5号館を出て

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 本日からアクセス可能になった新しい号のPNASに小ネタになりそうな論文がありました(August 30, 2005 | vol. 102 | no. 35 | 12634-12638)。

 野生のチンパンジーにも利き腕があることがわかり、それが母親から子供へと受け継がれる傾向にあるというのです。

 今までチンパンジーの利き腕の研究は、飼育された個体の研究しかなく、そもそも野生のチンパンジーには利き腕などというものはないとさえいう議論もあったそうです。

 今回の論文に載っている観察では、多数の野生個体の行動をビデオに撮って観察・解析したもので、データは統計処理もなされており信頼性は高いように思われます。

 その中で、シロアリを木の枝で「釣る」行動は左手を利き腕としている個体が多いことがわかりました。おもしろいことに、木の実を石で割る行動と、木の葉をくしゃくしゃにして水に浸し水を飲む行動は逆に右手を利き腕としている個体が多いそうです。行動の種類によって右手を使う傾向が強かったり、逆の手を使う傾向になったりというのはヒトにもあることだそうで、task-specificな差と呼ばれます。

 シロアリ釣り行動に関しては親子の間で利き腕がどうなっているのかという関係も調べており、右利きの母親から生まれた子は有意に右利きが多いことと、同じ右利きの母親から生まれた子はたとえ父が違っても右利きになる傾向があることも示しています。ということは、遺伝と言うよりは母から子への文化的伝承という可能性が高いということをしめしているのかもしれません(もっともこれは結論されていません)。

 というわけで、野生のチンパンジーにも利き腕があることが証明されたので、「利き腕」というものがヒトとチンパンジーが進化によって分かれたとされる500万年前にはあったのだろうと結論づけています。

 この最後のポイントの真偽はさておき、なかなかおもしろい小論文だと思いました。
by stochinai | 2005-08-31 20:22 | 生物学 | Comments(2)
 水産庁が日本海に大発生しているエチゼンクラゲの駆除に乗りだしたというニュースが出ています。(共同通信)

 食べられるクラゲなのでなんとかならないかという気もするのですが、あまりにも量が多すぎるようです。

 ニュースの中でちょっと気になったところに突っ込んでおきます。

 10月までに「駆除装置」を完成させるそうで、その装置というのが「底引き網の後方にクラゲを追い込むスペースを設置し、クラゲをピアノ線や刃物などで解体して外に排出する仕組み」で、クラゲをバラバラにして海にまく仕組みのようです。

 解説では「エチゼンクラゲはかさが最大直径1メートルにもなるが、一度解体すれば蘇生(そせい)しないという」と書いてありますが、ここは重要なポイントです。

 私もカサが1メートルにもなる巨大なクラゲですから再生はしないと思うのですが、クラゲと同じ腔腸動物には切っても切っても再生するヒドラがいますし、あるクラゲでは平滑筋細胞を培養していろいろな種類の細胞を作ったという論文もあります。

 昔、貝を食べるヒトデに手をやいた漁師さんが、ヒトデの腕をバラバラにして海にまいたところ、バラバラの腕のすべてから新しいヒトデが再生してとんでもないことになったという逸話もあります。

 多分大丈夫だとは思いますが、ほんとうにバラバラにしたクラゲが再生しないかどうかは実験によって確かめておいて欲しいものです。
by stochinai | 2005-08-31 18:52 | 生物学 | Comments(8)
 アメリカの超大型ハリケーン「カトリーナ」に対し、避難命令が出てたくさんの人が車で避難する光景をテレビで見ていたにもかかわらず、今日のニュースではの被害について、ミシシッピ州ビロクシ市の報道官は死者数が最終的に「数百人」に上る恐れがあると発表しています。

 どうして避難しなかったんだろうと、今朝のニュースを見ながら考えていましたが、映像では洪水の中から救出されるほとんどの人がアフリカ系アメリカ人でした。それを見て、避難しなかったのではなく、貧困で車がないあるいは高騰しているガソリンが買えないなどの理由で避難できなかったのではないかと考えていたところに、ハリケーンで略奪激化 米南部、貧困層に不満 (共同通信)というニュースが出たのでなんだか納得してしまいました。

