5号館を出て

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海底の二酸化炭素プール

 空気中の二酸化炭素を液体にして海底に沈めると、圧力でその状態が維持されるので封じ込めることができるという話しを聞いたことがあります。
CO2は水深2400メートルより深くでは液化して海底へ沈むため、地球温暖化対策の一案として深海底へ封じ込める技術が研究されている

 物理のことがよくわからない私は、ドライアイスと水の反応しか見たことがありませんので、そういう話をきいても今ひとつピンとこなかったものです。

 ところが、このたび海底で実際に液化した二酸化炭素の「プール」が発見されたというニュースをテレビでやっていました。各紙でも報道されているようです。
 沖縄県与那国島沖の水深1380メートルの海底で、液化した二酸化炭素(CO2)が閉じこめられた「プール」を、海洋研究開発機構のグループが有人潜水調査船「しんかい6500」を使って見つけた。CO2を分解する微生物が生息することも確かめた。
 驚くべきはこの「浅さ」で、事実は理論を越えていることがあっさりと証明されています。今回はプールの上に「蓋」ができていたために、二酸化炭素が浮かんでいかなかったようで、映像では「蓋」に穴を開けたところ中からモヤモヤと液化二酸化炭素が漏れて上に上がっていっていました。すごい映像です。

 このプールには液化メタンも含まれているようで、付近にはメタンや硫黄をエネルギー源として二酸化炭素を分解する微生物がいることもわかったということです。

 これはおもしろいですね。二酸化炭素を海底に封じ込めるだけではなく、それが微生物によって代謝されてしまうということになれば、生態系を見る目が変わってきてしまいます。

 ところで、朝日新聞では「メタンや硫黄をエネルギー源とし、CO2を分解する微生物」と書いていますが、二酸化炭素は本当に分解されるのでしょうか。読売では「二酸化炭素やメタンなどを取り込んで生きる微生物」となっていますし、フジサンケイビジネスでは「CO2とメタンをエネルギー源とする微生物」です。微生物は化学合成細菌だとすると、二酸化炭素を使って有機物を合成しているのではないかと思われますが、どなたか専門のかた、教えてください。ヘルプ。
Commented by mk@w96 at 2006-08-30 02:04 x
新聞記事より下記の新着ニュースの方が良さそうです。

海洋研究開発機構
http://www.jamstec.go.jp/jamstec-j/PR/0608/0828/index.html

二酸化炭素の状態図は下記のとおりです。
http://www2.yamamura.ac.jp/chemistry/chapter2/lecture1/lect2011.html
http://staff.aist.go.jp/toru-shimizu/shimfiles/topic1/superco2.htm

水中では10m下がる毎に1気圧増加します。状態図を見ると、216K、0.52MPaに三重点があります。海底の水温がどれぐらいなのかわかりませんが、朝日新聞に出ている「CO2は水深2400メートルより深くでは液化して」というのはどういう根拠なんでしょう。

こちらのページの「二酸化炭素の液化 」という項目では20℃では600m以上でOKとあります。
http://www.env.go.jp/earth/cop3/kanren/kaisetu/16.html


Commented by stochinai at 2006-08-30 12:48
 ありがとうございます。これはとても参考になりました。深海だと意外と簡単に液体になりそうですね。ただ、深海に大量に沈めて処理というのはあまり安易にやるべきではないと思います。まずは、基礎研究が大切だということは、ここでも真理でしょう。
Commented by mk@w96 at 2006-08-31 03:42 x
学生の頃、超臨界状態の二酸化炭素を使った抽出やクロマトグラフィをやっていました。その頃、すでに海底に液化二酸化炭素があるはずだという話題がでていました。熱水などで温度が高くなっていれば、臨界温度を超えているところもあるはずで、超臨界二酸化炭素と水が混合した状態になっているのではないかと話をしていました。

