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カテゴリ:医療・健康

  • 民意はどこにある(「討論型世論調査」実験)
    [ 2011-11-05 22:52 ]
  • 人間ドック
    [ 2011-08-24 19:32 ]
  • シリーズ原発危機 第2回 広がる放射能汚染
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  • まだこんな接待漬け商売が続いていたのか医薬品業界
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  • SF的な事故災害の戦いには多少のSF的な医療も
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民意はどこにある(「討論型世論調査」実験)

 やるたびにコロコロと意見が変わる世論調査は、話の種としてはおもしろいかもしれませんが、何年も先のことを見通した政策を決定する際などに、長いスパンで人々が何を考えていくだろうかという意味での「民意」を知るための手段としてはいかにも危ういものに見えます。もちろん常に揺れ動いているというのもある意味での「民意」の側面であることは間違いなく、そういう「瞬間最大風速」を知るためには新聞社やテレビ局が毎月やっている「出たとこ勝負」の世論調査にも一面の真理があるには違いないのだと思いますが、それだけではやはり何かが足りないと思われます。

 そこで、十分に情報提供し、じっくりと話し合った上で、世論調査をやった場合には、出たとこ勝負の世論調査とは違った結果が得られるのではないか、またそうして得られた世論調査は行政が政策を決定する際に、瞬間風速測定型よりはより適切な参考になるのではないかという期待のもとで始められたものが、今回実験的に試みられた「討論型世論調査」というもののようです。

 慶應義塾大学DP(討論型世論調査)研究センターのホームページに解説が載っています。
討論型世論調査(deliberative poll: DP)とは、通常の世論調査とは異なり、1回限りの表面的な意見を調べる世論調査だけではなく、討論のための資料や専門家から十分な情報提供を受け、小グループと全体会議でじっくりと討論した後に、再度、調査を行って意見や態度の変化を見るという社会実験です。
 こういうものを理解するには、実際に行われているものを見るのが一番ということで、見学させてもらいました。

 今回行われた「討論型世論調査」実験は、札幌市、北海道新聞社、北海道新聞情報研究所の協力のもと、BSEに関する討論型世論調査実行委員会と北海道大学 高等教育推進機構科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)とが主催して、現在行われているBSEの全頭検査について再検討する「みんなで話そう、食の安全・安心」というものです。

 札幌市民に対する世論調査ということで行われた今回のスケジュールの概要がこちらにあります。世論調査ですから、まずは市民から無作為抽出されたメンバー選考から始めます。最初に市民から3000人を無作為に抽出し、アンケートを送ります。アンケートを戻してくれた方の中にいる11月5日全日をかけて行われるイベントに参加できる人の中から、年齢・性別・職業・住居など、できるだけ札幌市民全体と同じような組成になるように150名を選び出します。この作業がうまくいかなければ、札幌市民を代表する「民意」をすくいとったことになりませんから、この段階はとても重要です。

 その150名の方々に、事前に情報提供のための資料をお送りし、予習しておいていただきます。その資料がこれです。
 こちらに電子ブックが公開されておりますので、ご覧下さい。

 さて、今日がイベント・デー、いよいよ「討論型世論調査」を実際に行う日です。午前中に集まって、まず「討論前アンケート(世論調査)」に回答してもらいます。その後、15人ずつのグループに別れて「BSE問題のこれまで」について討論し、グループごとに「専門家に聞きたい質問」をまとめます。その後、全体が一堂に介して専門家3名の方々に各グループから出てきた質問に答えてもらいます。これがその時の模様です。
 続いて、再度グループに別れ、今度は「今後のBSE対策」について討論し、専門家に対する質問をまとめ、再度全体が集まったところで専門家に質問に答えてもらいます。

 冊子の中にこれからのBSE対策(全頭検査)をどうするかの選択肢が示されており、ここではそれについて討論してもらいました。


 各グループでいろいろな意見が出たのですが、おもしろいと思ったのは、各グループから「専門家の皆さんはこれから全頭検査をどうしたら良いと思うかを聞きたい」という質問が出てきたことでした。

 今までだと、専門家と市民が議論する場などでは、まず専門家から「こうしたら良いのではないか」という提案がなされ、それに対して市民が疑問や意見を言うという場面をいろいろと見聞きした記憶が多く、今回のように幾つかの選択肢を前に、市民から「専門家としては、どれが良いと思うか」などという質問が出るという状況はほとんど記憶がなかったものですから、これはなかなか新鮮な印象でした。まさに、市民が専門家に諮問しているというようにも思えたのです。

 というように、2回のグループ討論と2回の専門家への質疑応答を経て、市民の皆さんの意見はどのように変わったのでしょうか。あるいは、変わらなかったのでしょうか。それを知るために「討論後アンケート(世論調査)」が行われました。
 もちろん、本日の「実験」の最大の興味は討論前と討論後で行われたアンケートの変遷なのですが、それを知ることは今はできません。今後、時間をかけて残された3回のアンケート(事前/討論前/討論後)の結果と、イベント当日の議論の内容などを集計・分析した結果が発表されることになっています。

 その結果如何によっては、行政側が「民意」を知るためにこの手法を使いたいと思うようになるかもしれません。あるいは、危険すぎるということで封印されてしまうかもしれません。

 いずれにしても、結果のレポートが楽しみです。

 運営ならびに参加された皆さん、お疲れさまでした。

by stochinai | 2011-11-05 22:52 | 医療・健康 | Trackback(1) | Comments(0)