 「約48万人の市民の大半が市外に脱出した米南部ルイジアナ州ニューオーリンズで、市内に残った住民による略奪や自動車の襲撃などが激化した」と伝えていますが、「車がなく市当局の避難命令に応じられなかった黒人ら貧困層の不満の高まりが背景にあるとみられる」との報道です。やはり、そういうことでしたか。

 日本から見るといつも豊かな国として描かれるアメリカ合衆国は依然として貧富の差が激しい「自由放任主義国家」だったようです。

 貧乏の責任は個人に帰するものであり、努力さえすれば金持ちになれるという幻想のアメリカン・ドリームはホリエモンなども共有しているものでしょう。彼も、NHKテレビでがんばりさえすれば、誰だって金持ちになれると主張していたはずです。

 それでも、小泉さんをはじめとする勝ち組軍団は、アメリカのような国を作りたいんでしょうね。
by stochinai | 2005-08-31 17:31 | つぶやき | Comments(9)

中学生の職場訪問

 今日は午前中から札幌の近くにある北広島市のO中学校3年生の生徒さんが、「総合的な学習の時間」職場訪問の一環として、大学の教員である私の働きぶり(?)を取材に来てくれました。

 この総合学習の主旨は、「実際に働く方から学び、働くことの意味について考えながら自分の生き方について考える」ということなのでそうで、具体的には自分がなってみたい職種を観察してみよう、ということのようでした。

 同級生達はいろいろな職場に散っていったようで、例えば円山動物園の飼育係の仕事ぶりを見に行った人はたくさんいたそうですが、北大の先生の仕事ぶりを見たいなどと思った人はKさん1人だったとのことで、たった1人で乗り込んできてくれました。

 私について言うと、今年は高校生だけではなく小学生の相手をさせてもらったこともあったのですが、中学生というのは初めてでしたので、なかなかうまく対応ができなかったのではないかと反省しております。

 インタビューを受けることなどなかなかないのですが、あらかじめ質問内容を知らされていました。

 ・ この職を得るまでにつらかったことはどういうことか。

 ・ この職業の「つらいこと」「おもしろいところ」、なって「良かった」と思うことはなにか。

 ・ この職業のがんばりどころはどこか。

 ・ 生物学の大学教員になるために、今どんなことをがんばっておくべきか。

 なかなか難しい問いばかりですが、なんとか答えさせてもらいました。最後の質問をした意図は、やはり生徒さんが将来大学の教員を目指したい、ついてはどういうふうにしていったらそうなれるのか、という質問に関連していますからなかなか答えるにつらいところです。

 中学生にもわかるように説明しようとすると、こんなふうになりました。「まずは、高校に入って、大学に入って、その後に大学院に進まないといけません。今は子供が少ないこともあり、高校や大学ばかりではなく、大学院に進むのも思ったよりも易しいかもしれないけれども、その中で大学の教員になれるのは、何十人あるいは何百人に1人しかいないんですよ」という現実を話さざるを得ません。

 こんなに若い子の夢をぶちこわすようで申し訳ないと思いながらも、実態を話しておきました。その上で、「生物学の大学教員や研究者になろうと思ったら英語の勉強をしておいてください。科学の共通語は英語なのです」という実用的な話もしておきました。

 実験室を見てもらった時にはポスドクの人しかいなかったので、少し話は難しかったかもしれませんでしたが、帰り際に「今日は楽しかったです」と言ってもらえたので、ひとまず責任は果たせたかな、と思いながらもどっと疲れが出たのでした。

 中学生くらいの相手が一番難しいかも知れませんね。
by stochinai | 2005-08-30 19:54 | 教育 | Comments(8)

先端医療ネタに注意

 つい数日前に、骨髄細胞移植で血管が再生し人工心臓患者で心臓治療が成功というニュースが流れました。

 心筋梗塞で補助人工心臓まで使っていた患者さん本人の骨髄から細胞を取り出し、その中にあると考えられる血管や血液細胞のもとになる「幹細胞」を、血管が詰まって働かなくなっている心臓の壁に注射したところ、そこに新しい血管ができて人工心臓を取り外すことができるくらいに心臓の働きが回復したというものです。

 他人からの臓器移植ではなく、本人の持っている幹細胞を使って心臓の治療(この場合は、ダメになっていた部分がまた働くようになったので「再生治療」と言います)が成功したのだとしたら、これは世界初の快挙ということになります。

