2006年 06月 24日
泥棒に縄をなわせる
不正を行う可能性のある人間に、不正の取り締まりをやらせるようなことを「泥棒に縄をなわせる」と言います。
ここ数日、報道が続いている早稲田大学理工学部教授による研究費の不正受給問題の渦中の人、松本和子さんは今年の3月17日現在の名簿によると文部科学省の「科学技術・学術審議会研究活動の不正行為に関する特別委員会委員」で、主査代理という重職に任命されていたようです。ちなみに、以下のような方々がメンバーとして名簿に載っています。
研究者の不正行為を問題にするのであれば、そのメンバーの多くは利害関係のない第3者であるべきで、事情を聞いたりする時に現場の研究者を呼ぶというのが筋ではないでしょうか。たとえば、警察の不正行為を防止するための議論を警察にやってもらって出てきた結論などを信用する気になるものでしょうか。
タイミングが良すぎる感じもするのですが、松本さんが委員をしていた特別委員会が昨23日に第6回の委員会を開いて、不正の調査や罰則などの対策を盛り込んだ指針案を発表しました。やはりというべきか、そこでは松本さんが告発されたような研究費の不正使用などは議論されていなかったようです。
逆にそのような議論をする中で、現在の「研究費」というものが、研究遂行にとってかなり使いにくいものであることが明らかになってくることも期待したいところです。すでにあちこちで指摘されていることですが、純粋に研究目的にのみ使われるものでありながら、制度的には「不適切な方法」で支出されているものが現実にはかなりあると思います。そうして、その件については、研究者側にあまり罪悪感がないことも事実です。
ところが、そうした「正しい不適切支出」とまったく同じやり方で、今回松本さんが疑惑を持たれているような私的流用となる「間違った不適切支出」は、テクニカルには見分けることができないものです。しかし、「正しい不適切支出」の存在が許されるような制度がある限り、その隙をついて「不正な不適切支出」をやろうとする連中が出てくることを阻止することはできません。
つまり、この問題の解決にはまず「正しい不適切支出」の存在が必要なくなるような、研究費の運用制度の変更が必要なのです。そこに手をつけずに、罰則だけを強化することは、必要な研究費の支出もできなくなるというというような波及効果が起こることも考えられ、研究活動が低下する危惧もあります。
今回の不正行為に関する特別委員会の議論が「泥棒に縄をなわせる」ようなものであることを象徴していると思われる文言が指針の中に盛り込まれています。次の文を読んでみてください。
こういう「事件」における内部告発者は、関係者ならばなんとなくわかる場合が多いもので、多くの場合は弱い立場にいる人ではないかと思われます。そういう人の名前を公表するということは、その人を社会的に葬り去るということになるでしょう。そのような脅し文句をちらつかせているような研究機関に、自分の身を危険にさらしてまで告発しようという気に誰がなるでしょうか。
結局、この指針も「内部告発抑止のための指針」になってしまいそうな気がします。
だから、泥棒に縄をなわせてはいけないのです。
【追記】
投稿後、お二人からトラックバックをいただきましたが、あちこちで関連記事を見つけましたので、ここにまとめておきたいと思います。
ポスドクのひとりごと
研究費流用問題
marginBlog
研究上の不正行為と研究費の不正流用
地獄のハイウェイ
身上調査はされていたの?
中年哲学徒の備忘録
研究費不正使用
ある大学研究者の悩み
研究費で投資信託?
