研究成果を無料公開: リポジトリって何?
世界中で行われている研究のうち、企業で行われているものを除くと、その金額はさておき、圧倒的多数のものが税金でサポートされているものです。税金のサポートによって得られた研究成果は、当然のことながら納税者である国民に、さらには世界中の人々に自由に(無料で)公開されるべきものであるという暗黙の了解が昔から科学コミュニティにはありました。
アメリカのNIHではしばらく前から、NIHから研究費をもらって行われた研究成果を公表した論文は PubMed Central (PMC) という誰でもが無料で全文にアクセスできるデジタル・ライブラリーに入れて公開しなければならないというポリシーを持っていたのですが、あまり実行されてきませんでした。ところがこの4月7日をもって、それをすべての研究者に強制すると発表したようです。
Progress toward Public Access to Science PLoS Biol 6(4): e101doi:10.1371/journal.pbio.0060101
この流れは、今や世界的なものとなり、欧米の研究費を出す多くの機関(the Wellcome Trust, the UK Research Councils, the European Research Council, and the Howard Hughes Medical Institute)では、すべて同様の要求を研究者に対して行っているとのことです。
日本で大きな研究費を配分している文科省などの政府機関は、まだそのような政策を打ち出してはいませんが、各大学などが自前の無料アクセスできるデジタル・ライブラリー(機関リポジトリ)を持つ動きが広まっています。朝日新聞の11日朝刊(札幌版)にも、そのことについての比較的大きな記事が掲載されました。記事の一部を引用して掲載します。

記事にあるように、北大図書館は比較的早くからこうした流れを先導する動きをしめしており、今回の記事でも図書館のS田さんが冒頭に登場しております。読んでいるうちに、私の名前も出てきてちょっとびっくりしたのですが、そういえば何ヶ月か前に電話でインタビューを受けたような記憶がよみがえってきました。というわけで、自分のことも載っているのだから朝日新聞もそううるさいことを言わないでいてくれるでしょう。
さて、このリポジトリは高騰する学術雑誌の値段によって、スポンサーである納税者だけでなくそれほど裕福ではない科学者さえもが論文にアクセスできなくなるという危機的状況を打破するために出てきた「運動」なのですが、当然これは雑誌の出版社の利益と相反することになり、あちこちで「闘い」が起こっているのも事実です。
しかし、ハーバード大学などでは、自由にアクセスできるリポジトリにも論文を置くことを許さない学術雑誌には論文を投稿しないということを決めたそうですので、出版社の方でもだんだんと論文をリポジトリに置くことを許す流れになると思います。Nature, Science, Cell などは、今は出したくないのなら出さなくてもよいという態度でしょうが、それでもPlosやBioiMed Centralなどが力を持ってきたこともあり、だんだんと軟化せざるを得なくなるでしょう。
確かにこのことは小さな大学や研究所にいる貧乏研究者にとっては朗報ですが、言われるように誰でもガ原著論文に無料でアクセスできるようになっても、一般の市民がそれを読みこなすのはかなり困難であるという状況は変わりません。せっかく公開された原著論文ですから、これを市民のために読み解く人材が必要になります。
ここでもまた、科学技術コミュニケーターが必要になります。さて、どのような形で市民と科学者の間をつなぐことができるか、コミュニケーターの方々、コミュニケーターを志す方々の腕のみせどころです。がんばりましょう!
【付録】
当ブログにおいても機関リポジトリ関連の記事は、意外とたくさん書かれています。よろしければご参照下さい。
Google検索: リポジトリ site:http://shinka3.exblog.jp/
Commented by 長神風二 at 2008-04-16 01:21 x
Commented by 長神風二 at 2008-04-18 00:52 x
Commented by 長神風二 at 2008-04-19 03:07 x
アメリカのNIHではしばらく前から、NIHから研究費をもらって行われた研究成果を公表した論文は PubMed Central (PMC) という誰でもが無料で全文にアクセスできるデジタル・ライブラリーに入れて公開しなければならないというポリシーを持っていたのですが、あまり実行されてきませんでした。ところがこの4月7日をもって、それをすべての研究者に強制すると発表したようです。
Progress toward Public Access to Science PLoS Biol 6(4): e101doi:10.1371/journal.pbio.0060101
この流れは、今や世界的なものとなり、欧米の研究費を出す多くの機関(the Wellcome Trust, the UK Research Councils, the European Research Council, and the Howard Hughes Medical Institute)では、すべて同様の要求を研究者に対して行っているとのことです。
日本で大きな研究費を配分している文科省などの政府機関は、まだそのような政策を打ち出してはいませんが、各大学などが自前の無料アクセスできるデジタル・ライブラリー(機関リポジトリ)を持つ動きが広まっています。朝日新聞の11日朝刊(札幌版)にも、そのことについての比較的大きな記事が掲載されました。記事の一部を引用して掲載します。

さて、このリポジトリは高騰する学術雑誌の値段によって、スポンサーである納税者だけでなくそれほど裕福ではない科学者さえもが論文にアクセスできなくなるという危機的状況を打破するために出てきた「運動」なのですが、当然これは雑誌の出版社の利益と相反することになり、あちこちで「闘い」が起こっているのも事実です。
しかし、ハーバード大学などでは、自由にアクセスできるリポジトリにも論文を置くことを許さない学術雑誌には論文を投稿しないということを決めたそうですので、出版社の方でもだんだんと論文をリポジトリに置くことを許す流れになると思います。Nature, Science, Cell などは、今は出したくないのなら出さなくてもよいという態度でしょうが、それでもPlosやBioiMed Centralなどが力を持ってきたこともあり、だんだんと軟化せざるを得なくなるでしょう。
確かにこのことは小さな大学や研究所にいる貧乏研究者にとっては朗報ですが、言われるように誰でもガ原著論文に無料でアクセスできるようになっても、一般の市民がそれを読みこなすのはかなり困難であるという状況は変わりません。せっかく公開された原著論文ですから、これを市民のために読み解く人材が必要になります。
ここでもまた、科学技術コミュニケーターが必要になります。さて、どのような形で市民と科学者の間をつなぐことができるか、コミュニケーターの方々、コミュニケーターを志す方々の腕のみせどころです。がんばりましょう!