 やったことは、基本的には骨髄から取り出した細胞を心臓の壁の中に注射するだけなので非常に簡単で、骨髄の細胞から幹細胞を取り出す(あるいはできるだけ幹細胞の多い細胞を取り出す)ところにコツがあったとしても、もしもこの方法が有効だとしたら非常に有望な治療法になるはずです。

 ところが医学の難しいところは、この「治療」とその「結果」に因果関係があるかどうかということが、簡単には確認できないというところにあります。

 つまり、もしも骨髄細胞を注射していなくても心臓の血管が再生するということがあり得ないことではないので、この「治療」が心臓血管(冠状動脈)の再生に効果があるということは今回の結果だけから断定することはできないのです。

 とりあえず、この患者さんは治ったようですので喜ばしいですし、この治療法が有効でないとしても患者さんに与える負担が少ないという意味で、これからどんどん試していって、30人くらいやってみたらまったく骨髄細胞を注射しなかった場合と比べて差が出るかどうかが言えるようになるはずですから、その時点でこの方法が有効であると結論できるようになります。

 それまでは、「もう、これで心臓移植はもういらなくなる」などと軽率に考えないようにしましょう。

 先端医療がらみの研究は、どうしても自分たちの命とかかわってきますので話題として大きくなりがちになりますが、今日もこんなニュースが飛び込んできました。

 切った手足が再び生える ― 再生能力を持つ「奇跡のマウス」が誕生というのが、それです。

 イモリやサンショウウオなど尾のある両生類では、手足(四肢)や、尾、目のレンズや網膜、はては脳さえも再生することが知られています(カエルでも大人になるとダメなのですが、オタマジャクシのうちは同じように再生します)。ところが、ヒトを含む哺乳類ではそんなにすごい再生が起こることはありません。

 それが記事によると「遺伝子操作により、切断された四肢や損傷した器官を再生させるマウスを作り上げることに成功したとのこと」となっています。残念ながら、このサイトの記事のほとんどは信用できないものが多いのですが、取り上げられている研究者は実在の人ですし、イギリスのサンデータイムスという元ネタがありますのでそちらを参照することにします。

SCIENTISTS have created a “miracle mouse” that can regenerate amputated limbs or badly damaged organs, making it able to recover from injuries that would kill or permanently disable normal animals.

 確かに、上の訳に相当することは書いてあります。さらに、このマウスは心臓や、手足の先や、関節や尾を再生する上に、そのマウスから細胞を取り出して普通の(再生できない)マウスに注射すると、そのマウスが再生できるようになったとも書いてあります。

 もしも、これがほんとうのことだったら大変なことなのですが、にわかには信じがたいところがいくつかあります。

 普通はこれほどの大発見であるならば、NatureかScience級の科学雑誌にまず載ります。ところが、今回の発見は来週ケンブリッジ大学で開かれるマイナーな学会(Strategies for Engineered Negligible Senescence)で発表されるというのです。これは、かなり異例なことです。

 私もこの博士が耳に穴をあけてもふさがる系統のマウスを持っているということは知っていました。また、つい最近までアメリカにいた当研究室のポスドク・E君のコメントをもらいましたので掲載します。

 「ヒーバーカッツ(女性博士の苗字)は元々免疫学者で、マウス個体識別のために耳にパンチ穴を空けてもすぐに穴がふさがる系統のネズミがいると言う事から、このネズミを見つけました。ちゃんとした系統名がありますが、通称でhealer mouseとか言われています。

 このネズミは傷口でMMP(再生能力に関係が深いと言われている酵素)の発現が長く続き、傷が治るまで傷口に基底膜(皮膚の下にある層)が作られません。そのため有尾両生類(イモリ・サンショウウオ)の四肢再生のように、いつまでも表皮-間充織相互作用が続き、きれいな治癒が出来るものと思われます。耳穴、尻尾、心臓の再生能力が高いという事は、数年前のシンポジウムでも話をしていました。が、どういう訳か今ひとつインパクトのある雑誌に論文が出ず、1-2年前はグラントが切れて困っているという話も聞きました。この記事を見ると、関節付きの指が再生したという事ですが、ちょっとにわかには信じがたいというか・・・・。マウスの指の再生というと、Bryantの弟子のKen Muneokaが権威ですが、以前Kenに『healer mouseを貰ってみたら?』と聞いてみたところ、『なんか指は再生しないらしい』と言っていたので。最近ヒーバーカッツはhealer mouseをいろいろなマウスと掛け合わせてsuperhealer mouseを作ったとか何とか言ってもいたので、ウソとも言い切れないのですが
」(カッコ内はstochinaiの注)とのことでした。