ladylakeの時間
不正の爆弾
科学コミュニケーションブログ
改めて文科省のナノテク関連サイトから,松本和子教授のインタビュー記事を読み直す
さらに、コメントをいただいたアマクナさんと、そこからたどってchem@uさんのところ。こちらは研究費の「不適切な」使われ方が生々しく(というか、きわめて正確に)記述されていると思います。
けんきゅうせいかつ りそうろん
研究費不正疑惑
ケミストの日常
研究費の流用
ここ数日、報道が続いている早稲田大学理工学部教授による研究費の不正受給問題の渦中の人、松本和子さんは今年の3月17日現在の名簿によると文部科学省の「科学技術・学術審議会研究活動の不正行為に関する特別委員会委員」で、主査代理という重職に任命されていたようです。ちなみに、以下のような方々がメンバーとして名簿に載っています。
東京大学名誉教授 (主査)この名簿を見ていて、不思議に感じられるのは、ほとんどが現役の研究者あるいはその人達とともに仕事をなさっておられると思われる方であり、どちらかというと問題になっている不正行為をする可能性がある側に属すると思われることです。
奈良先端科学技術大学院大学理事・副学長
国立精神・神経センター総長
情報・システム研究機構国立情報学研究所長
慶応義塾大学医学部教授
一橋大学経済研究所教授
東京大学大学院農学生命科学研究科教授
早稲田大学理工学術院教授 (主査代理)
東京大学大学院人文・社会系研究科教授
東北大学大学院法学研究科教授
独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター上席フェロー
独立行政法人理化学研究所主任研究員
研究者の不正行為を問題にするのであれば、そのメンバーの多くは利害関係のない第3者であるべきで、事情を聞いたりする時に現場の研究者を呼ぶというのが筋ではないでしょうか。たとえば、警察の不正行為を防止するための議論を警察にやってもらって出てきた結論などを信用する気になるものでしょうか。
タイミングが良すぎる感じもするのですが、松本さんが委員をしていた特別委員会が昨23日に第6回の委員会を開いて、不正の調査や罰則などの対策を盛り込んだ指針案を発表しました。やはりというべきか、そこでは松本さんが告発されたような研究費の不正使用などは議論されていなかったようです。
指針案の対象となるのは、国の研究費のうち、研究者が応募して、国の審査を経て支給される競争的資金による研究で起きた、論文の捏造(ねつぞう)、改ざん、盗用。研究費の不正使用というような、もっとも起こりやすいことが議論されなかったのは、まさか委員の中にその疑いのある人がいたからというようなことはないと思いますが(笑)、研究者の行う不正の中ではもっともポピュラーなものでしょうから、是非とも議論しておいて欲しいと思います。
逆にそのような議論をする中で、現在の「研究費」というものが、研究遂行にとってかなり使いにくいものであることが明らかになってくることも期待したいところです。すでにあちこちで指摘されていることですが、純粋に研究目的にのみ使われるものでありながら、制度的には「不適切な方法」で支出されているものが現実にはかなりあると思います。そうして、その件については、研究者側にあまり罪悪感がないことも事実です。
ところが、そうした「正しい不適切支出」とまったく同じやり方で、今回松本さんが疑惑を持たれているような私的流用となる「間違った不適切支出」は、テクニカルには見分けることができないものです。しかし、「正しい不適切支出」の存在が許されるような制度がある限り、その隙をついて「不正な不適切支出」をやろうとする連中が出てくることを阻止することはできません。
つまり、この問題の解決にはまず「正しい不適切支出」の存在が必要なくなるような、研究費の運用制度の変更が必要なのです。そこに手をつけずに、罰則だけを強化することは、必要な研究費の支出もできなくなるというというような波及効果が起こることも考えられ、研究活動が低下する危惧もあります。
今回の不正行為に関する特別委員会の議論が「泥棒に縄をなわせる」ようなものであることを象徴していると思われる文言が指針の中に盛り込まれています。次の文を読んでみてください。
一方、根拠の薄い告発で研究活動が妨げられないよう、悪意に基づく告発と判断した場合は、研究機関は告発者名を公表し、刑事告発や懲戒処分などを検討する。こんなことは、敢えて指針の中に入れるべきことでしょうか。本当に不当な告発だった場合には、名誉毀損や地位保全ということが現行の法律の下でも可能です。それなのに、敢えて指針の中にこうした一文を入れるということは、「内部告発者への牽制」と思われても仕方がないと思います。こんなところにも、研究者に研究者監視のルール作りをさせることのマイナス面が出ていると思いました。
こういう「事件」における内部告発者は、関係者ならばなんとなくわかる場合が多いもので、多くの場合は弱い立場にいる人ではないかと思われます。そういう人の名前を公表するということは、その人を社会的に葬り去るということになるでしょう。そのような脅し文句をちらつかせているような研究機関に、自分の身を危険にさらしてまで告発しようという気に誰がなるでしょうか。
結局、この指針も「内部告発抑止のための指針」になってしまいそうな気がします。
だから、泥棒に縄をなわせてはいけないのです。
【追記】
投稿後、お二人からトラックバックをいただきましたが、あちこちで関連記事を見つけましたので、ここにまとめておきたいと思います。
ポスドクのひとりごと
研究費流用問題
marginBlog
研究上の不正行為と研究費の不正流用
地獄のハイウェイ
身上調査はされていたの?