【付録】
当ブログにおいても機関リポジトリ関連の記事は、意外とたくさん書かれています。よろしければご参照下さい。
Google検索: リポジトリ site:http://shinka3.exblog.jp/
初書き込みです。
機関リポジトリ、オープンアクセス、データベース統合の問題・課題、そしてそれらの日本語化の可能性と是非は、日本の社会の中での科学にとって数年内に大きな問題になると思ってきました。
少なくとも公的資金を用いた日本における疫学研究などは、日本語でデータが公開される(そのための労力と資金をどこが持つかは取りあえず措いて)ようにならないと、それは不公正のようにすら感じます。
今年中には、統合データベースなどのプロジェクトの枠の外に議論の場を作っていければと思っています。
機関リポジトリ、オープンアクセス、データベース統合の問題・課題、そしてそれらの日本語化の可能性と是非は、日本の社会の中での科学にとって数年内に大きな問題になると思ってきました。
少なくとも公的資金を用いた日本における疫学研究などは、日本語でデータが公開される(そのための労力と資金をどこが持つかは取りあえず措いて)ようにならないと、それは不公正のようにすら感じます。
今年中には、統合データベースなどのプロジェクトの枠の外に議論の場を作っていければと思っています。
長神さん、先日のCoSTEP修了式では、大変にお世話になり、ありがとうございました。ここへの書き込みも感謝します。
今の日本ではまだそれほど「大きな問題」として認識されていないのが問題だと、私は思っています。一般的な研究成果の情報公開にとどまらず、納税者の側が研究者を含めた資源を利用する権利を主張することも必要なのではないかと思っています。たとえば、がん患者さんががんの最新研究成果の解説を要求するなどということは当然の権利だと私には思えます。
今の日本ではまだそれほど「大きな問題」として認識されていないのが問題だと、私は思っています。一般的な研究成果の情報公開にとどまらず、納税者の側が研究者を含めた資源を利用する権利を主張することも必要なのではないかと思っています。たとえば、がん患者さんががんの最新研究成果の解説を要求するなどということは当然の権利だと私には思えます。
5年くらい前にオーストラリア人だったかのサイエンスコミュニケーターと話していて、「君が言うScience Communicationでは、scienceにおけるinformationとknowledgeが区別されてないんじゃないか?informationに対するアクセスは権利の問題だ。knowledgeはより良い暮らしのためだったり、enjoyのためでもいい。」というようなことを言われて、ちょっとショックを受けたのを思い出しました。実践活動をしていると、knowledge側にいきがちですが、アクセスへの権利保証は基盤です。
制度的な改善につながるような方向と、ゲリラ的に何かを作っていく方向、両面から何かできないか、考えようと思います。
研究者が折角日本語で書く総説の多くが、数多の良心的な零細の商業出版社に支えられ、でも、それがゆえに、全くウェブ等に載ってこないのをどうにかできないか、ということ、など。羊土社や共立出版、オーム社といったところが出しているような雑誌の総説が、検索し中身を読めるようになるだけで、相当状況が変わるような気がしますし。(いきなり出版社に無償で頼む、というのでなく、何か、Win-Winの関係が構築できるような気がします。)
制度的な改善につながるような方向と、ゲリラ的に何かを作っていく方向、両面から何かできないか、考えようと思います。
研究者が折角日本語で書く総説の多くが、数多の良心的な零細の商業出版社に支えられ、でも、それがゆえに、全くウェブ等に載ってこないのをどうにかできないか、ということ、など。羊土社や共立出版、オーム社といったところが出しているような雑誌の総説が、検索し中身を読めるようになるだけで、相当状況が変わるような気がしますし。(いきなり出版社に無償で頼む、というのでなく、何か、Win-Winの関係が構築できるような気がします。)
最近の流れで言うと、上のエピソードに出てくるknowledgeのコミュニケーションがサイエンスカフェで、informationのコミュニケーションがサイエンスショップなのかな、と感じました。
エンターテインメントとしてのサイエンスだと、科学者側の気まぐれで適当なテーマを適当なタイミングで提供することで充分なのかもしれませんが、情報としての科学を「必要」としている人達への責任を果たそうとすると、それでは済まないという意見は鋭いと思います。
もちろんリポジトリが積極的に日本語論文の収集に乗り出すことも意味のあることだとは思いますが、日本人がかかわっている自然科学の成果のほとんどが英語で発表されており、日本語では解説すらも発表されていないという現実も忘れてはならないことだと思います。
エンターテインメントとしてのサイエンスだと、科学者側の気まぐれで適当なテーマを適当なタイミングで提供することで充分なのかもしれませんが、情報としての科学を「必要」としている人達への責任を果たそうとすると、それでは済まないという意見は鋭いと思います。
もちろんリポジトリが積極的に日本語論文の収集に乗り出すことも意味のあることだとは思いますが、日本人がかかわっている自然科学の成果のほとんどが英語で発表されており、日本語では解説すらも発表されていないという現実も忘れてはならないことだと思います。