 というわけで、ほんとうならばすごい話なのですが、少し冷却期間をおきながらウォッチしていきたいと思います。

 先端医療関係のニュースはかなり気をつけていないと、ころりとだまされてしまいます。

追記(9月22日):
 アメリカ中に人脈を持つE君のところに情報が入りました。イモリの手の再生では第一人者と言われるD.S.博士がHeber-Katzに直接電話で聞いたところ、新聞記者が彼女の話を誤解して報道してしまったと本人は主張しているようです。ただし、依然として彼女は切られたネズミの足が多少は「回復」するとも言っているようですが、その後の報道も論文情報もありませんので、新たな発表があるまでは我々の頭をリセットしておくのが良いでしょう。
by stochinai | 2005-08-30 18:25 | 科学一般 | Comments(2)

候補者に望むこと

 公示日を前にあらゆるものが出尽くしたような気がする今度の選挙でした。

 正直言って、ニュースもワイドショーももうたくさんという気分です。

 というわけで、特に何かが持ち上がらない限り、今後は選挙について書くことはないかもしれません。別に公職選挙法に意識して自粛しようというようなことではなく、今回の選挙の結果がどうなろうと、そんなに日本が変わらないのではないかという気がすることが最大の理由です。

 他人事のように書いていますが、日本の選挙の最大の欠陥はここにあるのかもしれないと気が付きました。

 ほんの一握りの選挙に直接関わっている人を除くと、選挙の結果に大きな期待を抱いている人などいないのではないでしょうか。

 人気投票でなければ、消去法による候補者選びしかできない選挙。

 はじめから政策の中味ではなく、特定の組織(党や宗派や組合や地域)の代表を当選させることだけにすべてを投入している一握りの人間を除くと、ほとんどの国民にとって選挙とは、対岸の火事か、そうでなくとも美人コンテスト程度の意味しか持っていないと思われていないでしょうか。

 対岸の火事は見ていると興奮するかも知れませんが、いずれ消えます。美人コンテストも誰かが選ばれてしまえば、それでおしまい。どちらも、明日からの自分たちの生活には何の影響も及ぼしてきません。

 そんな程度の選挙に長時間の注目を集め続けるのは無理というものでしょう。

 なるほど、候補者を出している方では、飽きられてしまわないように次々とサプライズを繰り出していますが、「刺客」や「くの一」と言ったところでほんとうの刃傷沙汰が起きるわけではありません。すぐに熱は冷めてしまいます。

 そんな白けた状態で行われる選挙の結果、誰が政権を取っても政権成立後に人々はまた普段の暮らしに戻っていくだけというのが日本の選挙なのでしょう。

 郵政民営化にしても政治改革にしても、もはや自民党がやっても民主党がやっても、あるいは公明、共産、社民がやっても、速度の差こそあれ前には進んで行かざるを得ないものだと思います。一握りの自民党造反派にしたところで、ここまできたら露骨な反動政治を行うことは無理です。そんなことをしたら、数年で国政の破綻が露見してしまいます。

 しかし、誰がやってもそんなに大きな政策の差を出すことができないくらい追いつめられた日本の政治・経済を前提にした選挙であっても、やはり候補者に望まれていることはあるのだと思います。

 それは未来への夢と希望でしょう。

 それほど差のない細かい政策を出し合い批判し合っているのを聞いても私は落ち込むばかりです。そろそろ、3年・5年・10年・50年後の明るい未来を語る候補者が出てきても良いのではないでしょうか。

 どうか、候補者のみなさんは我々の未来、そしてそれ以上の子供達、孫達の未来を見据えた政権を語ってくださいませんか。

 今回、私は日本の未来に対する夢と希望を語ってくれる人に投票したいと思います。
by stochinai | 2005-08-29 20:27 | つぶやき | Comments(0)

ブログは選挙を変えるか

 結論から言うと、ブログが今回の選挙結果を変えることはないと思います。しかし、この選挙は確実にブログシーンに大きな影響を与えています。今回の選挙を練習台として大きく成長したブログが、今後の選挙に影響を与えることになるでしょう。