中年哲学徒の備忘録
研究費不正使用
ある大学研究者の悩み
研究費で投資信託?
ladylakeの時間
不正の爆弾
科学コミュニケーションブログ
改めて文科省のナノテク関連サイトから,松本和子教授のインタビュー記事を読み直す
さらに、コメントをいただいたアマクナさんと、そこからたどってchem@uさんのところ。こちらは研究費の「不適切な」使われ方が生々しく(というか、きわめて正確に)記述されていると思います。
けんきゅうせいかつ りそうろん
研究費不正疑惑
ケミストの日常
研究費の流用
Commented
by
K_Tachibana
at 2006-06-24 22:48
x
stochinaiさま
今日,理研横浜研の一般開放に出かけた際に,展示解説している理研の研究員の方に,それとなく彼女の話を聞いてみました.
「おっしゃるとおり「泥棒に縄をなわせてはいけない」と思います.当事者自身の研究生命が閉ざされるというリスクを負うばかりでなく,研究者コミュニティ全体の信用低下や士気低下にもつながります.一見,研究資金が潤沢と思われている横浜研でさえ,研究者の士気低下が見られます.
「内部告発防止のための指針」なぞ,社会は研究者コミュニティには求めてはいません.きちんとした仕事をして欲しいと望んでいるだけです.
今日,理研横浜研の一般開放に出かけた際に,展示解説している理研の研究員の方に,それとなく彼女の話を聞いてみました.
「おっしゃるとおり「泥棒に縄をなわせてはいけない」と思います.当事者自身の研究生命が閉ざされるというリスクを負うばかりでなく,研究者コミュニティ全体の信用低下や士気低下にもつながります.一見,研究資金が潤沢と思われている横浜研でさえ,研究者の士気低下が見られます.
「内部告発防止のための指針」なぞ,社会は研究者コミュニティには求めてはいません.きちんとした仕事をして欲しいと望んでいるだけです.
0
通りすがりの学生ですが、目的外の研究費利用に対して研究者側に罪悪感がない、というのは非常に実感しております。研究費の運用制度については確かに変更する必要があると思いますが、結局は研究社会という閉じた世界を開いていくことが一番重要なのではないでしょうか。
東大論文捏造問題など一連の不祥事に対しても、身内で解決しようとする空気があるため、いつも妙な違和感を感じています。
東大論文捏造問題など一連の不祥事に対しても、身内で解決しようとする空気があるため、いつも妙な違和感を感じています。
不正と目的外使用は違うような気もします。セレンディピティということはよくあることで、偶然を一切許さない研究なら発展性がないような気もします。この早稲田の先生は、不正でしょう。
Commented
by
stochinai at 2006-06-25 23:19
アマクナさん、コメントありがとうございました。学生という立場でありながら、正義感と絶妙な(大人の)バランス感覚を持っておられることに驚くとともに、そういう方にこそ日本の研究の世界を受け継いでもらいたいと思います。これからもよろしくお願いします。
Blueさん、いつもどうもです。研究費を目的外に使用することなどは一切ないという自信がある時には、制度上に問題があったとしても多少「柔軟な」研究費の運用をすることは、この国では何十年も続いてきた「伝統」です。そこへいきなり(特定分野だけですが)研究費バブルが起こった結果、研究以外のことにも「柔軟に運用」する人が出てきているようです。まあ、そんな人達は研究者でもなんでもないので、ある意味では気にもなりませんが、そんなバカを取り締まるために研究そのものを阻害するような規制ができてしまうのがこの国なのかなあという諦めに似た気持ちになりつつある今日この頃です。
Blueさん、いつもどうもです。研究費を目的外に使用することなどは一切ないという自信がある時には、制度上に問題があったとしても多少「柔軟な」研究費の運用をすることは、この国では何十年も続いてきた「伝統」です。そこへいきなり(特定分野だけですが)研究費バブルが起こった結果、研究以外のことにも「柔軟に運用」する人が出てきているようです。まあ、そんな人達は研究者でもなんでもないので、ある意味では気にもなりませんが、そんなバカを取り締まるために研究そのものを阻害するような規制ができてしまうのがこの国なのかなあという諦めに似た気持ちになりつつある今日この頃です。
Commented
at 2006-06-26 08:23
