5号館を出て

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若い科学者達の自主的行動が(たぶん)文科省を動かした

 私がひそかに誇りに思っている北海道大学出身の黒影さんが、AAASが1989年に出版した「すべてのアメリカ人のための科学(Science for All Americans. Science for All Americans)」という出版物(本にもなっているようですが、もちろんネットで全文が読めます)の日本語訳を、ネット上で呼びかけて(主に若い)科学者達の賛同を得て、翻訳を開始しました。

 実は、彼らもこの出版物の全訳が文科省の依頼によって、2005年に全訳され発刊され、一部では配布も行われていたという情報はつかんでおり、なんとかそれを公開してもらいたいと、細いチャンネルを通じて依頼したようなのですが、埒があかないとみて、ボランティアを募って翻訳プロジェクトを立ち上げたのは、今年の初めだったと記憶しています。

 そして今現在、ほとんどの翻訳が終わりに近づき、全文公開も間近に迫っていると楽しみにしていたこのタイミングで、なんと「文科省版」の全文がアメリカAAASのサイトで公開されました。

 【『すべてのアメリカ人のための科学』(日本語訳)がAAASのサイトにアップ】
 アメリカの科学技術リテラシーの報告書である『Science for All Americans』(American Association for the Advancement of Science:AAAS、1989)の日本語訳が、2005年に日米理数教育比較研究会によって『すべてのアメリカ人のための科学』(米国科学振興協会)として発刊されていました。今回、この日本語訳が、AAASのウェブサイトに掲載されました。アドレスは、下記の通りです。
http://www.project2061.org/publications/2061Connections/2008/2008-02a.htm
ぜひ、ご覧ください。

 黒影さんがご自身のブログ「幻影随想」で書かれているとおり、「それにしてもこのタイミングの良さ。どう見ても本プロジェクトに刺激された誰かがせっついた結果」だということは、誰の目にも明らかです。

 しかしまあ、せっかくここまで進んできたのですから、今回の公開にもかかわらず、皆さんの「Science For All Americans翻訳プロジェクト」は完成させられることを心から願っております。

 誰に強制されるでもなく、依頼されるでもなく、若い科学者である皆さんが、日本人の科学リテラシーの向上を願って始めた行動は、おそらく日本の科学コミュニケーションの歴史にも、ウェブ上における科学コミュニティの歴史にも、間違いのない大きな記録として残ります。そして、その行動が(おそらく間違いなく)文科省を動かしたということも、人々の心に残ることでしょう。

 ポスドク問題などにも言えることだと思いますが、たとえネット上でも人々が動き出すということで、政治や行政が動くこともありうるのだという希望も与えてくれたと思います。

 結果的には、翻訳が2本出てしまうという皮肉な結果になってしまいましたが、それとて後日内容を比較検討することで、また新しい展開の芽になるかもしれない楽しみを残してくれたと思っています。

 黒影さんをはじめとする、翻訳プロジェクトの皆さん、ほんとうにご苦労様でした。あと一息、立派な翻訳を完成させてください。こちらは、文科省版と違ってウェブの上でどんどんと改訂を続けることができますから、そちらにも期待が持てます。

 素晴らしいニュースを提供していただき、ありがとうございました。とても、うれしいです。
Commented by さなえ at 2008-04-19 18:00 x
間違いなくご本人たちのためには素晴らしいことですね。人が動けば色々なものが動くというのは正しいでしょうね。これって、でも、先にご紹介なさっていたリポジトリと連動した動きかなとか、権利関係の整理がついたからではないかなとも思えました。1989年発行でしたらまだ著作権も切れていませんが、レポジトリの場合、諸権利はどうなっているのでしょうね。ウェブに公開の場合アクセスはOKでも、丸ごとの引用や丸ごとの翻訳は権利の侵害になると聞いたような気がするのですが。
Commented by iMac at 2008-04-20 08:14 x
素晴らしいですね。まだまだ捨てたもんじゃない(ちょっと語弊があるか)というか。とにかく、現状を打開していくにはまず「隗より始めよ」ってとこですか。個人的には若い人には今の枠組みをぶち壊すくらいの覚悟で頑張ってほしいです。
Commented by kitanomizube at 2008-04-21 04:31
おはようございます
良い話をありがとうございます
しかし、これを読んでも、日本の行政って、何なんだろうと思ってしまいますね・・・ばれたから、仕方なく名簿を出してきた・・という、どこぞの厚生○○省とか、社会○○庁とかと同じですよね・・・国会議員も、映画に難癖着ける暇があったら、この翻訳も文科省が国家予算を投じてやらせているのでしょうから、その監督もしてもらいたいものだと思います
Commented by なんだか at 2008-04-25 21:48 x
奇妙なことに労力を使ってますね。別にいいんだけど…
Commented by stochinai at 2008-04-25 22:08
 いや、おそらく今回の文科省の動きは彼らにはどうでも良いことで、結果的には、「なんだか」さんがおっしゃるように「無駄な労力」が使われたと感じる方もおられるとは思いますが、「そんなの関係なく」、翻訳ボランティアに参加した人達がそのことだけで充分に納得できる仕事ができたということこそが大事なのだと思います。
 労力って、かならずしも見返りがあることで報われるものでもないと思いますよ。
Commented by 十字軍の気持ち? at 2008-05-24 20:50 x
黒影さんか…

自分達のテリトリーがあって、そこは今のところバカの被害をあまり受けてないんだけど、そこがバカに侵略されようとしているという被害者意識がまずある。
by stochinai | 2008-04-18 21:57 | 科学一般 | Comments(6)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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