 その流れは意識されようがされまいがこの選挙を機に加速していき、インターネットが選挙に対してとてつもない大きな力を持つ存在になると思います。

 今回に選挙に関連してみると、R30さんがおっしゃっているように自民党はすでにブログを政治的力を持つ存在として認知していることを先日のメールマガジン発行者・ブロガーとの懇談会で表明していますので、選挙で自民党が勝利した場合にはブログの認知およびその利用が勝利の一因として語られることはあるかもしれません。

 しかし、すでに何人かの方が指摘しているようにあの懇談会関連で自民党およびウォッチャーにインパクトを与えることができたのはおそらくGripBlogさんただひとりだったし、彼女は自民党に招待されて参加したのではなく、自分から売り込んで無理矢理に潜り込んだ人でした。彼女の行動は我々の選挙行動に影響を与えることがあるかもしれませんが、各政党や選挙そのものが彼女の行動によって影響されるということは、現時点ではほとんどないと言って良いと思います。(GripBlogさんによる詳細な報告も出ました。)

 そういう意味で、まだまだ選挙などの全国民的な大きなイベントにはネットの影響力は大きくなってはいないとは思いますが、おそらくその理由は単にインターネットで情報を得る人の数がまだまだ少ないからに過ぎないということです。今後、それはどんどん大きくなっていくだけですから、それにつれて選挙もネットの存在を前提にするように変わっていくことは間違いありません。

 ブログが選挙(にかぎらず、**)を変えるのかという問いが難しいのは、「ブログ」がどういうものなのかということを定義するのが難しいことに関係があります。形式としてのブログがだいたいこういうものであるということは定義することはできても、それは中身と何の関係もありません。

 ブログは発信する人と読んでいる人で成立しています。ブログの特徴はその双方向性であると言われることが多いですが、自分で実際に運用していて感じることは、双方向性というものがそれほど機能しているわけではないということです。

 ブログ・エントリー(記事)にコメントという形で直接寄せられる意見は、それがない場合に比べるとエントリーの質を維持するという点において非常に有用に働いていることは疑いはありませんが、それを介して書き手と読み手の垣根がなくなるほど活発に双方向のコミュニケーションが実践されているかというとそれほどのことにはなっていません。

 ブログの登場によって技術的には発信者と受信者の垣根がほとんどなくなったと言われますが、ブログを書く人と読む人という分化はやはりあります。その結果、やはりブログはジャーナリズムの一種ということになっているのだと思います。

 ただし、トラックバックという形式でたくさんのエントリー(記事)がリンクされた形で読者に提供されているということはいままでのジャーナリズムにはなかった特徴です。双方向性はそれほど大きくなっていなくても、トラックバックを介して横に大きく広がった情報源ととしてのブログの世界は、やはりいままでのジャーナリズムとは一線を画する大きな発展だと言えます。

 とまあ、形式だけについてみてもブログが新しいメディアであるということはわかるのですが、それが日本を変えるのかということになるとその内容次第であるという陳腐な結論に到達せざるを得なくなります。

 つまり、メディアはブログであろうがなかろうがある民主主義国家の未来を決めるものはリーディング・オピニオンとそれを支持する市民の数ですから、ブログがメディアの中で大きな位置を占めるようになれば、ブログが日本を変えるということになるでしょうし、ブログがそういうメディアになれるかどうかはやや未知ですが、少なくとも今回の選挙の中でかなり鍛えられていることは事実で、情報の集約中心として大きく成長しつつあるところも出てきているようですから、大いに期待はできるでしょう。

 また、ブログの特徴はその柔軟性ですから、すべてのブログがネット社会の中で同じような位置を目指す必要がないばかりではなく、逆にそれぞれが自分らしい規模(読者数)や、自分らしい取り扱い対象、自分らしい更新頻度を持ってネットの中に残されているすべてのニッチを埋めるようになった時に、「ブログが日本を変える」ことになるでしょう。その時には、おそらくブログが世界も変え始めているのだと思います。
by stochinai | 2005-08-28 23:45 | コンピューター・ネット | Comments(0)
 今朝の朝日新聞に、昨日行われた「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)による「政権公約(マニフェスト)検証緊急大会」で発表された、経済団体や民間シンクタンクなど6団体による小泉内閣の実績と、03年の総選挙で与党が掲げた政権公約の達成度を採点した結果が表になって出ていました。

