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今は死んだペットのクローンを作ることも可能だけどがっかりするよ

 1996年にドリーという名のクローン・ヒツジが誕生してから、それまで難しいとされていた哺乳類のクローンが続々と誕生しています。すぐにできたのはマウス、ウシ、ブタ、ウサギ、ネコなどです。いずれもヒトの生活に身近な家畜やペットです。意外なことにイヌのクローンはなかなかできませんでしたが、2005年に韓国のソウル大学のファン・ウソク(ヒトのクローン論文捏造で話題になったあのファン・ウソク)に率いられた研究グループがアフガンハウンドで成功させました。

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 これは、その時にプレスリリースされた記念写真ですが、中央にいるのがクローン犬のSnuppy(オス)で左がクローンのもとになる細胞(核)を提供したオスイヌのTai、右にいるのがSnuppyを妊娠した代理母のイヌです。

 その時の研究チームでアドバイザーをしていた CheMyong Jay Ko 教授が今はイリノイ大学で研究室を構えていて、アメリカでイヌのクローン作りの権威として活躍しているそうです。

 というわけで、今でもKo教授のところには「今、交通事故でうちのイヌが死んじゃったんだけど、クローンを作ってくれないか」という依頼が飛び込んでくるそうで、そういう時には彼は学生と一緒に現場に駆けつけ、死んだイヌから生きた細胞を取り出して研究室で培養して、そのイヌのクローンを作るということをしているそうです。

 クローン動物に関してはほんとうに元の動物の正確なコピーなのかどうかの論争もあったのですが、不思議なことにSnuppyがTaiと同じ12歳という年齢でTaiと同じがんによって死んでしまうということがあったり、Snuppyの脂肪幹細胞から新たに3匹のクローンが作られたりということから今やクローンは本当にもとの動物の遺伝子(ゲノム)を正確に受け継いだものだということを疑う人は少ないと思います。こちらがSnuppyの3匹のクローンです。



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 ところがところがなのであります。比較的簡単にペットのクローンを作れる時代になったとはいうものの問題があります。一つは値段です。

 今やこの技術を使ってペットのクローンを作ってくれる業者が韓国を中心にたくさんあり、クローンを作る値段はアメリカのViagenという会社では一匹税抜きで5万ドルだそうです。ネコなら2万5千ドルという価格はどうでしょう。どんなに高くても新しいイヌやネコを買うのにこれほど高くはないですよね。

 でもまあ、お金持ちにとったら5万ドルや10万ドルは出せないお金ではありません。有名な歌手で女優のバーバラ・ストレイサンド Barbara Streisand がインターネットの衝撃のインタビュー記事に答えていました。

 なんと彼女は飼っていたメスのイヌ(コトン・ド・テュレアールという白いフワフワの種類)が去年の5月に死んだので、そのイヌから2匹のクローンを作ってもらっていたのでした。さすが金持ちは違いますね。1000万円払ったということでしょうか(笑)。

 彼女はニューヨーク・タイムズ紙のインタビューに答えて、14年間も一緒に暮らした大好きなイヌが死んでしまったのでなんとかならないかと思った時、彼女の友人がペットのクローンを作ったのを思い出して同じようにクローンを作ってもらったそうです。

 クローンを作るプロセスは生物学の実験そのもので、卵の核を死んだイヌから得た生きた核と交換して代理母の子宮で育てるということなのですが、成功率はそれほど高くありませんので、1000のオーダーの卵と100のオーダーの代理母による妊娠の中から数例の成功が得られるというものです。というわけで5千ドルというのはそれほどの暴利ではないのかもしれませんが、この膨大な卵と代理母のコストは倫理的にどうなのか、という意見は当然出てくると思います。

 とまあ、膨大なイヌの犠牲のもとにクローンを作るわけですが、なんとか成功にこぎつけることができるので商売としては成り立つのですが、最後にとんでもない「落ち」があります。

 莫大なお金を出してでもペットを復活させたいという思いがクローンづくりへと人を導くのでしょうが、そのくらいペットのイヌやネコと深く付き合う人ならばペットの性格が一匹一匹ずいぶん違うことも知っていますし、見た目がどんなに似ていてもその性格が違うとすぐにわかるのものです。

 バーバラ・ストレイサンドのもとに届けられた2匹のクローンも見た目は驚くほどよく似た2匹でした。(下の写真を良く見ると明らかに捏造したものだと後で気がつきましたが、そのままにしておきます。2018年3月28日に追記)

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 でも、バーバラはイヌを受け取ってすぐにわかったそうです。この2匹はもとのイヌとはまったく「性格」が違うということが。しかも、2匹ともがそれぞれまた異なる性格の持ち主だったということもわかりました。「『魂』はクローンにならないのよね」というのがバーバラの感想だったようですが、けだし生物学的真理でもあります(笑)。

 そうなのです。遺伝子は100%同じイヌでも性格は一匹一匹が違うものになるのは、同じ遺伝子を持つヒトの一卵性双生児でも性格などはまったく異なることが多いことは誰でもが知っていることです。高い授業料を払ってクローンを作ってみたお金持ちの先駆者のおかげで我々貧乏人はクローンを作っても死んだペットは復活してこないという「生物学的真理」を再確認することができました。

 理屈ではわかっていることでもやっぱり実際にやってみると説得力のある結果が得られるものですね。

(今日の記事はこちらの記事 The Real Reasons You Shouldn’t Clone Your Dogを中心にして書きました。)








by STOCHINAI | 2018-03-26 21:16 | 生物学 | Comments(0)

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