人間ドック

 今日は一日人間ドックでした。世の中にはおもしろい学会がたくさんあるとは思っていましたが,この「人間ドック学会」もある意味で,かなりおもしろい気がします。
 人間ドックといえば,昔は「自覚症状がないがんを発見する」ということで名を挙げたような気がするのですが,最近はどうなのでしょう。この人間ドック学会で出している毎年のプレスリリース「人間ドックの現況」を見ると,確かに人間ドックでは確実にがんが発見され続けているのですが,その成績は年々増加しているということではないようです。
 それよりもおもしろい(?)のは,先日のニュースにもありましたが人間ドックを受診した人の「健常率」がどんどん低下しているということです。
 これは地域ごとのデータで,北海道や東海・北陸,近畿などに特徴的にみられることですが,年を追うごとに急激に健常者の割合が減っているという傾向があります。といって,特にどこの地域の健常者が少ないというわけでもないのはこの図を見るとわかります。「健常者」はどこにも多くないのです。
 全国的に健康な人が減っていることと,我々の食生活などの生活習慣が関係していそうだということはどなたもおわかりだと思いますが,次の図をごらんください。
 年を追うごとに増加している,高コレステロール,肥満,肝機能異常はすべて高カロリー食生活あるいは飲酒などと関連した項目です。

 要するに日本のほとんどの地域において,食べる・飲むということにおいて「必要以上」の摂取をしている人の割合が増えているということなのだと思います。

 その検査値が「異常」だからといって,即「病気」というわけではないところが「検査値」の難しさでもあり,人間ドックの結果の生かし方の難しさだとも思います。もちろん,ドックの目的は明らかな「病気」になる前にそれを阻止し,病人を減らすことなのですが,捉え方如何によってはドックで「異常値」が出た人はすでに病人であり治療を要する存在なのだということになってしまい,本来の目的である病人を減らすことから病人を増やすことになってしまうという本末転倒になりかねません。

 というわけで,異常と正常の間に「要注意レベル」を設定し,なるべく早くそこから正常へと戻ってもらうためにこそ,人間ドックのデータが活用されるべきだということなのでしょう。

 私に関していえば,ずっとこの「異常」な存在に居続けている不良受診者なのですが,少なくともこの3年に関していえば,着実にすべての検査値が正常へとシフトし続けていることが判明し,今年の値だけを見たならばまだまだ「異常」ではあるものの,医師・栄養士の方々のご意見では,このまま努力を続けることで「正常値」へと着地することが十分に期待できるので,努力を怠らないようにとのアドバイスをいただきました。

 ありがとうございました。

by stochinai | 2011-08-24 19:32 | 医療・健康 | Trackback | Comments(0)

シリーズ原発危機 第2回 広がる放射能汚染

 やっぱりNHKは見ごたえのある番組を作ることができますね。
 6月5日に放送した「シリーズ原発危機 第1回 事故はなぜ深刻化したのか」続編、「シリーズ原発危機 第2回 広がる放射能汚染」です。第1回目は「事故対応にあたった官邸、保安院、原子力安全委員会、そして東京電力はどう動いたのか。当事者たちの証言と内部資料をもとに徹底検証する。」という掛け声は良かったのですが、事故そのものが現在進行形で収束の目処も見えないという中、関係者がなかなか「本当のこと」を言ってくれるはずがないという状況でしたので、予想通り食い足りない印象ではありましたが、今回のものは期待を裏切らないものになっていたと思います。

 厚生労働副大臣が、現在の市場に「規制値を超えたものが流通していないとは断言できない」と本音の真実を語ったり、チェルノブイリで現在行われている住民に対するサポート体制を報告したあとで「今の日本政府からは感じ取れないものがいかに重要か」と言ったり、今の民主党政権がガタガタであることも理由のひとつなのかもしれませんが、少なくともNHKの番組を事前検閲して作り替えさせたりしていたような自民党政権時代とはやはりちょっと雰囲気が違うのかもしれないと思わされました。

 政府批判や政府内部からの本音トークが出てくることは放送・報道としては健全この上もないことだと、歓迎します。

 前半は、放射性物質の降下に見舞われながらも、その量から政府が保証する避難地域に指定されず、経済的にも避難のできない人々の取材がありましたが、いくら本人や家族が避難を希望しても、そういう地域の人々の移動は自己責任・自己負担となります。普通の「庶民」の多くは、仕事を捨て、家を捨てて、新しい土地へ移るなどという余力はありませんから、政府を信じられない限り精神的ストレスはいかばかりかと胸が痛みました。

 私はやはり原発事故以前の基準だった、年間1ミリシーベルト以上の線量が記録されるところは、管理地域として国が責任をもって規制する場所として扱うべきだと思います。その上で、精密で経時的な調査を行い、除染で1ミリシーベルト/年以下に下げれるのならばそうして、できないならば住民の移動を援護し、その方たちには仕事の世話も保証するというところまでは、国がやるべきことだと思います。

 それから、今回の番組で実は高濃度の放射性物質の降下が原発から数百キロ離れたところでも起こりうること、そしてそれは日本の持つ調査技術でしっかりと把握できるということを示したことも良かったと思います。今日初めてしって愕然とした方もいたかもしれませんが、漫然と待っているだけではなく、主体的に調査したり、調査を要求したりすることが大事だと思われた方も多かったのではないでしょうか。

