5号館を出て

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遺伝子組み換え作物に耐性のある害虫が出現

 diggからの情報です。

 Proof That Evolution Works Faster Than Genetic Engineering

 元記事はこちらです。

 First Proof that Evolution Can Work Faster Than Genetic Engineering

 タイトルを直訳すると「遺伝子組み換えよりも素早く起こる進化の最初の証拠が発見された」とでもなると思います。

 モンサント社の遺伝子組み換え綿花には bollworm moth (ワタキバガ)と呼ばれるガの幼虫を殺す、『バチルス・チューリンゲンシス』という細菌(Btと呼ばれる)から取り出した物質の遺伝子が組み込まれています。

 この物質はヒトには害を与えないので、安全な生物農薬として散布されることもあるのですが、それよりは綿花に遺伝子を組み込んでしまえば農薬を撒く手間が省けるということで、1996年以降使われ始め、アリゾナ大学の調査によると、今では1億6千200万ヘクタール(4億エーカー)に作付けされているということです。Bt耐性ガは、その7年後に出現が記録されています。

 ところがこのBt毒を食べても死なないワタキバガがBt綿花畑で出現(進化)してきたというのが、この記事の内容です。アリゾナ大学の研究者 Bruce Tabashnik さんは「我々が目にしているのは、起こりつつある進化だ。これは広範に作付けされているBt遺伝子組み込み作物畑で、Btに対して耐性を獲得した害虫が進化したという最初の報告になるだろう」と言っています。(しかし、プレスリリースを読むと、Bt耐性のガは1996年にBt綿花の作付けが始まる前にもすでに発見されていたとも書いてあります。そうすると、新たな「進化」というよりは、大量のBt綿花の作付けによる、「選択」と考えるべきかもしれません。)

 *アリゾナ大学のプレスリリースはこちらにあります。近いうちに Nature Biotechnology に載るそうですので、専門的な内容はそちらを参照されるよう、お願いします。
 First documented case of pest resistance to biotech cotton

 幸いなことにまだほとんどのワタキバガはBtに対する耐性を獲得してはいません。しかし、恐ろしいことにこのBt耐性突然変異は優性に遺伝するそうです。

 この記事の最後に、進化というものが意外と素早く起こる例として、象牙を取るために盛んにゾウ狩り(アフリカゾウだと思います)が行われた頃に、象牙のないゾウが急速に増えたという現象が報告されているのだそうです。1930年には象牙のないゾウは1%しか産まれなかったのに、1998年にはなんと雌ゾウの15%、雄ゾウの9%に牙がなくなっていたというエピソードが述べられていますが、これは本当の話でしょうか。全然、知りませんでした。

 この記事では、ゾウとガのいずれにも「自然選択」によって素早い進化が起こっていると述べられていますが、農薬を撒いたり、綿花に遺伝子を組み込んだり、ゾウ狩りをするのはすべてヒトの営みですので、どちらかというとこれは「人為選択」の結果起こった進化と言えるのではないでしょうか。

 ダーウィンの「種の起源」の中にも、育種という「人為選択」によって、たくさんの品種を作り出すことは「人為選択」によって進化が起こっている例だと書いてありますので、そう考えて良いと思います。

 抗生物質耐性菌やタミフル耐性インフルエンザウイルスの例は、人為選択の例としてすでに有名ですが、細菌やウイルスではなく、昆虫や脊椎動物でさえも意外と簡単に、驚くほど素早く「進化」が起こるということを意識しながら、病気や害虫に対する対策を考えていかなければ取り返しのつかないことになるという警告として、謙虚に受け止めるべきニュースだと思います。

 (急いで書いたので、誤読しているところがあるかもしれません。もしありましたら、ご指摘願えると幸いです。)
Commented by Salsa at 2008-02-10 01:12 x
すごく面白いニュースですね。(他人事として喜んではいけないのでしょうけど)
「進化」と「選択」については、ぜひサイエンス居酒屋してください。
どんなに防波堤をつくっても、水圧(変化の圧力)によって、染み出してきたり、脇から流れ込んできたりするという印象を持ちました。むしろ人為的であろうがなかろうが防波堤をかいくぐってきた経験が残されていたりして。。。どんどん進化は早くなる?なんてことありますかねぇ
Commented by 研究バ○一代 at 2008-02-10 06:52 x
農薬使っても害虫の「人為選択」は起こるし。自然に対して何らかの行為を行えば、それに何らかの形で抗応する訳で・・・。だからと言って、原始時代には戻れませんし・・・。

あ、でも北海道の農政事業は 一切 遺伝子組み換え導入してなかったですよね。Turkey Rangerも味方でしょうね。
Commented by t2 at 2008-02-11 00:18 x
はじめまして。いつも楽しく読ませてもらっています。
ウイルス・細菌と人間の戦いはイタチごっこだと認識していましたが、ガやゾウに関しても進化が素早く起こる可能性があるとは意外でした。
(原文を読んでいないので何とも言えませんが)ゾウについては牙の有無や長さが遺伝によるものだとすると、長い牙をもつものが人間によって優先的に狩られた結果として集団内に牙の短いもしくは無い遺伝子が増えたのでは、と思ってしまいます・・・。やっぱり自然選択よりは人為的な選択が起こっていると考えるのが無難ですよね。
Commented by Sekizuka at 2008-02-11 10:57 x
そもそも「作物」として単一植物を大面積に植栽している段階で、選抜に貢献しているような。
Commented by takuroshinano at 2008-02-11 22:29
このような進化の速度の変化をどの程度許容すべきなのかということがきちんと検証されているのかどうかが問題なのかと思います。というか、どのように検証するのでしょう。
思いのほか早い変化ということは、私たちは知らなかった科学的な事実になるわけですよね。そうするとそれに基づいが新しいリスクマネージメントが作成可能なのでしょうか?そんなことを考えさせられる話です。
Commented by Seagul-X at 2008-02-12 12:39 x
進化の速度に関してはグラント夫妻によるダーウィンフィンチの研究が有名ですね。「フィンチの嘴」を読むと、今回の耐性害虫の出現はそれほど驚くべきことではない、という感じがします。もちろん、驚くべきことではなくても対策について真剣に考えなければならないことではありますが。
Commented by ぜのぱす at 2008-02-17 14:29 x
遅レスですが。進化か適応か。厳密な区別は難しい?

昔、高校の生物の教科書に出ていたオオシモフリエダシャクの工業暗化を思い出しました。ちょっと調べてみたら(と云ってもgoogleっただけですが)、近年、これも捏造の可能性があるとか。有名な写真は、蛾の死体を接着剤で木に貼付けたものだそうで(ホントかな?)。

自分でかつてエントリーしてすっかり忘れていましたが、最近、ヒトのアミラーゼ遺伝子のコピー数に、世界の地域に依って、差が見られるそうですね。これも進化か適応か?
http://ameblo.jp/xenopus/entry-10049399928.html

あと、ちょっと違う話ですが、ガラパゴス諸島のイグアナの『進化?』の話もありますね。
http://ameblo.jp/xenopus/entry-10068566818.html

Commented by stochinai at 2008-02-17 22:39
 ねつ造は問題外ですが、進化と適応は区別する必要もないというのが最近の私のスタンスです。
 定義の問題ですが、種分化というところまで考えるととてつもない長い時間がかかる進化ですが、種内変異を進化とするならば充分「観察可能」だというのが最近の流れではないでしょうか。つまり、進化も研究できるということです。
by stochinai | 2008-02-09 17:19 | 生物学 | Comments(8)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai