5号館を出て

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 New Scientist Tech のサイトに面白い記事が載っていました。

 Smart camera keeps an eye on rare penguins

 要するにペンギンをビデオで撮影し、リアルタイムで個体識別できるソフトウェアのようです。最近はデジカメでも、ヒトの顔を認識するだけではなく、それが笑顔かどうかまで見分けることもできるようなので、それほど最新のテクノロジーを使ったものではないのかもしれませんが、ペンギンにタグを付けてストレスを与えたりしなくても済むことを考えると「人道的」な個体識別法だと思います。

 YouTubeに、リアルタイムで個体識別している様子を録画した映像がアップされています。
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 このペンギンはアフリカ・ペンギンという名前のようですが、不覚にもそのような名前のペンギンがいることは知りませんでしたので、調べてみると日本では普通「ケープ・ペンギン」と呼ばれているもののようです。それなら、聞いたことがあります。

 南アフリカの海岸沿いに住むこのペンギンは、100年くらい前には100万頭(羽?)もいたのだそうですが、現在では17万頭にまで減少したため保護されています(絶滅危惧II類)。このペンギンは、胸にゴマ塩のように黒い斑点があることが特徴で、しかもその斑点が個体ごとに場所や大きさが異なっています。この個体識別プログラムでは、その斑点の位置や大きさから瞬時にして個体を割り出すことをやっているようです。そのため、ほぼ正面から全体が見えるようにカメラに捉えられた個体しか判別することができないという弱点があるのですが、このビデオのように彼らの通り道を正面から撮せる場所にカメラを確保できれば、およそ98%くらいの認識率になるということです。しかしその前に、ペンギンがカメラを意識しなくなるまで慣れてくれないとダメだとのことです。確かに、映像では彼らはカメラを意識していないように見えます。

 現在、南アフリカのロビン・アイランドという島にいる約2万頭のペンギンを識別できているということですので、この技術を応用すれば、今まではなかなか個体識別が難しいために、個体の生態がはっきりしていなかった、群れを作って生活している様々な動物の生態研究に応用できるようになると頼もしいと思います。

 ひょっとすると昆虫などの個体識別もできるようになるかもしれませんね。

 ビデオで個体識別をするというのは、普段なら防犯カメラで国際手配されている犯罪者を見つけるなどという穏やかではない使い方がニュースになったりしますが、今回のような平和的な目的の利用もどんどん発展して欲しいものです。
by stochinai | 2008-06-30 20:55 | 生物学 | Comments(0)

援軍来る

 木々の若芽がどんどん成長したり、花のつぼみがしっかりして開く直前になってくると、アブラムシも少なくなってくるとともに、植物の方も抵抗性が強くなり、少しくらいアブラムシがいたところで大した影響を受けなくなってきます。そういう時期になってからでは、少し遅すぎると思うのですが(というか、遅すぎてくれるからこそアブラムシは生き延びることができるのですが)、アブラムシ退治の援軍が到着してくれました。
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 シルエットこそ悪玉っぽく見えますが、これぞ待ち望んでいたアブラムシ退治の強力な援軍、テントウムシ軍です。色が見えてくると、どうやらナミテントウの幼虫であることがわかります。
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 小さいのもいます。
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 もっと小さいのもいます。
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 続々と生まれてきているようなので、これで私は(少なくともこのムクゲの)アブラムシと戦う必要はなくなるでしょう。化学兵器を使わないで、ほんとうによかったと思います。

 と思っていたら、新しい敵も参入してきているようです。見えますか?
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 きれいはきれいなのですが、若芽を食べているっぽいです。
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 不思議なことに、こういう虫は植物についているときには、意外なほどアリに襲われるということはないのですが、地面に落としてやったとたんにアリが攻撃を始めるようです。(アリは、どんどんそばを通り過ぎているにもかかわらず、なのです。)
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 これはレッドカランツについていた別の虫の幼虫ですが、地面に落としてやったら、あっというまにアリがたかってきて巣に運び込んでしまいました。
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 こんなちっぽけな庭ですが、植物が動物に食われ、その動物が他の動物に食われという、循環を見て取ることができます。何も世界の強国の首脳が洞爺湖に集まって語り合わなくても、サステナビリティを考えることはそんなに難しいことではありません。自然の中で、自然に起こっている循環を理解すれば、どうすればサステナブルな地球を取り戻せるのか、実現は難しくとも原理を理解することは小学生にでもできるでしょう。