 そして、この番組を見てのある意味で最大の収穫は、チェルノブイリ周辺地域では我々が想像していた以上にきめ細かく科学的な住民の食と健康を守る取り組みが行われているということだったと思います。我々はソ連やロシアは科学技術レベルが低いばかりではなく、国民の人権などはあまり尊重されない国家なのだと教えられてきたような気がしますが、今の福島と比べるとチェルノブイリ周辺地域の住民サポートは天と地ほどの違いがあると思いました。

 各学校に食品の放射線をカウントする装置があったり、あちこちにホールボディカウンターが用意されており、内部被曝を簡単にチェックできる体制ができていたり、無料の医療体制が用意されていたりと、いったいどっちがどっちの国なのかとわからなくなってしまうほどの充実ぶりでした。

 放射線との戦いは、「忍耐と努力そして財源」なのだという言葉は今の政権そして次に政権を取るかも知れない方々の心に深く刻んでおいてほしいと思います。日本の大臣は事故が収束していない現時点で、そろそろ避難から元の場所に戻ることなどを提案している時点で、この三つ「忍耐と努力そして財源」についてまったく理解がないことを暴露していると言わざるを得ません。

 「後戻りできない現実があるとしても、できることがたくさんある」そう締めくくった司会の言葉を、我々日本人全員がよく噛み締めて、原発そして原発事故と向かい合わなければならないと思いました。

 見逃した方、再放送は7月9日(土)午後4時30分からの予定だそうです。

by stochinai | 2011-07-03 22:56 | 医療・健康 | Trackback | Comments(2)

まだこんな接待漬け商売が続いていたのか医薬品業界

 昔、医薬品のセールスは「プロパー」と呼ばれる販売員によって担われていて、そのプロパーさん達の主な業務活動が医師や薬剤師、薬局長の接待だと聞いたことがあります。時代が移り変わり、プロパーさんという名前がなくなり、今は同じような立場の方をMR(メディカル・りプレゼンたティブ:医薬情報担当者)と呼ぶようになって、昔のような激しい接待攻勢などはなくなったのだと思っておりました。
 (C) photoXpress (本文とは関係のないイメージです。)

 そんな気持ちでいたら、今さら目を疑うようなデジャブ感のただようニュースに出会いました。ミクスOnlineからです。
メーカー公取協 医師らへの接待関連行為規制見直し骨子決める 禁止行為と可能行為を明確化
             公開日時 2011/05/20 05:02

 医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(メーカー公取協)は、医師ら医療者に対するメーカーの接待関連行為について見直す内容の骨子を決め、5月19日の通常総会に報告した。これまでも接待関連行為については公正競争規約で華美、過大なものであれば違反となるとされ制限されてきたが、規定があいまいで、解釈の違いが生まれ、それが違反につながるケースもあった。
 要するに、ルールがあいまいだったので、実質上接待漬け商売がなくなっていなかったということのようです。というわけで、一つずつ例をあげるとともに、それぞれのケースで具体的な金額までも示しているのですが、その小中学生に対するような例示の仕方もさることながら、その金額の大きさにも驚いてしまいました(という、私の生活水準が貧乏臭すぎるのでしょうか??)。ここに書いてある見直し後の値段でも、まだかなり高い気がするのですが、それは今まではどんなにお金を使っていたのかという事が推し量られるということでもあります。
▽商談の打ち合わせに伴う飲食は1人単価5000円を上限とする
▽医薬情報担当者によると自社医薬品の説明会に伴う茶菓・弁当は1人単価3000円を上限とする
▽自社医薬品講演会に伴う情報交換会(立食パーティ)での飲食は1人単価2万円を上限とする
▽講演会役割者に対する慰労等の飲食は1人単価2万円を上限とする
▽講演会・研究会等の世話人会等の会議出席者への飲食は1人単価2万円を上限とするとする
▽アドバイザリー会議等の会議出席者への飲食は1人単価2万円を上限する
これら以外の飲食の提供は禁止。飲食提供後、改めて提供内容を変えて飲食を提供すること(いわゆる2次会)も禁止。ゴルフや釣り、観劇、遊興などの「娯楽の提供」も禁止する。
 さすがに、「金額が大きすぎるとの意見が多かった」らしいとも書いてあるので、ちょっとは安心したのですが、「医療業界の常識は庶民の非常識」という慣例に押し戻されたということののでしょうか。

 そもそも、医薬品業界が賄賂と見紛うばかりの接待費を使っているのは、それが回収できるからであり、回収される分は医薬品の価格に上乗せされているというのは、資本主義の論理であり、そんなことは誰でもわかることです。

 ただでさえ、健康保険などで支払われる医療費が膨らみ、保健制度そのものが破綻しかねないとまで言われている陰で、このような「無駄な」あるいは「不浄な」お金が営業活動に使われて、医療費を押し上げているのだとしたら、何をかいわんやです。

 おそらく接待される医師など「関係者」の方々の多くはこの現実をご存知なのだろうと思われますので、売る側の姿勢が変わらないのだとしたら、買う側あるいは利用を媒介する側の医療関係者の方々が「接待拒否」の強い姿勢を示していただけないものかと思います。

 接待されなければ生活できないほど苦しい生活をしているのでなければ、なんとかそこは公明正大にしていただけないものかと願うばかりです。
by stochinai | 2011-06-20 20:23 | 医療・健康 | Trackback | Comments(8)