若干短絡的になることを構わずに具体的に。
1 NIH出版後半年で原則無償公開ルールを、JSTとJSPSが採用したらどうなるか?そもそも可能か?
2 主要研究機関の年度報告書をウェブで閲覧可能なことを原則とし(ここまではある程度実現している)、そこに、各年度の代表的な論文5-10報を邦訳して掲載するのを、習慣付けることは可能か?
3 日本で行われた、日本の政府関係の資金を得て行われた、疫学研究の成果論文は、日本語への翻訳を義務にする。(誰の義務がいいのだろう? ここは執筆研究者負担にせずに、研究経験者の有力なキャリアパスを開拓する手段に使ったほうがよいかも)
4 出版後、1年が経過した日本語総説の著作権を、公的に一括買い上げして、公開する。 本当は、公的買い上げでなくて、広告を付け直して1ダウンロード幾らで売り直すようなビジネスモデルが立てられるとベター。
出版社にしてみても、過去の記事1本が欲しい人は、図書館でコピーで、特集まるまる欲しい人しか、バックナンバーは買わないんだから、新たな資金源になるかも知れないし、悪い話ではないかも。そんなもんに広告出す奴いない、って言われれば、そうかも知れないですが。
1 NIH出版後半年で原則無償公開ルールを、JSTとJSPSが採用したらどうなるか?そもそも可能か?
2 主要研究機関の年度報告書をウェブで閲覧可能なことを原則とし(ここまではある程度実現している)、そこに、各年度の代表的な論文5-10報を邦訳して掲載するのを、習慣付けることは可能か?
3 日本で行われた、日本の政府関係の資金を得て行われた、疫学研究の成果論文は、日本語への翻訳を義務にする。(誰の義務がいいのだろう? ここは執筆研究者負担にせずに、研究経験者の有力なキャリアパスを開拓する手段に使ったほうがよいかも)
4 出版後、1年が経過した日本語総説の著作権を、公的に一括買い上げして、公開する。 本当は、公的買い上げでなくて、広告を付け直して1ダウンロード幾らで売り直すようなビジネスモデルが立てられるとベター。
出版社にしてみても、過去の記事1本が欲しい人は、図書館でコピーで、特集まるまる欲しい人しか、バックナンバーは買わないんだから、新たな資金源になるかも知れないし、悪い話ではないかも。そんなもんに広告出す奴いない、って言われれば、そうかも知れないですが。
具体的提案なので、直接に反応してみます。
1 技術的には可能だと思います。JSTとJSPSと言わず、文科省が採用しない理由も私には見いだせません。
2 これも文科省が指導すれば、今年から可能なことです。
3 こちらは文科省だけではなく、むしろ厚労省の「管轄」だと思いますが、これこそ政府負担でどんどん実行することは、昨今税金の無駄遣いが責められている官公庁としては、国民に歓迎されることになるでしょう。
4 零細出版社にとっては、例えば著者が所属する図書館でそこそこの値段で買い取ってくれるのであれば、むしろ歓迎なのではないでしょうか。学術文献の広告収益モデルは私もやはり難しいと思います。
建設的な提案を感謝します。提案を受け止めてみると、日本で無償公開の動きが政府から出てこないのかがますます不思議に思えてきます。
1 技術的には可能だと思います。JSTとJSPSと言わず、文科省が採用しない理由も私には見いだせません。
2 これも文科省が指導すれば、今年から可能なことです。
3 こちらは文科省だけではなく、むしろ厚労省の「管轄」だと思いますが、これこそ政府負担でどんどん実行することは、昨今税金の無駄遣いが責められている官公庁としては、国民に歓迎されることになるでしょう。
4 零細出版社にとっては、例えば著者が所属する図書館でそこそこの値段で買い取ってくれるのであれば、むしろ歓迎なのではないでしょうか。学術文献の広告収益モデルは私もやはり難しいと思います。
建設的な提案を感謝します。提案を受け止めてみると、日本で無償公開の動きが政府から出てこないのかがますます不思議に思えてきます。
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