5号館を出て

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ヘビはどこで肢を失ったか(土中vs水中)

 先週のアシナシイモリは肢のない両生類でしたが、今日は肢のない爬虫類であるヘビの話です。

 私は知らなかったのですが、ヘビの肢がなくなったのは海なのか陸なのかということについて決着がついていなかったようです。というよりは、今までに化石で見つかっている発達した後肢を持つヘビ類の多くが海に住んでいたと考えられているため、どちらかというとヘビは海で生活するうちに肢を失ったという考え方も有力だったようです。

 たとえば、2000年に発表されたScienceの論文(Science 17 March 2000: A Fossil Snake with Limbs)に出ているHaasiophisというヘビはは、9千500万年前のもので、指まではっきりした非常に立派な後肢を持っています。

 ところが、これらの後肢を持ったヘビはどちらかというと、かなり進化した現生のヘビに近縁なのですが、今回Natureに発表されたヘビは、立派な後肢を持っているだけではなく、ヘビの祖先と言っても良いくらい今までに見つかったどのヘビよりも原始的な特徴を備えていて、しかも陸生だったようなのです(A Cretaceous terrestrial snake with robust hindlimbs and a sacrum 「頑丈な後肢と仙骨を持つ白亜紀の陸生ヘビ」)。

 さらに、すごいことに今までに見つかっている肢を持っているヘビの化石の「後肢」は、脊椎骨とのつながりが弱く、すでに痕跡器官と言っても良いくらい退化しているのに対して、今回発表されたNajashでは仙骨と呼ばれる、後肢とつながる脊椎骨があり、この後肢は機能していた可能性も高そうです。

 というわけで、ヘビもアシナシイモリと同じように穴を掘って土にもぐる生活をするうちに四肢を失ったと考えることのできる証拠のひとつが出てきたと言えるのではないでしょうか。

 哺乳類について考えてみても、海に出ていって四肢を失ったものはいません。ほとんどは逆に四肢を強力なヒレへと進化させているのです。そのことから考えても、ヘビが海へ出ていったために肢をなくしたという説は納得しにくいと思います。

 この件に関しては、NewScientistになかなか良い解説記事(Oldest snake fossil shows a bit of leg)が出ています。例によって、その日本語訳的解説が「科学ニュースあらかると」に出ていますので、ご参照下さい。

 いろいろな学者の意見が出ているのも、Natureなどの科学論文よりもおもしろいと思います。

 私としては、いろいろな先入観もあるのですが、ヘビはやはり地中生活で足を失ったという説が好きです。

 ただし、ひとつだけちょっと不安なデータがあります。海生と考えられるヘビの化石は9500万年前の地層から出ているのに、今回のヘビの化石はずっと新しい後期白亜紀(おそらく8700万年くらい前)のものだということなのです。

 もう少し、化石の探索が必要ということですね。
by stochinai | 2006-04-21 21:27 | 生物学 | Comments(0)

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