天然由来で海底に二酸化炭素が存在しているからといって、地上の二酸化炭素を深海に沈めてしまおうというのは安易な発想だと思います。液化二酸化炭素は溶解力も強く、ある意味ではヘキサンなどの無極性溶媒と同じです。密度が高くなれば高くなるほど溶解力は高くなるはずです。sこらじゅうの海でそんなことやりだしたら、生態系に影響が出そうです。
地殻変動や海底火山の影響などで、ためこんだ二酸化炭素が、いっきに噴出する可能性もないとは言い切れません。地球の海が炭酸食塩水になってしまいます(笑)
Commented by stochinai at 2006-08-31 08:54
 mk@w96 さん、いろいろとありがとうございました。海がサイダーになっちゃったら困りますので、やはりとりあえずは炭酸ガスは生物に処理してもらうのが良さそうです。
Commented by 佐藤秀 at 2006-09-01 15:00 x
朝日の
>メタンや硫黄をエネルギー源とし、CO2を分解する微生物がいるとわかった。

という件、何か変です。CO2を分解する微生物なら植物性プランクトンは皆そうですし、希少価値があると思えません。仮に二酸化炭素を栄養源にしても、微生物体内に取り込まれるだけで二酸化炭素削減になると思えないです。メタンだって栄養源にすれば最終的に二酸化炭素になりますし。死ねばまた分解されて二酸化炭素が発生しますし。極限環境微生物に頼って二酸化炭素分解してもらっても、高が知れているし、二酸化炭素を液化して海底に運ぶプロセスでエネルギーをかなり消費するから結局エネルギーの無駄遣いの可能性の方が大のような気がします。
Commented by stochinai at 2006-09-01 15:21
 おっしゃる通りだと思います。この発見が、大気中に増加した二酸化炭素削減の決め手につながるとはとても思えません。しかし、マスコミがニュースを作るときにはそういったセンセーションが必要なのでしょうね。科学コミュニケーションは難しいものです。
Commented by nanashi at 2006-09-03 16:20 x
「ある要因がある結果を導く(数多くの原因のなかの)ひとつであることが判った(結果を左右するほど大きな影響をもつ原因とは限らない)」という話が、ニュースになるときにはニュアンスがずれてきて、
「ある結果は、ある要因によってコントロールできる」
という話になることがよくありますね。健康ネタも結構この手の話が多いですが・・・(○○を食べればがんにならない、などの類)。
科学ニュースを一般の人に広めるための必要悪だと見るのもひとつの考え方かもしれませんが、(意図的か意図的でないかは問わず)こういう解釈のすげ替えが常態化すると、科学的に慎重な分析が必要な社会的に重要な事件が起きたときに、非科学的な議論に基づいて世論が誘導されたり重要な政策決定がなされたりすることに繋がりそうで怖いです。

それはそうと、ドングリの話と良い、この話といい、子どもの頃そつなくこなしながら気持ちは理科嫌いだった人間(苦笑)としては、こういう話に飢えていたのだと感じました。おもしろい!
物理、化学、生物、地学、工学、などと、専門領域の枠を超えていろんな切り口から語るとどうなるかな、と想像するのも楽しいです。
Commented by stochinai at 2006-09-03 16:47
 科学者ではない人間が科学を考える時、専門領域の枠は自然に越えられています。これこそが、素人が科学の議論に参加する意義のひとつだと思います。そして、いわゆる「科学者」にはその視点が欠けていることが多いので、非専門家と語ることは科学者にとっても有益なことが多いのです。

 そして、科学者がおもしろいと思って研究していることが、実は非専門家の方にも楽しんでもらえることを知ると、科学者も自分のやっていることに自信を持つことができます。

 そして、科学者と付き合うことで、非専門家が「科学者」の誘導するウソに対抗できるリテラシーを身に付けることもできます。

 科学コミュニケーションが市民に対するサービスだなどという発想ではこのおもしろさを共有することはできないと思います。

 nanashiさん、これからもよろしくお願いします。
by stochinai | 2006-08-29 21:20 | 科学一般 | Comments(8)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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