー(日本ではなぜかフクロオオカミと呼ばれる)の胎児(有袋類で胎盤はないので袋の中で育ちつつある赤ちゃん)のゲノムを解析した論文です。


 タスマニアタイガーは最後の1匹が1936年までは動物園で飼育されていた肉食の有袋類で、動画も残っていて今でもネットで簡単に見ることができます。一見してわかるように、有袋類ではありますがカンガルーなどにはまったく似ておらず、真獣類(有胎盤類)イヌ科のオオカミやイヌによく似ていることから、肉食に適応した結果形態などが収斂進化(収束進化)した典型的な例とされています。100年前には生きていたということで標本もたくさん残っており、今回ゲノムDNA解析を行ったのはアルコール標本で保存されていた赤ちゃんです。Fig.1にタスマニアタイガーとヒトと一緒にオーストラリアに導入されたイヌ(オオカミ)の仲間のディンゴ、それにタスマニアタイガーの赤ちゃんのアルコール標本の写真があります。

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 たしかにタスマニアタイガーとディンゴの外見は尾と背中の縞模様を除くとそっくりです。有袋類と有胎盤類は共通の祖先から進化してきたことはたしかで、その共通祖先は小型のネズミ(有袋類ならばオポッサム、有胎盤類ならば食虫類のネズミのようなもの)と考えられていますから、そこから進化してきたタスマニアタイガーとオオカミが似ているということは、似たような形態を持つ動物が独立に進化してきたと考えるしかなく、これを収斂と呼ぶわけです。

 ちょっと出典が見当たりませんが、哺乳類の進化を扱った教科書から有袋類と有胎盤類の放散進化のイメージ図をお借りしました。まずは有袋類の系統樹。

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 右上にタスマニアタイガーがいます。

 そして有胎盤類(祖先は有袋類と考えられています)の系統樹。

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 中央の真上あたりに肉食類(イヌ・ネコですね)が位置しています。

 このように別々の経路を経て進化してきたタスマニアタイガーとオオカミのような肉食胎盤動物の頭蓋骨の形態を比べてみると、その類似性は一目瞭然です。精密に計測してみてもタスマニアタイガーの頭蓋骨は有袋類のどの仲間ともあまり似ておらず、有胎盤類の肉食類とよく似た形態をしていることが示されています。

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 一般に有袋類や有胎盤類では食性が少しくらい違っても似たような頭蓋骨の形態をある程度維持していて、図でも左側の一群が有袋類そして右側の一群が有胎盤類と分かれるのですが、タスマニアタイガー(ともうひとつ緑の丸の肉食動物)に関しては頭蓋骨の形態がほとんど有胎盤類の肉食類と同じような形態になっている(星印)のは驚くべきことです。

 一方、この収斂と同じようなことが遺伝子にも起こっているのかと調べてみると、それはなかったようなのです。いくつか遺伝子レベルで似ているものが見つかりましたが、それはたまたま似ていただけで、今回観察された形態的収斂を説明するものは見つからなかったといいます。つまり、タスマニアタイガーがオオカミに似た形態をもつようになったのはタンパク質の設計図となる遺伝子に収斂進化が起こったからというわけではなく、骨や筋肉を作る遺伝子をいつどのように働かせるかを調節する遺伝子に起こった選択の結果、収斂が起こったのだろうということのようです。

 遺伝子の調節部位に起こった変化によって、結果的に収斂が起こる例は他の動植物でも見つかっているようで、今回の結果もそういう例のひとつということになりました。

 それにしても、同じ機能を果たすためには祖先が全く違っても長い進化という選択をへると結果として同じような形態になってしまうというのは不思議な現象であることに違いはありません。

 もう一つ今回の論文では標本というものの重要性が再確認されています。過去には単なるアルコール漬けの珍しい動物の赤ちゃんの標本ということで保存されていたのかもしれませんが、それが現代のゲノム科学の発展により生きていたときにもっていたすべてのDNA配列が決定できて、他の動物と比較することができるということは、アルコール標本を作った研究者には想像もできなかったことだと思います。科学が発展するにつれてそのもつ意味が一緒に発展して大きくなっていくということが「本物」である標本を保存維持することの大きな意味であることが証明されたこともこの研究の大きな意義だと思います。

 博物館で本物を保存維持することは、過去の地球から未来への贈り物としてのタイムカプセルになっているということを、もっと大切に考えていいのだと思います。









by STOCHINAI | 2017-12-19 23:02 | 生物学 | Comments(0)

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