SF的な事故災害の戦いには多少のSF的な医療も

 いよいよ原発事故の処理は日本の敗色が濃厚になってきました。

 原発作業員の年間被曝量、上限撤廃へ 厚労省が特例措置 全国の原発保守を懸念(産経ニュース)
 厚生労働省は27日、通常時は年間50ミリシーベルトと定めている原発作業員の被曝(ひばく)線量の上限を当面の間、撤廃する方針を固めた。・・・原発作業に従事できるのは全国で7万人余りしかいない。各地から福島第1原発への派遣が相次ぐ中、規定の被曝線量を超えると、ほかの原発の保守や定期点検に支障が出かねないとして、経済産業省が厚労省に特例的な措置を要請していた。・・・厚労省は3月15日に省令で、福島の事故の応急対策に限定して緊急時の被曝線量を100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げていた・・・
 ついに「青天井」を採用することになったようです。作業に携わる方々は、いちおう事情を了解した上で働いているということなので、ただちに法律違反ということにはならないのでしょうが、このくらい直接的に命と引き換えにした「職業」というものが人道上許されるのかどうかは意見が分かれるところだと思います。
 photo cited from Big Haber English News

 大量に放射線被ばくを受けると、最初に現れる顕著な症状は白血球の減少だと言われています。白血球は正常なヒトの骨髄では幹細胞から常に再生されており、あまり寿命の長くない白血球が減少しても日々新しい白血球が補充されます。ところが放射線被ばくによって幹細胞は障害を受けやすく、白血球の再生ができなくなることで減少が起こります。

 これに対するもっとも効果的な対処方法は、国立がん研究センター理事長の嘉山孝正さんが記者会見で述べられたように「被ばくに備えた自己末梢血幹細胞の保存と移植治療」と言われています。同時に嘉山さんがおっしゃっている「医療従事者用ガラスバッジの福島県民への配布」も、個々人の被ばく状況を把握するためにはとても良い方法なので、少なくとも今問題になっている福岡県の子供たちには早急に実現されるべき課題だと思います。

 ガラスバッジに比べると、幹細胞の採取と保存には多額の資金、手間それにある程度の設備も必要になりますが、骨髄からの幹細胞採取ではなく末梢血からの幹細胞採取ですから、私は原発作業員を守るために現実的な選択肢だと感じました。ましてや、作業員の被ばく線量の上限を撤廃されるという状況では、義務的だとさえ感じられます。

 そういう観点から虎の門病院血液内科部長の谷口修一さんが、「谷口プロジェクト」を提唱されています。

 谷口プロジェクト: なんとしても原発作業員は守らねばならない
 福島原発の放水作業に従事された東京消防庁職員の記者会見に胸を打たれた方が多いのではないかと思う。・・・出動された隊員およびご家族も、想像を超える世界ではあるが、我 が身顧みずとも、なんとしても地域住民ひいては日本国民を守りたいという強烈な使命感で業務に従事されたものと考える。・・・しかし、それではいけない。彼らに そんな思いをさせてはならない。・・・作業に当たる方々の健康リスクに備えて、自己造血幹細胞を事前に採取し凍結保存しておくことであり、場合によっては必要になるであろう未承認薬を使える用意をすることである。(2011年3月25日)
 非常に簡潔に課題を主張されていますが、理解できる範囲で私は大いに賛同します。

 しかし、なぜかは不明ですが「日本学術会議東日本大震災対策委員会は4月25日,福島第1原発事故における緊急対応作業員の自己造血幹細胞の事前採取について,「自家造血幹細胞事前採取に関する見解」を発表,「(事前採取は)不要かつ不適切」とした」という報道がありました。こちらにその「見解」全文のpdfファイルがあります。

 それに対して本日、「MRIC 「谷口プロジェクト」を支えよう」という記事が投稿されました。こちらは村上龍が編集長を務めるメールマガジンJMMで本日配送されてきましたが、残念ながらまだウェブには掲載されていないようです。しかし、同じ文章をこちらでも読むことができます。

 MRIC 「谷口プロジェクト」を支えよう 2011年4月29日 ベイラー研究所 松本慎一
 谷口プロジェクトつまり、「福島原発作業員のための自家末梢血幹細胞採取・保存」を初めて聞いたときに、谷口先生の現場の人たちを助けたいという情熱と、血液内科医の知恵に感銘を受けました。

・・・

 ところが、日本学術会議は私の想像だにしなかった見解を以下のように発表しました。

 「日本学術会議は自家造血幹細胞移植が他者造血幹細胞移植に比し、適応のある急性被ばく犠牲者に迅速かつ安全に実施できる利点を有することは理解するが、福島原発緊急対応、復旧作業に現在従事している作業者に実施できるように事前に採血保存することは不要かつ不適切と判断する。」

 この、日本学術会議のステートメントは、真摯さに欠けるように感じられ残念ですし、問題があります。

・・・

 自家造血幹細胞移植の利点を認めながらもエビデンスが十分でないことで不適切と結論しています。

・・・

 未曾有の原発事故への対応にエビデンスのある医療なんてある訳ありません。ここは、知識と経験を持つ医師が真摯に最高の医療を考え、その考えに対しよりよい医療にするための議論は必要ですが、エビデンスが不十分なためその医療行為が不必要で不適切という考え方は正しくありません。

【「不適切という判断」は不適切】

・・・

日本で初めての重大な原発事故の作業員に対する医療側の準備である、自家造血幹細胞移植に、不要かつ不適切というステートメントを出すだけの、コンセンサスやエビデンスはあり得ません。彼らが出せるステートメントとしては、「勧めるだけの根拠が無い」が精一杯のはずです。

