5号館を出て

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論文の無料公開は著者にとっても利益になる (追記あり)

 オンラインで誰でもが自由に最新の論文を無料でアクセスできる学術専門誌で、質量ともに超高額の有料専門誌におとらないPlosBiologyの最新号におもしろい論文が載っています。

 PlosBiolgyというくらいですから、生物学の論文が載る雑誌に、まったく生物学とは関係のない「オープンアクセスになっている論文は、そうではない論文よりも引用される頻度が上がる」ということを示している論文が出ているのです。

 Citation Advantage of Open Access Articles というその論文はもちろん、世界中の誰でもが自分のコンピューターから全文を読むことができますし、pdfファイルも無料でダウンロードできますので、是非とも読んでみてください。原著を読むのはちょっとつらいということでしたら、同じ号にOpen Access Increases Citation Rate という編集者による解説記事があります。

 オープンアクセスというのは、とりあえず(ネット上で)無料公開することと理解しても良いと思うのですが、オープンアクセス論文と非オープン論文のどちらが、他の研究者により引用されやすいかということを科学的に証明するのはなかなか難しいので、どちらかというと両方のスタイルの支持者が自分の好きな論文発表方法が優れているのだと勝手に主張してきたというのがこれまでの経緯です。

 ところが非常に権威のある雑誌のPNASにおもしろいシステムがあります。PNASでは、基本的には購読者(あるいは購読機関サイト)しか全文を読むことはできないのですが、ところどころに青い色が付いているOPEN ACCESS ARTICLEというものがあります。これは著者が投稿する時に$1000払うことで、出版とともにオープンアクセスできるようになるというオプションを選んだ論文です。ただし、PNASは偉い雑誌なので、オープンアクセスになっていない論文も半年後からは誰でもが自由に読めるようになります。

 Citation Advantage of Open Access Articles の著者であるGunther Eysenbachさんは、この制度に目をつけてPNASでオープンアクセスになっている論文とそうではない論文が、どのくらい引用されるかを比較したのです。同じ雑誌の中にある論文の比較は、かなり客観的なものだ考えられますから、この結果は重要です。
OA articles compared to non-OA articles remained twice as likely to be cited (odds ratio = 2.1 [1.5–2.9]) in the first 4–10 mo after publication (April 2005), with the odds ratio increasing to 2.9 (1.5–5.5) 10–16 mo after publication (October 2005).

 つまり、オープンアクセス論文は印刷後の最初の4-10ヶ月で非オープンアクセス論文の2.1倍引用されるだけではなく、この雑誌は印刷後6ヶ月からはすべての論文がオープンアクセスになるにもかかわらず、10-16ヶ月後でも2.6倍も引用され続けるという結果です。

 いちおう、PNASに載る論文の学問的レベルは査読制度によってある程度以上に保たれていることを考えると、この引用頻度の差は最初の6ヶ月の間オープンアクセスにしたかそうではなかったかによると結論しても良いと思われます。

 自然科学研究者の論文は、インパクトファクターという魔物によって支配されていて、ポストや研究費を獲得する際に隠然たる力を持っているという現実があります。インパクトファクターというのは雑誌が印刷されてから2年以内にどのくらい論文が他の人に引用されたかということを元にはじき出している数字なので、今回の論文の「インパクト」は大きいものだと思います。

 この論文では、オープンアクセスを雑誌のサイトではなく、個人のサイトや機関リポジトリで行った場合にはどうかということにも言及していますが、効果がないわけではなさそうとは言えるものの、やはり雑誌に載った段階でオープンになっていることの効果には遠く及ばないとも解析しています。

 私としては個人のサイトで論文を公開したり、機関リポジトリで公開するということはいわゆるロングテイル効果や、あるいは個々人の研究をを個人レベルあるいは機関(大学)でとらえ直すということに価値があると思っていますので、この論文で言っているように出版直後の引用の改善に役立つというような視点はちがうのではないかと思っていました。

 そういう意味でも、この論文は、オープンアクセスについてなんとなく思っていたことを「科学的に証明」してくれたという点でとても力づけられる解析をしてくれたと思います。

