5号館を出て

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ボランティア非常勤講師

 情けない話があります。ボランティアに頼る元国立大学というblog記事です。「とある国立大の非常勤講師をしている」方が、元同級生の教授に「講師料も交通費も出せないけどやってくれるか?」と非常勤講師の「継続」を依頼されたというのです。

 書いている方は、元同級生というよしみもあるのでしょう。「どうせその大学図書館にはちょくちょく行く」のでOKだと答えたのだそうです。しかし、引き受けては見たものの、いろいろと考えたことが書いてあります。私もいろいろと考えさせられました。

 まず、非常勤講師が必要な現状というものを考えると、大学がきちんとした講義をできるメンバーをそろえていないと言うことを意味することになります。国立大学の時から、どこの大学でも非常勤講師を必要としていましたから、完全な講義をできる組織にしなかったということは、設置責任者である国の責任が問われると思います。

 しかし、完全な講義をする責任を完遂できないので非常勤講師を雇ってそれを補うということなら、責任を果たしていることになりますから、それはそれでちゃんとした責任の取り方だったと思われます。

 私の勤務する大学でも、たくさんの非常勤講師がいて、そのすべてにそれなりの金銭的給与が支払われていました。学内でも、全学教育を除くと学部間においても有料の非常勤講師制度がありました。私も医学部の非常勤講師などをやった経験がありますが、初年度は時給が5~6000円だったものが、数年後には3000円程度になり、最後の数年は完全に無給のボランティア制度になってしまっており、とうとう制度そのものが維持できなくなったのか、もう頼まれなくなってしまいました。頼まれる方としても、講師料も交通費も出せないけどお願いしますと言われた場合、よほどのことがないと応じる気分にならないものです。金が欲しいと言うより、尊重されていないという感情的な嫌悪感が大きいように思いました。

 そのような経緯で無くなってきた学内非常勤の次は、予算がないという理由で学外非常勤を削減することが全国の元国立大学・現国立大学法人で起こっていると聞きます。いきなり、全廃することなどとてもできないところでも、徐々に人数を減らすとともに給与も減らされているようです。北海道大学でも、来年度から非常勤講師給与が一律(いままでは、年齢や学歴・職歴などに応じてランクがありました)5500円にダウンされることになっています。

 こうなってくると、要するに非常勤講師をなくするという方向に動いていると見ることができると思いますが、もともと大学の講義を補うために必要とされていた非常勤講師が必要なくなるということは、大学の常勤メンバーが充実してきたか、あるいは教育の質を落とすことに決めたということでしょう。大学の教員数が増えているという話は聞きませんので、大学では教育の質を落としてもやむを得ないと決断したということだと思います。

 そういうことを踏まえた上で上の話を考えてみると、このボランティア非常勤講師を頼んだ方は、お金はないけれども教育の質を落としたくないと考えたのだと思います。頼まれた方は、元同級生の頼みだし、どうせ時々その大学の図書館を利用させてもらうんだし、そのついでに簡単な講義くらいやってやってもいいかということなのだと思います。

 二人とも善意をやり取りしているし、結果的に学生達も利益を被ることになるので、八方幸せでめでたしめでたしなのか、というと決してそうはならないと思います。

 たとえ善意の無償奉仕と言えども、それによって多くの人の雇用の機会を奪っていることになります。全国でたくさんのボランティア非常勤講師が出現すると、大量の失業者が生まれることになります。特に、教育分野に職を求めようという若者にとって、学歴とキャリアのつなぎとしての非常勤講師という職種は非常に重要な役割を持っていたことを考えると、それらの人々に壊滅的なダメージを与えることになるでしょう。

 非常勤講師というものひとつをとっても、これだけいろいろな問題があるのです。単純に予算がないので、もっとも切りやすいところを切るなどということを続けていると、気がついてみると日本の高等教育はその地盤からガタガタになってしまうと思います。(もうすでに十分ダメになっているので後は同じ、という議論はここではしないことにします。)

 法人化された国立大学は、予算だけで国からコントロールされるようになりましたが、このやり方は責任は各大学が持ち、文科省が予算を楯にして責任を各大学に問うというシステムになったことを意味しています。このことにより、いままで以上に文科省が大学に強い指導を出来るようになりました。非常勤講師の削減はその典型的な例の一つで、恐ろしいほどに歩調をそろえて全国の大学が一斉に削減へと走り出しています。

 文科省としては笑いが止まらないでしょうね。
Commented by Dr Blue at 2005-02-19 11:45 x
 そのボランティア講師をする羽目になったものです。確かに 浅学ながら実は 雇用の機会については考えました。私が引き受けなくても もともと予算が無く 他の講師を雇う事はもともと出来ないので 他の雇用の機会を奪う事にはならない 今まで継続的に 非常勤講師をしていたので ハイさようならとは言い難い心情的なもの 図書館にも行くのですが 非常勤講師として登録されると 正式にそこの図書館を使う権利が発生するメリットがある 相手方の学生からも高い評価を受け自分がやる教育的意義がある(決して相手の穴埋め非常勤ではない) デメリットとして この地域の大学間の単位互換制度をとれば どうしても私の講義を受けたければ 授業料を払って私の大学に来れば 私の大学が儲かる? が これはどうなのか、、、コストとタイムをかけて学生が来るのは学生にとってデメリット 結果として 私は もうひとつの大学からは依頼が来なかった(県外だから 相手が遠慮した) 県内のこの大学では1学部2学科にわたり 従来通りしてますが メンバーを見ると ほとんどの 非常勤講師は無くなったです おそらくこのようなボランティアは 無くなるでしょう 
Commented by blue at 2005-02-19 11:46 x
ボランティアでも行きたいというメリットのある 有力大学しか 使えない制度で ネームバリュー(力)?のない 大学は どんどん 教育力が減るでしょう、、
Commented by stochinai at 2005-02-19 13:57
 Dr Blue さん、はじめまして。
 実はこのエントリーを書いた時には、まだ昔の手作りホームページの時代でトラックバックなどというしゃれたことができませんでしたので、失礼をいたしておりました。改めてTBを送らせていただきました。
 今後ともよろしくお願いします。
Commented by blue at 2005-02-19 16:49 x
はい どうも 実は私のブローグはマックのiBlogで トラックバックされても 自分からトラックバックできないので リンク貼るしかないのですが いずれこの話題でリンクはりますので こちらこそ今後ともよろしくお願いします。
by stochinai | 2004-12-26 00:00 | 教育 | Comments(4)

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