x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented
by
実験器具オーナー
at 2006-06-26 10:44
x
このような不祥事が起こる原因の一つに、「いくら外部資金を獲得したか」が(過大に)業績評価される点にあると思います。数千万〜数億の研究費を得た研究者に対しては、「投資」に対する「(一流ジャーナルに載った(=研究者自身の売名:言い過ぎかな)という程度ではない)社会に還元できる具体的成果」が厳しく求められるべきですし、獲得した研究者もその事を自負すべきではないでしょうか?そうすれば必要以上の研究費を申請する人は少なくなると思います。必要な分だけ申請しているのであれば、「投資信託」などにまわす研究費など無いはずです。アカデミックにも、司法制度における「裁判員制度」のようなものが必要になってきているのかもしれませんね。情けない事です。
Commented
by
Makkurikuri at 2006-06-26 13:30
Commented
by
wanko (大学院生)
at 2006-06-26 16:20
x
stochinai様
>まあ、そんな人達は研究者でもなんでもないので、ある意味では
>気にもなりませんが、
いきなり首を突っ込んで恐縮ですが、ぜひ気にしてください。研究者の風上におけない人物でも、研究者として過ごしている(過ごしてきた)のが実情です。
研究費のほとんどは貴重な税金で成り立っています。私の両親はサラリーマンで、汗水垂らして稼いだお金から税金を納めています。そのような姿をみると、研究者の不正事件は恥ずかしくて仕方がありません。会社だったら当然クビですよね?
どのような規制をすべきなのかという議論も含めて、研究者自身も諦めてはいけないことではないでしょうか。
>まあ、そんな人達は研究者でもなんでもないので、ある意味では
>気にもなりませんが、
いきなり首を突っ込んで恐縮ですが、ぜひ気にしてください。研究者の風上におけない人物でも、研究者として過ごしている(過ごしてきた)のが実情です。
研究費のほとんどは貴重な税金で成り立っています。私の両親はサラリーマンで、汗水垂らして稼いだお金から税金を納めています。そのような姿をみると、研究者の不正事件は恥ずかしくて仕方がありません。会社だったら当然クビですよね?
どのような規制をすべきなのかという議論も含めて、研究者自身も諦めてはいけないことではないでしょうか。
Commented
by
stochinai at 2006-06-26 16:46
実験器具オーナーさん
>アカデミックにも、司法制度における「裁判員制度」のようなものが必要になってきているのかもしれませんね。
これは本当にそのように思います。今までは、アカデミックは人事から研究費の配分まで自分たちでやってきたのですが、自己管理するにはあまりにも業界が大きく、また動かすお金も大きくなりすぎたのだと思います。実情が変わったのですから、制度も変えなくてはならないと思います。
Makkurikuriさん
研究費の使いにくさに関しては、政府がその気になればすぐにでもできることなので、政府の責任だと思います。しかし、その点についても、研究者側からの働きかけが弱すぎるという実態もあるのかもしれません。こういう事件が起こったときにだけ言っても説得力がないと言われてしまいそうです。
皮肉なことに、不正を日常的にやっていると、「使いにくい」ということすら忘れてしまうのかもしれませんね。悪循環に陥っているとも言えるでしょう。どこかで断ち切らねばなりません。
>アカデミックにも、司法制度における「裁判員制度」のようなものが必要になってきているのかもしれませんね。
これは本当にそのように思います。今までは、アカデミックは人事から研究費の配分まで自分たちでやってきたのですが、自己管理するにはあまりにも業界が大きく、また動かすお金も大きくなりすぎたのだと思います。実情が変わったのですから、制度も変えなくてはならないと思います。
Makkurikuriさん
研究費の使いにくさに関しては、政府がその気になればすぐにでもできることなので、政府の責任だと思います。しかし、その点についても、研究者側からの働きかけが弱すぎるという実態もあるのかもしれません。こういう事件が起こったときにだけ言っても説得力がないと言われてしまいそうです。
皮肉なことに、不正を日常的にやっていると、「使いにくい」ということすら忘れてしまうのかもしれませんね。悪循環に陥っているとも言えるでしょう。どこかで断ち切らねばなりません。
