5号館を出て

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冷静に考える年金問題

 とりあえず年金の受給に時効がなくなったということなので、まずはゆっくりして良いのではないでしょうか。焦って、能力のない社会保険庁や逃げ腰の政府を追求しても、誰も責任を取れなさそうですから、ここはひとつ「政府をひっくり返すぞ」という脅しを我々がキープしながら、自民党でも民主党でも国民の言うことを聞くように誘導するのが正しい主権者の道ではないかと思われます。

 そもそも、社会保険などというものは、ちょっと前に問題にされていた生命保険などと同じく、収入が確実に支出を上回るように仕組まれた競馬や宝くじと同じ構造のものですから、胴元をしっかりと監視しておかなければ、放漫経営になるのは初めからわかっていたことのはずです。

 今の年金制度が作られたのは戦前ということです。それが大きな改革もなしに60年以上も存続してきたということに驚きを抑えることができません。我々は、憲法よりも古くからある年金制度を温存してきた戦後政府(ほとんど自民党)を交代させることなしに、この問題の解決はあり得ないと自覚すべきです。

 年金制度というのは、貯金などと違って、納めた分が戻ってくるという制度ではありません。時代時代ごとにその時にいる老齢者の生活を、若い勤労者が支えるという制度です。時代は常に動いており物価や平均賃金も動き続けていますから、未来の老人を支えるために必要なお金は前もって予測することはできません。ですから、時代時代に、その時の若者が年寄りを育てるというシステムを維持することが大切になります。

 経済が右肩上がりで伸びている時には、物価も上がり給料も上がり続けますので、未来に向かって貯金しておくと目減りしてしまいますので、適切な投資をしたりする必要があるのですが、日本の年金の胴元は「どうせ物価も上がり、今ある金なんか紙くず程度になってしまうのだから、どんどん使って、未来になったらその時代の若者に年寄りを養ってもらえばいいのさ」という発想で、どんどん無駄使いしたようです。

 同じ論理で、納付の記録もおおざっぱにしか管理されていなかったようです。親方日の丸は強いですから、納付の記録の保持を受給者に押しつけておけば、胴元には書類があろうがなかろうが、出たとこ勝負で証拠を持ってきた人には払えばいいし、証拠をなくした人ははねつければすむわけですから、一所懸命に記録を管理しておく必要は感じていなかったのでしょう。

 この問題が起こった初期の頃に、安倍首相が「たとえ証拠がなくとも、申し出てきた人全員に年金を与えろというのですか」と居直っていたことが、まさに保険と年金が同じ構造(もらう側が証明できなければ払わない)だということの動かぬ証拠だと感じました。その居直りを続けられる限り、どんなにずさんな管理をしていても「彼らの年金制度」は破綻することはなかったはずです。

 ところが、ここへきて事情が変わってきました。受給者の要求を突っぱねることができるほどしっかりとした納付の記録がないことが、ばれてしまったのです。おそらく、これも内部告発なのだと思いますが、年金胴元側に記録がないことが明らかになってしまった以上、もう受給者に「証拠を持ってこい」と突っぱねることができなくなりました。

 この状況を解決するためには、年金制度を抜本的に改正して、納付は税金と同じく義務性にして、払っていようがいまいが日本国民全員に福祉として年金が給付されるという制度にせざるを得ないと思います。証拠がないのですから、ほかのチョイスはあり得ないと思います。これは生活保護と同じしくみですが、とりあえず年金と生活保護を同じ制度にしてしまえば、少なくとも受け取る側の問題は解決します。

 払いもしなかった人間が年金を受けるのは我慢できないという議論は、気持ちとしてはわかりますが、これまで日本を支えて来てくれたお年寄りを、日本の若者全員が支えるというしくみはそんなに悪くないと思います。

 もちろん、この制度を実現するためには、あらゆる若者に仕事が与えられ、健康で文化的な生活を送ることのできる給料が支払われることが前提になります。

 そう考えると年金問題も、ワーキングプアの問題とつながっていることがわかります。

 要するに、日本のあり方全体を変えることが求められているのだと思います。
Commented by もも at 2007-06-15 07:16 x
おっしゃる通りで、騒いで一時的にすませる問題ではないですね。
こんなに制度自体に不備があるのに、いつのまにか「民間化」が進められているし、根本的に考えたいですよね。

この問題、介護と同じではないでしょうか。どこか一所の不法行為で済ませずに、制度そのものから変えていかないと、同じことの繰り返しになるはずです。

憲法改正より、先にやること、山ほどありますね。
Commented by inoue0 at 2007-06-15 13:10
 あまり話題になってないのですが、現在の支給水準を物価連動で維持したとすると、年金制度はすでに破綻状態にあります。不足額は、野口悠紀雄の試算だと800兆円だそうです。
 言わば、年金は政府の不良債権です。
 社会保険庁の組織問題や、年金記録なんて瑣末な問題です。お金の絶対額が足らないのです。
 一体、どうやって800兆円を穴埋めするのか、あるいは穴埋めせずに破綻処理を行うのか(実行する政治決定をする内閣総理大臣がいたら私は尊敬したい)知りませんが、全国民にある程度の「納得」をしてもらうのは、相当厳しいように想います。
 歴代政権は不良債権処理を先送りして、年金制度を維持していくことでしょう。
Commented by winter-cosmos at 2007-06-15 20:52 x
こんにちは。
若い人が社会保険料を納められるような状況に乏しいのに、ただ「産めよ増やせよ」では"獲らぬタヌキ"のように見えてしまいます。

>憲法改正より、先にやること、山ほどありますね。

本当に。年代物の民法にはあれほどこだわりがあるのに、どうしてでしょう。(^^;
Commented by stochinai at 2007-06-15 22:46
 年金問題はどこに着地するのでしょうか。実はあまりにも根が深いので、自民・公明の参院選敗退くらいでは解決できるようなものではないのかもしれないと思います。
 実際に日々動いている制度なので、変えるというのことがなかなか難しいのはわかりますが、いつかはやらなければならないのだとすると、「今」がその時期だとハラをくくる必要がありそうです。
 国民が総意でハラをくくれるかどうか、「試される大地 北海道」という言葉がありますが、まさに「試される日本」だと思います。

 耐えられるか、ニッポン!
by stochinai | 2007-06-14 22:53 | つぶやき | Comments(4)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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