5号館を出て

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2006年 12月 18日 ( 1 )

科学史を勉強しよう

 研究室のメンバーを中心に(主に)最新の科学論文を読んで紹介し議論する「論文ゼミ」ということをずっとやってきています。研究室のメンバー以外にS医大のがん研究所のTさんが参加されているのですが、基本的にはうちのラボの内部で行われるゼミです。

 そういうわけですので、ラボのメンバーには必修でしたが、今までは特に正式な講義科目とはなっていませんでしたが、今年から理学研究院の大学院生向けの「進化発生学ゼミ」として単位認定科目として公開されています。正式な科目としてシラバスや時間割に載っていますので、講義として聞かせてくれるのなら履修したいという希望もあるのですが、自分で論文を探してきて読んで紹介するというゼミの方式を説明すると、ほとんどの人は辞退されてしまいます。

 ところが、その事情を説明しても、ぜひ参加させて欲しいという奇特な学生さんが現れました。といっても、実はすでに知り合いだった方で、CoSTEPの現役二期生で、理学研究院の科学コミュニケーション講座の博士後期課程の大学院生でもあるN村さんです。この「講義」は大学院修士(博士前期)課程が対象なので、後期課程のN村さんには単位すら出なさそうなのですのが、単位はいらないけどおもしろそうだから参加させて欲しいとのことでした。

 でもまあ、参加して他の人の話を聞くだけだとフェアじゃないしおもしろくもないでしょうから、N村さんに発表してもらうことになっていたのですが、今日がその日でした。

 科学コミュニケーション講座というのは、もともとは物理学専攻の中にあった科学史・科学論講座の流れをくんでいるグループなので、N村さんは科学史の勉強もしているのだそうで、今日は我々「素人」に科学史研究の入門講座をしてくれました。

 「Leviathan and the Air Pump: Hobbes, Boyle, and the Experimental Life」という本を紹介しながら、科学史研究というものはかの有名なThomas Kuhnの出現を挟んで、それ以前と以後にわかれるというところから始まって、この本のテーマである17世紀における「実験的方法」の確立のプロセスを解説してくれました。

 当時の最新科学機器である「空気ポンプ」をめぐりながら、まさに「科学」が立ち上がる時代の雰囲気を生き生きと話してもらいました。

 聞きかじりでいい加減に理解しているかもしれませんが、当時の科学が行われていた場所というのが、今まさに我々がトライしている「サイエンス・カフェ」の雰囲気そのものであるように感じられ、非常におもしろく感じました。

 そして、大衆を説得することや、人前でデモンストレーション実験をすること、さらには他の人に追試(複製)してもらうことによって、科学の「正しさ」が受け入れられていく過程がとても良く納得できました。当時、科学の正しさは「素人」の「科学を愛する人々(貴族?)」の受け入れられるかどうかによって勝負が決まるというような雰囲気だったようです。

 その後、科学は科学者という専門職に付託されるようになって今日に至っているわけですが、我々科学者が研究の正しさを主張するためにやっている実験や、再現性を保障するために論文の中に詳しく書く「材料と方法」などという項目の起源が、まさにこの時期に行われていたことにまでさかのぼることができることがわかり、とても良い勉強になりました。

 その場でも言ったのですが、理系の大学生全員には科学史の講義を必修にする必要があると強く思いました。なぜ、科学でウソをついてはいけないのか、なぜ論文のねつ造がいけないのか、なぜ研究費を不正に使ってはいけないのか、といったことは、科学史をしっかりと学ぶことによってかなり防ぐことができるのではないかと確信したのでした。

 科学においても異文化交流は非常に有益であることを再認識させられた時間でした。N村さん、たいへんにありがとうございました。また、お話聞かせてください。
by stochinai | 2006-12-18 23:59 | Comments(22)

今日二つ三つ朝顔の通り道          稲畑廣太郎


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