 小泉内閣の実績と、与党の政権公約の達成度を評価したのは、経済同友会、全国知事会、言論NPO、構想日本、日本総研、PHP総研で、それぞれが点数化されていたのでその差をとても興味深く感じました。総合評価では、自民、公明両党とも、日本総研が付けた70点が最高。最低は、自民党が31点(構想日本)、公明党が24点(PHP総研)などとなっており、予想通りなのですがとても平均点などは出せない状態です。

 逆に、こういう点数を見ることによって、我々がこれらの団体のレベルや政治的立ち位置などを知ることができますので、何かを評価すると言うことは自分が評価されることなのだということも考えさせられました。

 今回の総選挙での政権公約については自民、公明、民主3党を対象とし、上の6団体に日本青年会議所と連合が加わった8団体が評価しています。青年会議所と連合なら聞かなくてもわかるという人もいるでしょうね(^^)。

 まあ、いろんな立場の人がいますので、どれが正しい評価かなどということにはなりませんが、すべての団体の発表内容が21世紀臨調のホームページでpdfファイルとして配布されているのはありがたいことです。pdfファイルも文字だけのものが多く比較的軽いです。

 興味のある方は、是非ともご一読をおすすめします。
by stochinai | 2005-08-27 17:39 | つぶやき | Comments(3)
 ヤドクガエルは、中南米のものが有名ですが他の地域にもいます。

 南米のMelanophyrniscus属 (Bufonidae科)、オーストラリアのPseudophryne属 (Myobatrachidae科)、もっとも有名な中南米のDendrobates属,Epipedobates属, Phyllobates属 (Dendrobatidae科)、そしてマダガスカルのMantella (Mantellidae科)が主なもので、すべてが皮膚腺に毒であるアルカロイドを持っています。タイにも弱いながらもアルカロイドを持つLimnonectes kuhliというカエルがいるそうです。

 昔はカエルがアルカロイドを作っていると思われていたこともあるのですが、長い間飼育しているうちに毒が弱くなってくることが知られてきたことから、人工的にショウジョウバエだけで飼育してみたところ、全く毒のない「ヤドクガエル」になりました。また、餌にアルカロイドを混ぜて食べさせたところ、アルカロイドはカエルには全く毒性を示さなかったばかりか皮膚に蓄積することも示されました。つまり、毒を持ったヤドクガエルに変身したのです。

 このことから、ほとんどのケースにおいて毒アルカロイドは野生のヤドクガエルが食べている餌(甲虫、アリ、ヤスデ)が持っているものに由来すると考えられています。ただし、オーストラリアのカエルは自分でアルカロイドを合成するそうです。

 ヤドクガエルの研究は主に、中南米のカエルを使って行われてきましたが、最近発表された論文(Convergent evolution of chemical defense in poison frogs and arthropod prey between Madagascar and the Neotropics:Published online before print August 8, 2005, 10.1073/pnas.0503502102:PNAS | August 16, 2005 | vol. 102 | no. 33 | 11617-11622 )によると、マダガスカルと中南米のヤドクガエルは全然近縁ではないにもかかわらず、餌であるアリやヤスデからほとんど同じアルカロイドを取り込んで皮膚にためていることが示されました。

 中南米とマダガスカルには同じ種の毒を持つヤスデはいるようなのですが、どちらでもカエルの主な餌はアリでありアルカロイドも主にアリから得ているようです。それぞれのアリも進化的には近縁ではなく、アルカロイドもアリ自身が作っているというよりは、植物からアリが取り込んでいるもののようなので、どちらの地方においても毒を持った植物を食べて毒をためるアリが別々に進化して、そしてその毒を持ったアリを食べて毒をためるカエルが別々に進化というお話のようです。

 こういう現象を「収斂進化」と呼びます。

 収斂は不思議な現象だと言われることがあるのですが、たとえば毒で身を守るというようなことを考えた場合、自分たちを食べそうな動物にとっての毒というものはある程度決まっているわけで、結果的に違う動物でも同じ毒を利用することになることも当然と言えば当然かもしれません。

