5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

大学の自浄作用

 非常に早い話の展開でした。それまで続けてきた強気のコメントにもかかわらず、大学の調査チームの出した中間報告を受けて、わずかその3時間後に渦中の人ファン教授は「ソウル大教授を辞職する。しかし、ヒトクローン胚のES細胞は、われわれ大韓民国の技術だと、国民の皆さんは再び確認することになる」と、ふたたび負け惜しみのような声明を出しながらも敗北を認めたのです(毎日新聞)。

 国を挙げて、大量の研究費を注ぎ込んで世界の最先端を走り続けてきた、この数年の成果はほんの数週間ですべてが瓦解してしまったように見えます。

 少なくとも基礎科学の研究成果としては、今後は彼の出したすべての研究は「なかったもの」として扱われることになるはずです。

 同じ生物学を研究している人間として非常な脱力感を感じますが、それで良かったのだと思います。これが、裁判所や警察の手を借りることなく、大学や科学者自身の手で処理されたということが大事なことだと思うのです。

 今回の「事件」を経過を見ていると、始めのうちは韓国というものが科学研究倫理後進国の見本のようなことが次々と発覚してきましたし、その後は国民的にファン教授を守れ運動などが巻き起こり、これはもう国を挙げてダメなのかとしれないと思っているうちに、ソウル大学の調査委員会が迅速に調査を行い結果を発表するあたりから、雲行きが変わってきました。

 そうなのです。NatureやScienceという超一流雑誌を舞台にした論文ねつ造というスキャンダルに対して、日本の一流大学である大阪大学や東京大学がとった対応と比べると、今回の韓国における素早い動きはある意味でうらやましいと思いました。

 大阪大学で論文データ改ざんによる論文の取り下げ事件が起こったのは今年の5月、東大の教授が絡んだ大々的なデータねつ造疑惑事件が持ち上がったのが今年の9月です。

 たしかにいずれのケースも大学内に調査委員会が作られ、中間報告なども出されているような記憶はあるのですが、柳田充弘さんが「デシジョン(決定)の遅さではいまや日本は世界一だとわたくしは思います」と書いておられるように、まだ結論が出されていないのです。

 こんな状況を世界が見ているとしたら、日本の方が韓国よりも科学研究倫理に関しては後進国であることが暴露されてしまうのではないかと不安になってきます。

外国から見ると日本では何が起こっていて、どういう倫理観でことが定まっていくのかがさぞ分かりにくいでしょう。

 というような暢気なことを言っている場合ではないかもしれません。このまま放置しておくと、日本人の研究者であるというだけで国際的に差別されるようなことも起こるのではないでしょうか。現に、噂ですが最近はNatureやScienceにおいて日本からの投稿はかなり慎重に扱われるようになっている、と聞いたことがあります。

 こうしたことがほんとうかどうかということよりも、一刻も早く日本の科学者が自分たちの手で科学の世界における自己管理をして、不正などに対して自浄作用を働かせることができるような体制を作ることが必要なのだと思います。

 この件に関しても、文部科学省からの指示を待っているというようなことでは、日本の科学者というものが25兆円にも上る第3期科学技術基本計画などを正しく使う倫理など持ち合わせていない集団だと言われても反論の余地がないと思います。

 いっそ、返上した方がいいのではないでしょうか。
Commented by blue at 2005-12-24 19:16 x
確かに遅いですね。私の友人に盗作、盗用された被害者が居ますが、その盗作のいる大学にクレームをつけたそうですが、調査委員会、査問委員会が作られて、半年たってもなにも返事がないそうです。
Commented by K_Tachibana at 2005-12-24 23:33 x
私も自分のブログで書いたのですが,正しいチェック機能が働かない状況で25兆円もの政府研究開発投資目標を掲げてしまったのは,かなりマズイと思っています.
Commented at 2005-12-29 00:01 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
by stochinai | 2005-12-24 17:23 | 大学・高等教育 | Comments(3)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai