5号館を出て

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原発建設の地元補助金を安全設備建設資金に

 地震から1週間以上たっているのに、まだ毎日のように原発関連の「新事実」が出てきます。

 東京電力は、知っている本当のことをすべて発表するという方針でないことは明らかなようです。はっきりしないうちは発表したくないという気持ちはわからないでもありませんが、はっきりした時に予想(期待?)よりも悪い結果だった場合には、発表しなかったことをひどく責められるのは、何度も何度も何度も何度も経験しているはずなのに、どうして日本の原子力関係者の姿勢が改まらないのか不思議でなりません。

 想定よりも大きな地震を受けて、予想外の被害が出ていることは間違いないようですので、それをもとに今後はもっと大きな地震を想定して原発を作り直すなり、補強するということは緊急に行わなければならないことであり、被害発表が震災から1週間以上たってからなどというノンビリしていてはいけないのだと感じていない関係者が、原子力発電所を運営しているあるいは管理しているという現実にこそ、恐怖を覚えます。

 原発自身は、それなりに危険なものだと思いますが、それを封じ込める技術があるからこそ実際に運用を始めたのでしょうが、今回の震災で想定外の事象が起こった場合には、あっさりと被害が拡大することが白日のもとにさらされてしまいました。昔は航空機もかなり危険な存在でしたが、何度も大きな事故を経験することで、航空機には2重、3重、4重のフェイル・セイフ・システムが装備されていると聞きます。それでもなお事故は起こります。

 原子力発電所の事故に関しては、人類はアメリカのスリーマイル島の原発事故とロシアのチェルノブイリ原発の事故を経験しています。現実の世界情勢(経済・社会・政治・国力)を考えると、アメリカ・ロシアと来たら、その次の大事故は日本であるというくらいの覚悟をしておくのが、冷静な態度というものだと思います。

 そういう状況ですから、原発事故に対しては現実的に起こりえないくらいの事故を想定していて、ちょうど良いのだと思います。そもそも、危険を覚悟で原子力を使おうと国の政策として決めたのでしたら、利益などということは2の次にして安全性の確保が必要なのではないでしょうか。

 また、誰だって原発が自分のうちの近くにできて欲しいとは思わないでしょうから、原発ができることになった地元にはとんでもない金額の補助金が投入されていると聞きます。確かに、北海道の泊発電所の近くに行くと、道路は立派、学校も立派、何に使うのかわからないような立派な建物がたくさん建っています。そのくらいのことをしないと原発が受け入れてもらえないという現実は、原発を安全なものだと信じている人が少ないことを意味しているではないでしょうか。

 まさか、事故は起こらないだろうと思いながらも、今回のようなことが起こると地元の人々はかなり不安になります。こういう時には、立派な道路や建物よりも原発の安全性が大事だと思っているに違いありません。今後も多少は地元に行政の補助金が落ちることは必要だとは思いますが、それよりも原発をより安全にすることの方が歓迎されるはずです。そういうわけで、誰がみても不必要に思われるような多額の地元交付金のうち、そのほとんどを基本的に原発の安全設備のフェイル・セイフ・システムに投入するようにしてはどうでしょう。

 今度、原発が想定外の地震に遭った時に、これこれこういう事態になったけれども、かくかくの安全装置がはたらいて、非常に安全に原発が停止しました、というような報告を聞きたいものです。

 「想定外」という発言を聞く度に、原発に携わっている科学・技術者の存在が否定されているように思えて、とても残念に思います。
Commented by mizumoto at 2007-07-27 00:45 x
東京電力の肩を持つ気はありませんが、エントリの前提として
東京電力は当然すべての事態を把握しているという誤解はありませんか?通常目視可能な部分だけで判断できないことも多いのではないのでしょうか?だからこそはっきり話をしていないのでは?これだけメディアにたたかれているのだから、被害調査をのんびりしていることはありえませんよ。今後も調査が進むにつれさまざまな事態が明らかになると思います。
なお、以前のエントリとも関係しますが原子力施設は保有するリスクに応じた重要度の分類がなされています。すべての施設を最重要にしていないということはある意味割りきりがあるということです。でも原子炉本体や使用済み燃料などリスクの高い施設は相当頑丈に作られ事故の影響を最小限にすることとなっています。今回どの程度影響があったかは厳密に評価する必要はありますが原子炉が安全に停止し、大きな事故につながっていないことをまず認識すべきでしょう。
ただ耐震安全の見直しは必須ですね。すべての原発に遡及して工事をするのは相当な時間がかかることとなります。すでに浜岡原発が相当期間停止しています。 
Commented by fromTokyo at 2007-07-28 10:52 x
>東京電力は当然すべての事態を把握しているという誤解はありませんか?

もしそうなのだとしたら(そうでない事を祈りますが)、原発を運転している当事者に原子炉の現状が把握できないという事ですから、極めて深刻な事態だと思います。私は、当然、東京電力本社はリモートに全情報が掌握できる体制にあると信じていました。(有名な、全世界から監視できたコーヒーメーカーのサイトは停止したようですが)
東電が、情報を隠しているなら、それはまだマシです。
東電にも情報が把握できていないという方が、ずっと恐ろしい事態だと思いますが。
Commented by mizumoto at 2007-07-28 11:59 x
いや、原子力発電所の諸施設は原子炉本体だけでなくて、変電施設からタービン建屋、事務等から協力会社の諸施設やらいろいろあるわけ。排気塔なども遠くにありますね。地震が起きてから影響をできるだけ早く把握することは重要だけど、すぐには無理でしょうと
いっただけです。
なお、いろいろなメディアの情報では所員の怪我を今頃発表したりしており、これらはすぐ実でも発表できた内容ですね。
Commented by alchemist at 2007-07-28 13:23 x
確か、スリーマイルス島の事件は事件の連鎖と同時に情報は集まったけれど、ヒトがその情報を判断するゆとり(時間)が全く不足して、後手後手に廻ったということだったのではなかったでしょうか?あれから、何十年もたっていますので情報の収集だけでなく判断にもかなり改善があるハズで、そういう意味で、どこでどのように遅れたかを公開で議論することは、今後の事故回避の教訓として非常に大事ですね。
ミッドウエイのように失敗を秘匿し、原因の解析を回避するような組織から日本がどれだけ進歩したかを示す良い材料ではないかと考えられます。
by stochinai | 2007-07-25 22:51 | 科学一般 | Comments(4)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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