Commented
by
stochinai at 2006-06-26 16:55
wanko (大学院生)さん
すみません。ついつい投げやりなことを言ってしまいましたが、もちろん私は諦めているわけではないので、こんなささいなブログを毎日書いているのです。
確かに、大学でセクハラや不正が起こっても、クビになることは少なく、短期間の停職や減給でお茶を濁されることが多いです。それは、処分をする側も同じ仲間の研究者であるという大学の特殊性が大きいのではないかと思います。
研究世界を改革するポイントは研究者自身がどのくらい既得権益を手放してでも正義をつらぬけるかということだと思います。私のような失うものを持たない人間は簡単ですが、たくさんの既得権益を持った人にとっては「本当の改革」はつらいのだと思います。結果的にあらゆる「改革」がそういう人間によって骨抜きにされているのではないでしょうか。今回の事件の主役が改革担当の委員だったということはきわめて象徴的だと感じています。
このような時には、社会からの監視が力になってくれそうな気がします。wanko さんも、しっかりと批判的に見張っていてください。よろしくお願いします。
すみません。ついつい投げやりなことを言ってしまいましたが、もちろん私は諦めているわけではないので、こんなささいなブログを毎日書いているのです。
確かに、大学でセクハラや不正が起こっても、クビになることは少なく、短期間の停職や減給でお茶を濁されることが多いです。それは、処分をする側も同じ仲間の研究者であるという大学の特殊性が大きいのではないかと思います。
研究世界を改革するポイントは研究者自身がどのくらい既得権益を手放してでも正義をつらぬけるかということだと思います。私のような失うものを持たない人間は簡単ですが、たくさんの既得権益を持った人にとっては「本当の改革」はつらいのだと思います。結果的にあらゆる「改革」がそういう人間によって骨抜きにされているのではないでしょうか。今回の事件の主役が改革担当の委員だったということはきわめて象徴的だと感じています。
このような時には、社会からの監視が力になってくれそうな気がします。wanko さんも、しっかりと批判的に見張っていてください。よろしくお願いします。
Commented
by
alchemist
at 2006-06-26 18:03
x
日本の研究費問題の一つの原因は研究費の制度設計が政策としてなされていて、研究成果の出し易さという観点からは殆ど省みられていないことではないでしょうか?
現在、年間億単位の研究予算が研究課題の重複をさけるというお題目で特定の研究室に重点的に投入されています。余程のビッグサイエンスでない限り、一つの研究室で億単位の研究費を効率良く使うことは難しいでしょう。また、重複を避け特定の研究室に重点配分するということは、そのテーマを国内で無競争状態にしてしまう結果を招きます。
何時もと同じことを云うのですが、年間億単位の予算を一つの研究室に重点投資するより、NIH grantのサイズの年間1千万の研究費を十数個の研究室に投資して競争させる方が、成果は上がるでしょう。
ところが、政策を動かすヒトには科学が判っていないし、そのアドバイザーになっている大物研究者はしばしば大型研究費を受領してたりするので、うまくゆかないのでしょうね。
現在、年間億単位の研究予算が研究課題の重複をさけるというお題目で特定の研究室に重点的に投入されています。余程のビッグサイエンスでない限り、一つの研究室で億単位の研究費を効率良く使うことは難しいでしょう。また、重複を避け特定の研究室に重点配分するということは、そのテーマを国内で無競争状態にしてしまう結果を招きます。
何時もと同じことを云うのですが、年間億単位の予算を一つの研究室に重点投資するより、NIH grantのサイズの年間1千万の研究費を十数個の研究室に投資して競争させる方が、成果は上がるでしょう。
ところが、政策を動かすヒトには科学が判っていないし、そのアドバイザーになっている大物研究者はしばしば大型研究費を受領してたりするので、うまくゆかないのでしょうね。
Commented
by
小言幸兵衛
at 2006-06-26 22:14
x
すみません、揚げ足取りをするつもりはないのですが、「泥棒に縄をなわせる」というのは、もちろん意味するところは分かるのですが、ことわざか、またはそれに準じるような熟した表現なのでしょうか?