・・・

この医療行為が必要か不要かをあたかも日本学術会議が決めることができると誤解していると思えます。
医療者がすべきことは、十分な説明であり、必要か不必要かという判断は、今回は作業員本人が決めることです。

・・・

原発での作業者を守りたいという真摯な思いである谷口プロジェクトを否定する日本学術会議って、本当に真摯に現場の作業員のことを考えているか疑わしくなります。
 というわけで、私もこの谷口-松本さんの意見に賛成で、日本学術会議の声明に学問的正当性を感じることができませんし、そもそもこのようなものが学術会議が出すべき声明なのかという根本的姿勢にもかかわる疑問も感じました。

 谷口さんがおっしゃる通りの未曾有の事故に対して我々は全く経験のない戦いを続けているわけです。いわば、SFの世界と思っていたものが現実に起こっているわけです。そのような時には、多少SF的と感じられることや、多少のリスクをともなうかもしれない治療法が試されることもやむを得ないのではないでしょうか。

 平時にじっくりと時間をかけて研究することができる時ならばのんびりと論争をしていてもよいのかもしれませんが、今目の前で人災が拡大していくのを座して見ていられる状況ではないはずです。

 学術会議は一刻も早く見解を撤回して、会議内部におられる放射線医療に少しでも関係のある医師・科学者の方々は、ただちに治療する側に加わっていただきたいと思います。
by stochinai | 2011-05-01 21:51 | 医療・健康 | Trackback | Comments(0)

原発に賛成でも反対でも

 今回の福島原発の事故を受けて、原発をどうするかという議論が、国内のみならず世界中で盛んになっています。ドイツのように一気に原発反対に世論が動いたと言われている国もありますが、当事国である日本ではちょっと意外ですが、原発反対に国論が大きく振れたとまでは動いていないと報道されています。

 原子力発電が扱いにくい技術であることは、賛成派も反対派も共通した認識があるようですが、もっとも大きな議論の焦点になっているのはどうもその「経済性」であるようで、今までは原子力によって作られた電気が「圧倒的に安い」ということと、化石燃料のように発電によって大量の二酸化炭素を放出しないところが強調されてきており、少なくとも今回の事故が起こるまでは、原発は「安くてクリーン」な発電方式ということが半ば「常識」として敷衍していたという気がします。少なくとも日本ではそうだったと思います。小さな事故があったり、ちょっと大きな事故があっても運転を休止することでそれほどの大規模な放射性物質汚染が起こってこなかったという「実績」がある意味で評価されてきたということだとも思います。

 おまけに世界的な地球温暖化キャンペーンで、少なくとも「二酸化炭素を出さない発電」ということで、原子力発電は力を得つつあったとも言えるでしょう。更に、原発の地元には政府からいろいろな補助金が出たり、電力会社からさまざまな優待制度があったようで、もちろんたくさんの雇用も生み出すということともあいまって地元では反対運動はしにくいという話もよく聞くところでした。

 原発事故以後も原子力発電の経済的優位性と原発と直接の因果関係を持った死者を出さないという意味での安全性を強調して、強い論陣を張っている方がたくさんいらっしゃいますが、その中の有力な理論家のひとりだった池田信夫さんが、一転して弱気ともいえるtweetを出してきたのをご覧になったでしょうか。
 池田さんはいままで一貫して、今回のような事故を起こってもただちに人がたくさん死んでいるわけではないので、被害は大きくないという判断をしていたのですが、原発事故による賠償金の請求ということを考えて、愕然としたのだと思います。

 原発反対派が原発による発電のコストは、事故が起こった時の保証などもコストに入れることを主張してきたのですが、日本で大規模な賠償訴訟が起こるような事故が起こったことがなかった今までは、それをコストに入れる必要はないという推進派の立場に押されていたと思うのですが、今回実際に大事故が起こり、その直接の被害者(放射線そのものによる被害者)だけではなく、むしろそれ以外の「農産物の風評被害や避難による所得補償」を考えた時に、その賠償額が天文学的数字になることを理解したのだと思います。この後、水産物の被害および風評被害が起こってくることは確実ですし、地震の被害が少なかったにもかかわらず強制的に移転させられる人々の補償などもとうぜん東電の責任で支払われるべきものです。それが原発による発電のコストに入れるということになると、原発の電気はどこまで高価なものになるかわからないということになります。

 というわけで、さすがの強気の池田先生も、もう「原子力はだめかも」しらんね、という境地に達したのだと拝察されます。

 今回の事故で明らかになった風評被害の特徴は、国内よりも国際的に広範囲にあることないこと混ぜ合わされた「噂」が流れていることではないでしょうか。たとえその多くが誤解だとしても、日本の農水産物のみならず、工業製品までも放射線量の測定がされるという状況は、競争相手にとっては願ってもない日本の失点であり、場合によっては積極的にその状況を利用しようとしているかもしれません。

 実際の放射性物質の拡散はどうあれ、日本国内からの外国人の脱出および、ほぼ壊滅したと言われる外国からの観光客の訪問を考えると、今回の事故はとてつもない大きな経済被害を日本全体に及ぼしています。今は、少しずつ戻ってきつつあるとはいえ、北海道や沖縄への外国人観光客までもがほとんどすべてキャンセルされたという事態に対しても、東京電力に対する訴訟を起こすに足る十分な理由になると思います。

