5号館を出て

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タミフルを使えなくすべきではない

 これまで、いくつかタミフルに対して否定的とも取られそうなエントリーを書きました。

 タミフルを飲むか飲まないか 【追記:厚労省方針変更】
 真夜中の緊急記者会見とタミフル関係官僚の天下り

 そして、たくさんの皆さんから、有益なコメントをいただきました。ここへ来て、急にタミフルが悪者にされ始めておりますが、その状況も手放しで良いことだとだとは思えません。どうして、この国では、ものごとが極端から極端へと動いてしまうのでしょう。

 そもそも私は、タミフルが強力な抗インフルエンザ薬であることを疑ってはおりません。

 私の理解では、タミフル(オセルタミビル)には、インフルエンザウイルスが持つノイラミニダーゼという酵素の活性を抑える阻害作用があるので、たとえインフルエンザウイルスが細胞の中で増殖したとしても、その酵素が働かないとウイルスが細胞から飛び出して拡散できず、インフルエンザ症状が悪化することを防ぐことができるのだというものです。だから、ウイルスが体内で増殖して他の細胞へと拡散するウイルス感染の初期には劇的に効果が見られることも納得できますし、逆にそのタイミングを外すとほとんど効果がないということも、よくわかります。

 もちろん、すでにこの阻害効果をすりぬけるべくノイラミニダーゼを変化させるように進化したインフルエンザウイルスが出てきているようですが、とりあえず現時点では、多くの場合まだ効果があると思います。

 ただし、数年前からタミフルには異常行動を引き起こすような副作用があると主張されていることも事実です。たとえ、一握りの患者さんと言えども重大な副作用が報告されているのであれば、それはほんとうにタミフルの副作用なのか、もしそうだとしたらどのような場合(患者さんの年齢、性別や遺伝的性質、インフルエンザウイルスの種類、インフルエンザの感染のフェーズ、食べ物、他の薬との組み合わせ、などなど)に、副作用が発生するのかといったことについて、大々的な調査をする義務が厚生労働省にはあるのだと思います。

 そして、その調査の時には、当該の製薬会社から研究費をもらっている人などに調査を依頼しては絶対にダメであり、日本人が2400万人も使っているのだとしたら、1000人や2000人ではなく、数万人・数十万人のケースを調査すべきなのだと思います。

 また、その調査が行われている間は、「現時点ではこれこれの副作用と思われるケースが報告されているので、その点に注意しながら使うように」というような注意をすれば良いのだと思います。今までは、どうもそのあたりにうやむやな姿勢があったと思えます。

 たくさんの人がおっしゃっておられるように、薬はからだに影響を与えるから効くのであって、場合によっては不都合な影響を与えることもあたりまえのことです。そして、それは患者さんに伝えられるべきとても重要な事項なのだと思います。医師は患者さんにこの薬を使うとひょっとしたらこういうような状況になるかもしれませんので、それでも使うかどうかのインフォームド・コンセントを取った上で処方箋を出さなければいけないはずです。

 医師は副作用が起こった時には、患者と連帯でそのことに責任を持つという自信がなければ、投薬などすべきではないと思います。

 逆に、その自信があれば厚労省がなんと言おうと、タミフルが必要な患者さんには、本人および家族にしっかりと説明した上で、これからもタミフルを使うのだという気概が欲しいと思います。

 厚労省が「安全だ」と宣言しているうちは湯水のごとくにタミフルを使い、厚労省が「使わないように」と言ったら、とたんに使わなくなるというようなことでは、患者は医師を信じることができなくなります。

 我々、患者側にも問題があります。厚労省がなんと言おうと、医師がなんと言おうと、納得のできない投薬は受けない。必要な場合には、医師と議論してでも投薬してもらう。こういうリテラシーが必要だと思います。

 病気に対して、厚労省と医師と患者(それに薬剤師もですね)は連帯して闘う戦友であって欲しいと思います。敵から賄賂などをもらわないで、一緒に闘ってください。

 そして、薬を正しく使いましょう。
by stochinai | 2007-03-26 22:16 | 科学一般 | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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