Commented
by
stochinai at 2006-06-26 22:20
どうなのでしょうね。私もちょっと心配になって調べてみたのですが、広辞苑には「泥棒を捕らえて縄をなう」というのが載っておりましたので、まあいいだろうと見切り発車してしまいました。泥棒を捕らえて縄をなう=泥縄から派生した「新作ことわざ」である可能性は高いと思います。
日本語の乱れについても時折、発言している私ではありますが、今回は少々暴走気味かもしれません。
ご指摘、感謝します。
日本語の乱れについても時折、発言している私ではありますが、今回は少々暴走気味かもしれません。
ご指摘、感謝します。
TBありがとうございます。
彼女は不正防止のための委員にも入っていたのですね。
・・・ところで早稲田の出身者に聞くと、あの人が不正をするはずがない、ねたまれて足を掬われたという好意的な見解。
報道されている内容は事実だとは思うので相応の処分は当然だと思うのですが。
彼女は不正防止のための委員にも入っていたのですね。
・・・ところで早稲田の出身者に聞くと、あの人が不正をするはずがない、ねたまれて足を掬われたという好意的な見解。
報道されている内容は事実だとは思うので相応の処分は当然だと思うのですが。
Commented
by
wanko (大学院生)
at 2006-06-27 10:11
x
stochinai様
私もついびっくりしてキツイ書き方をしてしまいました。申し訳ございません・・。
「皆仲良く」というのは農村民族の日本人に特性だと思います。その日本人の特性に合わせた(欧米の真似ではない)対処法が見つかるといいですね。
私もついびっくりしてキツイ書き方をしてしまいました。申し訳ございません・・。
「皆仲良く」というのは農村民族の日本人に特性だと思います。その日本人の特性に合わせた(欧米の真似ではない)対処法が見つかるといいですね。
Commented
by
stochinai at 2006-06-27 11:09
chem@uさん
>あの人が不正をするはずがない、ねたまれて足を掬われたという好意的な見解。
これは良く見聞きするところですが、人間は誰しも裏表があるものですから、良いところしか見たことがなかったら信じられないという気持ちは良くわかります。
同じような(?)例で、前に名古屋だったかの著名な教授が同じような事件を起こしたときに、「彼がダメなら、俺もダメだ」というコメントを残した教授の方もいらっしゃいました。
>あの人が不正をするはずがない、ねたまれて足を掬われたという好意的な見解。
これは良く見聞きするところですが、人間は誰しも裏表があるものですから、良いところしか見たことがなかったら信じられないという気持ちは良くわかります。
同じような(?)例で、前に名古屋だったかの著名な教授が同じような事件を起こしたときに、「彼がダメなら、俺もダメだ」というコメントを残した教授の方もいらっしゃいました。
Commented
by
stochinai at 2006-06-27 11:12
wanko (大学院生)さん
補足のコメントありがとうございます。
>「皆仲良く」というのは農村民族の日本人に特性
かもしれませんが、このやり方だと下っ端がいつも損をするんですよね。やはり、「上には厳しく、下には優しく」ということでようやくバランスが取れる気がします。
補足のコメントありがとうございます。
>「皆仲良く」というのは農村民族の日本人に特性
かもしれませんが、このやり方だと下っ端がいつも損をするんですよね。やはり、「上には厳しく、下には優しく」ということでようやくバランスが取れる気がします。
Commented
by
実験器具オーナー
at 2006-06-27 12:58
x
「皆仲良くは日本人の特性」というのはよくわかりますが、それは日常生活を送る上での話であり、(当時書かれた歴史書を読む限りでは)公の立場の人物(公家、武士、庄屋、豪商など)は「実利」よりも「名」を惜しんで行動していたようです。だから歴史書の中でも手段を選ばず目的を達成しようとした人物は、例外無く悪く言われています。最近のアカデミックの風潮は「手段を選ばず〜」というものであり、日本人本来の美学とは相反するもののように思われます。その美学が失われる一方で、今のアカデミックは、いかにも日本的な「排他性」が現れてきているように思われてなりません。欧米文化と日本文化の「悪いとこ取り」ですね。
Commented
by
ハニーm
at 2006-06-27 13:40
x
早大向け研究費13億円凍結のニュースに驚きました。1千数百万円云々は
導火線だったのですね。不正を質す要職にある我身を危うくしてまで、
「この金額で!そのような行為をするの?…」とマルビ素人は最初不思議な
気がしました。(それほど資金難?)