 この上さらにTPPなどで農水産物なども国際市場で戦わなくなければならなくなったらどうでしょう。小さな島国における原発事故は、日本全体の産業に対する回復不能の影響を及ぼします。このような状況を考えると、外国との貿易や観光を主な産業とする国にとって、もはや原子力発電を止めるという方向に進むしか選択肢はないのではないかと思います。

 たとえば、農業・畜産・水産・観光が大きな産業となっている北海道のことを考えてみます。たとえ、死者が出ることのない大きなものではなかったとしても、もしも泊発電所で大規模な放射性物質の放出を伴う事故が起こったと仮定してみてください。その翌日から、北海道のすべての産業は国際的鎖国状態に置かれることは間違いないと確信します。

 日本では、今はすでにたくさんの原子力発電所を動かしていますから、明日にでもすべてを廃炉ということを言っても現実的ではありません。現在よりも、さらに安全に運転しつつ、徐々に縮小していくとともに、地球生態系の中で持続可能・リサイクル可能な発電へと転換していくために、原子力発電所の改善や新しい発電方式の開発のための研究が必要とされています。

 池田信夫さんのおっしゃる通り、「実際の(というよりは放射線による直接の)被害をはるかに超える賠償を要求されるという特殊性」のある原子力発電は、人間社会の在り方、人々の行動を考えると、原発に賛成とか反対とかを越えて、やはり「だめ」なのだということを今回の事故の教訓とすべきではないでしょうか。
by stochinai | 2011-04-24 23:03 | 医療・健康 | Trackback | Comments(8)

栃木や茨城の水道水は前から汚染されていた

 今日は東京の水源地の水および水道水に放射性ヨードによる汚染が認められたということで大騒ぎになっています。

 しかし、自分でデータを見ることが習慣になっている人々は、栃木県宇都宮市や茨城県ひたちなか市の水道水は18日や20日の時点で汚染されていたことを知っています。(グラフ:字が読みにくかったら画面をクリックしてください。)
 ここで、福島県(宮城県も)のデータが出ていないことは気持ち悪いですが、福島県に関しては相当な高濃度が予想されます。

 もちろん、水が汚染されるのは大気中に放射性物質が浮遊していることが原因であり、関東地方においては21日から大気中から降下する汚染物質の量が高止まりしていますので、これは予測された事象と言えます。(グラフはこちらと同じソースから)
 それにしても、さすがに東京の水に汚染が発覚すると反響は爆発的なものです。

 爆発というと3号炉がまた爆発したというニュースが飛び交っています。残念ながらライブカメラは落ちていて確認のしようがありません。

 改めてアメリカと日本の原発周辺退避ゾーンを見比べてみると、ゾッとする気分に襲われます。
 (The New York Times Asia Pacific, March 17

 宇都宮市やひたちなか市は米軍の退避ゾーンよりもはるかに外にあります。ゾーンの内側にあるいわき市、福島市、郡山市、白石市、角田市のデータはどうなっているのでしょう。気になるところです。
by stochinai | 2011-03-23 17:45 | 医療・健康 | Trackback | Comments(1)

直ちに健康に被害が出るものではない

 今日、福島第一原子力発電所付近で放射線の線量が「直ちに健康に被害が出る恐れのある」くらい強くなったために、多くの作業員が原発から待避したということがありました。その後、線量が低下したことを受けて、作業に戻ったというニュースがありました。

 今朝のNHKテレビでは30キロ以上離れたところを飛ぶヘリコプターから望遠レンズで撮った、3号機付近から白煙が上がる様子が放送されていました。
 同じ頃(10時過ぎ)に、第1原発の正門付近での線量が急増して、10時10分に毎時810マイクロシーベルトだったものが、10時半には毎時2399マイクロ(2.4ミリ)シーベルトに、40分には近くの場所で毎時10ミリ(10000マイクロ)シーベルトにまで増えたため、現場の作業員に退避命令を出したということです(ロイター記事)。

 6-7(6000-7000ミリ)シーベルトの放射線照射が致死量ということです。ウィキペディアによれば5%致死線量が2シーベルト、50%致死線量 (LD50) が4シーベルト、100%致死線量が7シーベルトだそうです。同じところに、「200ミリシーベルト以下の被曝では、急性の臨床的症状は認められないとされる」と書いてありますので、どうやら「直ちに健康に被害が出るものではない」という最高の値がこのくらいということなのかもしれません。

 そこで、自衛隊や米軍が逃げ出す線量が50ミリシーベルトであるというのもなんとなくわかるような気がします。もっと高い値のところで作業をすることが多いと思われる原発の現場作業員の厚労省が認めていた許容被曝量も、もともとは100ミリシーベルトだったということですから、50-100ミリシーベルトというのがギリギリ「直ちに健康に被害が出るものではない」数値なのかもしれません。ところが、この値がかなりアバウトな(非科学的な)ものであることは、厚労省が最近その値を250ミリシーベルトまで引き上げたということからもわかります。つまり、数日前までは労働者にとって100ミリシーベルトが「直ちに健康に被害が出るものではない」数値だったものが、今日は250ミリシーベルトがその数値になっているのです。(The New York Times アメリカの原発労働者の許容量は50ミリシーベルトだそうです。)