 また、中南米のヤドクガエルとマダガスカルのヤドクガエルが、似たような派手な色と模様の「警戒色」を持つようになったことについても、それが捕食者に対する「俺を食うな」というメッセージだとすると、毒を持つように進化したカエルがそういう機能を進化させることについては、わかりやすい気がします。

 地球という狭い環境では収斂進化はごく普通に見られる現象なのではないかと、この論文を読んでまたまた感じました。

 論文のオリジナルはこちらに、またここに読みやすい解説記事があります。
by stochinai | 2005-08-27 17:15 | 生物学 | Comments(3)
 一週間ほど前に、ある方からザリガニの子供を3匹いただきました

 その方も、またある方からそのザリガニが子供の時もらったということですので、私がもらったのは孫ザリガニということになります。

 話はややこしくなるのですが、そのもともとのザリガニの持ち主の方は、小学校の先生で教室でザリガニを飼っていました。その方が、このザリガニはミステリー・クレイフィッシュといってメスだけで増えるんですと言っていらしたのが今から思うと、去年か一昨年の話だったような気がします。

 恥ずかしながら生物学それも発生学などもいちおうの専門としていた私は、その時までメスだけで増える(つまり単為生殖・単為発生する)ザリガニの話などは聞いたことがありませんでしたので、半信半疑ながらも「子供が生まれたら是非ください」とお願いしていたのですが、ようやくいただけることになって大喜びしております。

 で、単為生殖するザリガニも知りませんでしたし、ミステリー・クレイフィッシュなどという名前も聞いたことがなかったのですが、今回いざザリガニを手にしてみて気になるので調べてみました。

 もちろん、日本でも飼育愛好家の方のサイトがあるのですが、なんとこのザリガニは世界的に見てもごくごく最近発見された、まさにミステリアスなザリガニであるということがわかりました。

 科学雑誌(専門誌)としては、世界の最高峰にあるNatureとScienceが2003年の2月19日と20日にほぼ同時に発行された号で、このザリガニを取り上げています。

 なんと十脚類(エビ、ザリガニの仲間)としては、世界で始めて単為生殖することが発見されたという大ニュースになっていました。弁解するわけではないですが、「専門家」の私が知らなくても不思議はないほど最近の発見なのです。

 もともとこのザリガニはドイツの愛好家の水槽で発見されたものということで、どうもメスだけで増えているらしいという噂があったようです。それが2003年に生物学者によってほんとうのことだと確かめられたということでニュースになりました。

 私たちの研究室でも増えているミジンコや夏から秋に大量発生するアブラムシなど、メスだけで繁殖する動物は意外とたくさんいます。そういう意味では大発見ということでもないのですが、ザリガニのような「大型」の動物が野生に放たれた時には、時として問題が起こります。

 北海道にはいませんが、アメリカザリガニというアメリカから移入されたザリガニがニホンザリガニをどんどんと駆逐して増殖してしまったのは、有名な話です。北海道でもウチダザリガニというアメリカ由来のザリガニがじわじわとニホンザリガニの生息域を浸食しているようです。

 ミステリー・クレイフィッシュの原産地はまさにミステリーで特定されてはいないようなのですが、アメリカザリガニとも近縁らしく、北アメリカが原産ではないかと疑われています。それがドイツで発見されて、単為生殖でどんどん増えることがわかったのです。マニアの水槽の中で増える分には問題がありませんが、野外で増え始めたらどんなことになるかわからないということが、このザリガニ発見が大きなニュースになった理由の一つでした。

 確かに、ある意味ではアマチュアの小学校の先生のところでどんどん増えて、私がいただけるようになったくらいですから、温暖な地方だと野外でもどんどん増える可能性は大きいと思います。

 移入種として将来の被害リスクが予想されるだけではなく、単為生殖する大型の動物として実験動物としての有用性も期待されるということで、このザリガニの発生や生殖、成体に関する論文が2004年から出始めており、2005年の論文もありました。まだまだ、研究する余地がありそうです。

 というわけで、いろんな意味で旬の動物であるミステリー・クレイフィッシュを本格的に調べてみようかななどと思っている今日この頃なのでありました。

 Yさん、Aさん、たいへんにおもしろい動物をいただき、ほんとうにありがとうございました。
by stochinai | 2005-08-26 22:24 | 生物学 | Comments(3)

今日二つ三つ朝顔の通り道          稲畑廣太郎


by stochinai