喩えが叱られそうですが:高校野球で〔関係者〕の不祥事により出場停止になる
場合は、問題の性質・程度はともかく野球部との位置関係が判断材料になると
思われます。研究費が個人或は組織に配分され、栄達や財をなす基盤の源に
なったとしても、究極には有形、無形に国民の利益(公共の福祉)に寄与し、
社会の発展を担うはずのものであるから、税金が使われるのですね。
研究機関の組織全体がどう影響されるのか、対応策が気にかかります。
導火線だったのですね。不正を質す要職にある我身を危うくしてまで、
「この金額で!そのような行為をするの?…」とマルビ素人は最初不思議な
気がしました。(それほど資金難?)
喩えが叱られそうですが:高校野球で〔関係者〕の不祥事により出場停止になる
場合は、問題の性質・程度はともかく野球部との位置関係が判断材料になると
思われます。研究費が個人或は組織に配分され、栄達や財をなす基盤の源に
なったとしても、究極には有形、無形に国民の利益(公共の福祉)に寄与し、
社会の発展を担うはずのものであるから、税金が使われるのですね。
研究機関の組織全体がどう影響されるのか、対応策が気にかかります。
Commented
by
haecceitas
at 2006-06-27 15:28
x
TBありがとうございます。中年哲学徒のhaecceitasです。
まさか私のブログをご覧になっている方がおられるとは思わず、いままで気付きませんでした。
早大の事件は意外に奥が深いかもしれませんね。それはともかく、科研費などの外部資金の使い方については、大学教員がしっかりと考えてきたとは思えません(私の業界に限りますけど)。たまに送られてくる研究成果報告書を読むと、とても研究課題とつながりそうもない内容の論文が掲載されていてあきれます。それでも論文を収録している方はまだましで、最近ではPowerPointのファイルを印刷してそのまま載せているのまであります。こんなものレジュメ以下ですよ。要するに、内容も形式もアリバイでしかないのです。
私も例外ではありません。もっと自由に使える外部資金が欲しいとは思いますが、だったら今までもらった科研費を返還しろと言われると返答に窮します。
まさか私のブログをご覧になっている方がおられるとは思わず、いままで気付きませんでした。
早大の事件は意外に奥が深いかもしれませんね。それはともかく、科研費などの外部資金の使い方については、大学教員がしっかりと考えてきたとは思えません(私の業界に限りますけど)。たまに送られてくる研究成果報告書を読むと、とても研究課題とつながりそうもない内容の論文が掲載されていてあきれます。それでも論文を収録している方はまだましで、最近ではPowerPointのファイルを印刷してそのまま載せているのまであります。こんなものレジュメ以下ですよ。要するに、内容も形式もアリバイでしかないのです。
私も例外ではありません。もっと自由に使える外部資金が欲しいとは思いますが、だったら今までもらった科研費を返還しろと言われると返答に窮します。
Commented
by
stochinai at 2006-06-27 21:05
実験器具オーナーさん、ふたたびありがとうございます。
私も今の我々に必要なのは、いわゆるノブレス・オブリージュというものであるという点では、まったく同感です。「なりふり構わず」「下品」「排他性」「守銭奴」などという精神によって引き起こされる事件に囲まれる毎日は、なかなかつらいものですね。
私も今の我々に必要なのは、いわゆるノブレス・オブリージュというものであるという点では、まったく同感です。「なりふり構わず」「下品」「排他性」「守銭奴」などという精神によって引き起こされる事件に囲まれる毎日は、なかなかつらいものですね。
Commented
by
stochinai at 2006-06-27 21:10
ハニーmさん。
ということは、今回の事件は早稲田大学ぐるみの犯罪という認識でしょうか。CoSTEPの仲間たるべき早稲田大学科学技術ジャーナリスト養成プログラム(MAJESTy)に対する予算も科学技術振興調整費によるものですから、凍結されたということになりますね。どうなるんでしょう。
ということは、今回の事件は早稲田大学ぐるみの犯罪という認識でしょうか。CoSTEPの仲間たるべき早稲田大学科学技術ジャーナリスト養成プログラム(MAJESTy)に対する予算も科学技術振興調整費によるものですから、凍結されたということになりますね。どうなるんでしょう。
Commented