 しかし、医学的には500ミリシーベルトで白血球減少が証明されているということですから、安全を見越してその許容量が50ミリシーベルトになっているのは、かなり納得できるものです。それを、いきなり250ミリシーベルトまで引き上げるというのは、ちょっとむちゃくちゃと言えます。いくら緊急時だとはいえ、こんな軽々に基準を動かして良いものでしょうか。そういう意味で、原発上空に50ミリシーベルトを遙かに越えた放射線が飛んできているという理由でヘリコプターによる作業を拒否した自衛隊の判断も理解できます。

 というわけで、「直ちに健康に被害が」出ようが出まいが、放射線は常に危険なものであり、どんなに小さなものであってもそれに対して拒否感や嫌悪感を持つのは健全な反応だと感じます。
 こんなひどい状況になった原発に対して、いくら目に見えないものとは言っても、その背景に放射性物質そしてそれが出す放射線があるということを考えると、普通の人ならばただ遠くへ逃げることしかできないと思います。

 それにもかかわらず、東京電力に雇われているたくさんの正規・非正規の職員、警察、消防隊員、自衛隊員、米軍の方々が、状況を改善するために事故現場に立ち向かっている勇気には頭が下がります。しかし、それはあくまでもそれぞれの命を大切にすることを前提にした上でやっていただくべきものであり、他人が偉そうに「直ちに健康に被害が出る」とか出ないとか言えることではないはずです。

 しかし、この原発をこのまま放置しておけば、この先何十年にもわたって「死の灰」が吐き出され続けて、たくさんの人々に健康被害を及ぼすことは確実なので、なんとかしなければならないこともまた事実です。

 ここは原発に賛成も反対もすべて忘れて、一日も早く核燃料の「火を消す」ことに英知と努力を結集していくしかありません。科学者も、素人もプロも、みんなでアイディアを出し合いましょう。
by stochinai | 2011-03-16 20:40 | 医療・健康 | Trackback | Comments(7)

自分の遺伝子を受け継がない胎児を持ったヒトという動物

 2億数千万年前に、地球上に哺乳類という動物が進化してきました。哺乳類の最大の特徴は、子どもを乳で育てるということになっていますが、我々の直感としては胎児として子宮の中で育つものという印象のほうが強いかもしれません。しかし、哺乳類ももともとはカモノハシのように最初は卵で生み出されていたと考えられていますが、それがカンガルーのように生み出された未熟な子どもを袋の中で哺乳しながら育てる有袋類へと進化し、さらには胎盤を進化させた有胎盤類(真獣類)となり、母親の子宮の長い胎児の時期を経た後に、かなり完成した形で生み出されるようになったのです。

 有胎盤類の中には、生み出されるとすぐに歩き出すことができるウマやキリンなどのようなものもいますが、ヒトのように歩くことはもちろん、目も開いていない「未熟児」として生み出されるものもいます。どちらにしても生まれてからしばらくは母親の出すミルクで育てられるというところは、どの哺乳類も持っている共通の性質です。

 母親が出産後ミルクを出すようになるのは、出産前後の体内のホルモン環境の変化によるものであり、基本的には妊娠と出産を経ない限りミルクは分泌されるようになりません。つまり、自分の子宮の中で赤ちゃんが育ち、出産により体外に出されるという一連のプロセスの後に、赤ちゃんが乳に吸い付いてくるという刺激があって初めてミルクの分泌が継続されるのです。ヒトを含む哺乳類のメスにとって、赤ちゃんを体内で育て、さらに出産後も育てるということは、非常な負担になりますし、場合によっては自分の命を危険にさらすことでもあります。そうしたリスクがありながら一所懸命に子どもを育てる母親の性質を「母性本能」と呼んだりもしますが、赤ちゃんは自分の遺伝子を半分受け継いだ存在であり、たとえ自分が死んでもその遺伝子が後の世代に受け継がれるならば自分が死ぬことも受け入れるのが「生物」の持つ基本的な性質です。

 哺乳類が生まれて2億数千万年、母親がミルクを出して育てる子どもは常に自分の遺伝子を半分、そして父親の遺伝子を半分持った存在でした。ところが昨年ノーベル医学・生理学賞を授与されたイギリスのロバート・エドワーズさんが、この2億数千万年続いてきたルールを破る可能性を秘めたヒトの体外受精という技術を完成させてしまいました。

 最初の体外受精は、実際の夫婦の間で行われ、胎児も妻の子宮の中で育てられたので、誰も気がつかなかったのですが、実は子宮に着床して育つ胎児は、子宮の所有者である母親の遺伝子を受け継いでいなくても問題なく育つこともまもなく発見されました。その結果、精子の提供者である生物学的父親、卵の提供者である生物学的母親、子宮の中で胎児を育てる代理母、そして実際に生まれた子どもを育てる、育ての父、育ての母が、任意の組み合わせで子どもを「作る」ことが可能になってしまいました。

 進化から見た病気 (ブルーバックス)の中にある、楢木佑佳@spacetimeさんの描いた図をごらんください。
 ケース1で生まれた子は生物学的(遺伝的)には間違いなく卵と精子を提供した夫婦の間にできた子どもですが、日本の法律では生物学的遺伝関係はさておき、生みの母が法的母親となるということで、数年前にアメリカで代理母に出産してもらったタレントの向井亜紀さんの子どもは向井さん夫婦の子どもとしての出生届は受理されませんでした。ところが、向井さんの場合は出産前からニュースや週刊誌などで取り上げられていたため、代理母による出産が公知の事実となっていたためこういう判断になってしまいましたが、まったく同じことをしていても長い海外滞在の間に出産したとして届け出た「無名の人」の場合には、あっさりと出生届が受理されているという噂も聞きます。