 やはり、科学論文は無料で世界中の人に公開されるべきなのです。しかし、それでは出版社が損をして雑誌が出せなくなるというのなら、出版社なしでそれを可能にする道を模索すべきです。

 そして、それを実現しているのがこの論文の載っているPlosJournalsなのです。答は出たと思いませんか。

【追記】
 そうなんです。こういうしくみは悪くはないのですが、その周辺で生活している人の収入を確保しておかないと、このしくみ自体を維持することが難しくなります。というわけで、マルセルさんの「どうやって御飯を食べるのか?」を読んで、またみんなで考えましょう!
Commented by MANTA at 2006-05-19 08:58 x
いつも拝見しております。上記記事大変興味深いです。出版社が発行する学術誌の場合は、"R25"ではないですがフリーペーパー化して広告などで収益を得るというスタイルが考えられますね。一方、学会が主催する学術誌の場合は、「会費=論文を読む権利」の性格もあり、学術誌が無料になると会員がいなくなっていしまいます。学会自体が学術誌購読以外のメリットを会員に与えられればよいのでしょうけれども。
Commented by stochinai at 2006-05-19 12:35
 私は、可能な学会では学会誌を受け取らないオプションを選択しています。オンラインでアクセスできるならば場所もとらないし、検索もできるので助かります。ただし、学会誌を作るために文科省の補助金をもらうためにはある数は印刷しなければならないという愚かな制約があるために、配布しないというオプションを取れない学会もあると聞いたことがあります。補助金行政の無駄使いというヤツです。
 また学会誌に投稿するのは非会員でもできますので、私が学会に加入しているのは、学会誌を読むというよりは大会に参加する権利を確保するためという気分です。他の分野は知りませんけれども、私の分野の国内誌は有名国際ジャーナルにリジェクトされた論文のセーフティネットになっているような気がします。
Commented by ばななF at 2006-05-19 12:37 x
>出版社なしでそれを可能にする道を模索すべきです。

これを出版社に求めるのは無茶な話ですよ。。
Commented by stochinai at 2006-05-19 12:43
 はははは、まったくその通りです。
 でも、大手の出版社がどんどん雑誌を吸収合併して値段をつりあげたという歴史がありますので、そういう出版社に同情する余地はないと思っています。逆に小さな出版社とならば、無料学術誌を作る方向を協力できるかもしれません。
Commented by マルセル at 2006-05-19 22:26 x
「どうやって御飯を食べるのか?」という記事を書きました、TB不可なのでコメントにします
Commented by マルセル at 2006-05-20 09:39 x
追記ありがとうございます<(__)>、日本の学者世界では諸外国に比べ論文の評価がそのまま御飯に繋がらない、どうも村社会の論理の方が優先されるつうことがあるやに聞き及んでおります、すべてのケースで村社会の論理を悪、論文の評価=実力主義を善とはしませんが、その絶妙なバランスは考えた方がいいですね
Commented by stochinai at 2006-05-20 17:28
 昨今の理科離れ危機説もよく考えてみると、文系の支配層が自分たちのために働いてくれる理系技術者がいなくなって困るというようにも聞こえます。やはり、科学技術はお金儲けの手段にすぎないと思っている文系の人が日本をリードしていることが問題なのかもしれません。
Commented by skato at 2006-05-23 14:22 x
PNASのようなOA論文と非OA論文が混在した雑誌のことをHybrid OA journalsを呼んでいるようです。Oxford University Press, Blackwell Publishing 及びSpringer Verlagでも適用するタイトルに違いがありますが、そのような雑誌があります。
Commented by stochinai at 2006-05-23 15:58
 skatoさん、情報ありがとうございました。貧乏な研究室にとっては、公開用のチャージもバカにならないことが多いので、もしも論文がアクセプトされたら文科省がご褒美としてOAチャージを払ってくれるというようなシステムがあれば良いと思っています。これなら、業績が上がった時点での補助なので、研究費を補助する場合のような「はずれ」がないという意味で、反対する人はいないのではないかという気がします。

         >どうでしょう?文科省関係者の方々
by stochinai | 2006-05-18 22:16 | 科学一般 | Comments(9)

今日二つ三つ朝顔の通り道          稲畑廣太郎


by stochinai