by
stochinai at 2006-06-27 21:18
haecceitasさん、はじめまして。
ブログは毎日読ませていただいております。お書きになられている科研費の話は、関係者なら笑えない話だと思います。やはり、もらえるならばもらうだけという姿勢で、自分たちも支払っている税金をどう使うのかという点に関して、受け身で鈍感だったということで日本の科学者全体が責任を問われているとみるべきだと思います。なんとか改革しなければこの先も同じことが繰り返されるだけであることは予想がつくものの、残念ながらどうにも先が見えません。
どこから手をつけていけば良いのでしょう。
ブログは毎日読ませていただいております。お書きになられている科研費の話は、関係者なら笑えない話だと思います。やはり、もらえるならばもらうだけという姿勢で、自分たちも支払っている税金をどう使うのかという点に関して、受け身で鈍感だったということで日本の科学者全体が責任を問われているとみるべきだと思います。なんとか改革しなければこの先も同じことが繰り返されるだけであることは予想がつくものの、残念ながらどうにも先が見えません。
どこから手をつけていけば良いのでしょう。
Commented
by
ハニーm
at 2006-06-29 01:35
x
stochinai様
いえ、大学ぐるみで不正との認識はまったくございませんでした。
部外者には凍結が、連帯責任を負わせるように感じられのです。
問題が解明されるまで当然の措置かも知れませんが。歯切れの悪い
書き方で誤解を招いたと思います。文科省の対策が具体化するまでの間、
MAJESTyの活動予定は縮小ということになってしまうのでしょうか?
いえ、大学ぐるみで不正との認識はまったくございませんでした。
部外者には凍結が、連帯責任を負わせるように感じられのです。
問題が解明されるまで当然の措置かも知れませんが。歯切れの悪い
書き方で誤解を招いたと思います。文科省の対策が具体化するまでの間、
MAJESTyの活動予定は縮小ということになってしまうのでしょうか?
Commented
by
stochinai at 2006-06-29 18:34
松本さんはついに大学に辞表を提出したようですが、処分検討中で不受理だそうです。
さらに大量の研究費を支給される原因になった論文に、データねつ造疑惑が出てきているようで、どうなることやらというところです。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060629i101.htm
さらに大量の研究費を支給される原因になった論文に、データねつ造疑惑が出てきているようで、どうなることやらというところです。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060629i101.htm
「早大・科学技術ジャーナリスト養成プログラム」も見合わせの対象とのこと。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060627i201.htm
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060627i201.htm
Commented
by
stochinai at 2006-06-29 22:35
大学ぐるみだと判断されたら、事業中止もありうるかもしれませんね。そもそも、東大や早稲田に資金が流れ込みすぎているということは誰でもが思っていることだったので、資金配分の決定システムにまで踏み込むと政府や官僚も無傷ではすまないのではないかと思います。それが、無傷ですむところが七不思議なんですけどね。
Commented
by
ハニーm
at 2006-06-30 02:00
x
今夜、「気候の危機シンポジウム」の終了後、国立環境研究所の或る方に
お話を伺いました。『これからは、ますます科学技術コミュニケーションが
必要で、大切…』とおっしゃり、研究者と生活者の対話ということも重視
なさっていました。早大MAJESTy、何とか道が開けてほしいです。
お話を伺いました。『これからは、ますます科学技術コミュニケーションが
必要で、大切…』とおっしゃり、研究者と生活者の対話ということも重視
なさっていました。早大MAJESTy、何とか道が開けてほしいです。
by stochinai
| 2006-06-24 16:50
| 科学一般
|
Comments(28)