 ケース2の場合は、日本ではなんの問題もなく出生届が受理されますので、私の憶測ですが意外と日本でもやられているのではないかと思っています。

 今朝の朝日新聞に出ていたニュースでは「インド、タイの医療機関やあっせん業者に取材すると、08年以降、インドで20組以上、タイで10組以上の夫婦が代理出産を依頼し、計10人以上が生まれていた。夫婦の受精卵を代理母に移植するほか、第三者からの提供卵子と夫の精子で受精卵を作り、代理母に移す例も多かった」となっていますので、上の図のケース1やケース3の場合に相当するものが多いようです。

 というわけで、哺乳類という動物としては進化史上の想定外の出来事がヒトという文化をもった種に起こっているという見方もできるわけです。この生物が生命の誕生以来初めて、自分の遺伝子(あるいはそれに相当する遺伝子を)を受け継がない子どもを生み育てるという状況に遭遇したということにも思えます。進化上想定外のことに対しては、生物はたとえそれが自分の遺伝子を受け継いでいくという意味で問題があるとしても、それに対抗する手段を進化させてきていないわけですので、ある意味まったく無防備だというふうに考えることもできます。その生物進化のスキをついて発達したのが、上のような生殖補助技術と言えるかもしれません。

 まったく、人間という存在は、生物という存在を脅かすようなことを次々とやってくれますね。
by stochinai | 2011-02-19 22:40 | 医療・健康 | Trackback | Comments(2)

A型インフルエンザなう

 土曜日に友人達との新年会があり、暴風雪の中をタクシーが途中で動けなくなったため、最後の数百メートルを「八甲田山」顔負けの行軍をして帰ってきました。最初はその疲れのせいかと思っていたのですが、どうも熱っぽい感じもしましたので体温計を脇にはさんでみると38℃くらいあります。私はもともと発熱には弱く、37℃を越えるともうフラフラしてしまうため、その温度を見ただけで寝込んでしまいました。

 そして、翌朝になっても熱は下がりません。不思議なのは、熱が出ると普通は「悪寒」という寒気を感じるはずなのに、とても暑くて大量に汗をかきます。過去の経験から、汗が出るのは発熱が治まる証拠みたいな先入観を持っていたので、しばらくしたら熱も下がるだろうと思って寝ていましたが、はかる度に熱は38度前後を行ったり来たりで、時として39℃近くになったかと思うと、38℃を切ったりすることもあります。

 よくわからないまま、週明けの今朝になってから判断をしようと思っていましたが、やはり今朝になっても体温はほとんど下がっておりません。意を決して近くの大きな内科クリニックへ。

 どうも、巷ではA型インフルエンザが流行しているらしいのですが、このインフルエンザがいままでのいわゆるインフルエンザのように「急激に熱が出て」「関節や筋肉が痛くなり」「吐き気や嘔吐を伴う」というものに比べるとマイルドな症状を示すもののようで、病院でインフルエンザの簡易検査を受けて始めてインフルエンザとわかるケースが多いのだそうです。

 逆にいうと、巷には自分がインフルエンザだという自覚もなくウイルスをまき散らしている人も多い可能性があります。

 私も高熱を除くと、あまり激しい症状がなかったため話を聞いてもらった段階では医師の方も、普通の風邪ウイルスによるものかインフルエンザウイルスによるものか断定することはできない、とおっしゃっていました。

 鼻の奥に綿棒を突き刺されて1分後に取り出したサンプルの検査結果は、A型(+)でした。

 先生は申し訳なさそうに、インフルエンザでしたとおっしゃられていましたが、その申し訳なさの原因は、今日からしばらくの間、できるだけ家を出ないようにしてくださいという宣告をしなければならないからだったようです。幸い、私は良い同僚や学生に恵まれておりますので、このような急な事件でしばらく休ませてくださいと申し出たら、すぐにOKが出るのですが、世の中にはなかなかそうもいかないところもあるのかもしれません。

 そもそも、私がインフルエンザはおろか風邪もあまりひかずに冬を乗り切ってきたのは、自転車通勤のおかげだったのかもしれないと思い出しました。このところの連日の大雪で、毎日バスと地下鉄という公共交通を利用していたことでウイルスをもらってしまったような気がしてなりません。

 公共交通を利用する方々ならびに、学校や会社などたくさんの人が集まるところへ出かける人は、自分がインフルエンザウイルスを持っていると自覚したら速やかに、出勤や登校を停止すると共に、そうしたことを寛容に受け入れる世の中であって欲しいと思います。

 というわけで、まさかのタミフルを飲むことになりました。
 タミフルなどのノイラミニダーゼ阻害薬は発症後48時間以内に飲まなければ症状の進行を阻止あるいは緩和する働きはないといわれていますが、機能的に見てウイルスの増殖は抑えられるのですから、患者個人の症状はさておきウイルスの増殖を阻止し、ひいては社会全体へのウイルスの拡散を防止するという「社会的意義」を考えるならば、これは飲まねばなるまいと思っております。

 不思議なもので、病気というものは原因がはっきりするだけでも症状が軽く感じられるような気がするものです。

 明日の朝は、もう1℃体温が下がっていてくれるとうれしいのですが・・・。

by stochinai | 2011-01-17 21:41 | 医療・健康 | Trackback | Comments(10)


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