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抗生物質を食べる細菌

 抗生物質に耐性のある細菌がいることは、すでによく知られた事実です。細菌の抗生物質耐性は、細菌が抗生物質を排出したり、抗生物質が攻撃する細菌の持つ分子の遺伝子を変化させることで効かなくしたり、抗生物質を分解したりすることによって獲得されると考えられています。

 今日、発行されたScienceには、抗生物質を分解するだけに留まらず、それを栄養にしてしまうという、まさに「抗生物質を食べる」細菌がいるという報告が載っています。

 Bacteria Subsisting on Antibiotics
Science 4 April 2008:
Vol. 320. no. 5872, pp. 100 - 103
DOI: 10.1126/science.1155157
 抗生物質を分解して無効にしてしまうことがあるならば、分解したものを捨てるのではなく、それを栄養源にしてしまう細菌がいるはずだという、ちょっとしたアイディアがこの論文のもとになっています。

 やったことは難しいことではなく、あちこちの土のなかから多くの種類の細菌を取ってきて、1匹から増やした1種類ごとのクローン集団を、1種類の抗生物質しかはいっていない「培地」に入れて、殖えるかどうかをチェックしました。

 そうすると驚くほどたくさんの細菌が、文字通り抗生物質を「食べて」(栄養にして)殖えることがわかりました。私は細菌の分類にはまったく無知なのですが、この図の中に小さな□で示されているように、抗生物質を食べる細菌は系統樹のどこの枝にも同じように分布していることがわかります。
抗生物質を食べる細菌_c0025115_19453057.jpg
 食べられる抗生物質は、カビなどによって作られる生物由来のものばかりではなく、化学合成されたものもあり、細菌の能力のすごさを改めて感じさせられます。

 今回の研究で発見された細菌は、そのままヒトに対して病原性を持ったものはないようなのですが、それらの近縁種には病原性細菌もいるらしく、こうした抗生物質を食べるという遺伝的性質が病原性細菌に導入される恐れはあるようです。

 自然界では、細菌が食べるものが抗生物質しかなくなるという状況はほとんど考えられませんので、このような性質を持った細菌がどんど増えて、ヒトの脅威になるということは想定されにくいのですが、抗生物質に耐性になる手段として「食べる」という方法があるということは、ある細菌を殺そうとして与えた抗生物質が餌になって、減るのではなく増えるという、笑えない結果を引き起こすことになります。

 自然には、まだまだ我々の知らないことがたくさんありますね。
by stochinai | 2008-04-04 20:01 | 医療・健康 | Comments(0)

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