 そして、もうひとつ。自然の美しさに心を打たれることも大切かもしれません。これは、同じところにいたクサカゲロウ。カゲロウのはかなくも美しい姿は、洋の東西を問わず、妖精にたとえられることがあるようです。
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 偶然にも科学技術コミュニケーター界の妖精であるM姫さんが、余市で同じ虫の写真を撮っていました。クサカゲロウの幼虫もアブラ虫の捕食者のようですから、アブラムシも敵が多くて大変ですね(^^;)。

 ここまで書いてきて気がつきましたが、去年ムクゲの上で見つけたテントウムシの幼虫だと思っていた虫は、おそらくクサカゲロウの幼虫だったのだと思います。写真を再掲しておきます。
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by stochinai | 2008-06-29 23:44 | 趣味 | Comments(1)

逆光の北大キャンパス

 昨日も今日も、サステナビリティ・ウィーク関連のイベントに参加しました。昨日のプログラムはまだ一般の人の参加も多かったようですが、さすがに本日のプログラムはほとんどが関係者だったのではないかと思われました。それでも、明らかに専門外と思われる方も何人かいらっしゃって、その向学心には頭が下がります。

 ちょっと用事があったので、最後まではいられなかったのですが、今日のプログラムはなぜ研究者達は分類学を研究するのかということがとても良く伝わってくる、なかなか興味深いセッションでした。

 用事が済んだのが6時過ぎでしたが、夏至から1週間でまだまだ日は高かったので、久しぶりに夕日を見ながらキャンパスを散策しました。今日は太陽が出ていたので、図らずも逆光の北大キャンパスというテーマになってしまいました。

 まずは、北キャンパスのエルムトンネル(学生はエルトンと呼んでいます)の上を走る遊歩道です。
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 続いて工学部の裏手をぶらついていたら、おもしろいものを発見しました。テレビや各種マスコミの記事などでは何度も見たことがありながら、一度もホンモノを見たことがなかった、これです。
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 実は建ってからもう10年以上も経っていて、この写真で見るような拓けた土地にあるわけではなく、かろうじて建物の南側は草刈りがされているものの、基本的にはうっそうとした森の中に埋もれてしまっているという感じです。
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 まわりの樹を伐採しないと、ハウスに届く太陽エネルギーはかなり減衰しているものと推測されました。さらに、小形の風力発電機も羽根がもげており、かなり悲惨な状況です。もう、プロジェクトは終了しているのかもしれません。

 続いて理学部裏の農場です。ここまで来ると、今日のテーマは逆光ということに決まっていましたから、狙いははっきりしています。まずは、アリウム・ギガンティウムのネギ坊主です。
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 そして、これはどこかのサイトで見かけて、いつかは自分も撮してみたいとずっと狙っていた、綿毛のタンポポです。これなら、誰が撮しても「絵」になります。
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 というわけで、夕方のキャンパス散策を終えたのでした。最後は、6号館の窓に映る落日です。
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 ようやく夏の雰囲気が出てきた札幌です。
by stochinai | 2008-06-28 19:43 | 札幌・北海道 | Comments(2)
 哺乳類の初期胚から得られた幹細胞であるES細胞は、いろいろな種類の細胞に分化することができる「多分化能」を持っています。その多分化能を支配している遺伝子として、Oct4、Sox2 と Nanog が重要であると考えられています。その中でも、特に Oct4 が重要であり、条件によっては Sox2 や Nanog がなくても多分化能が維持されることがありますが、Oct4 は必須だと言われているようです。

 ところが、今回発見された胚発生のごく初期に作られるRoninと名付けられたタンパク質は、胚の幹細胞の多能性を維持することに働いており、Oct4 遺伝子を働けなくされて多能性を失ったES細胞の多能性を回復させることができることも示されました。
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 CELL Volume 133, Issue 7, 27 June 2008, Pages 1162-1174
 doi:10.1016/j.cell.2008.05.047

 Roninは日本語の「浪人」から名付けられたのだそうで、主人のいない日本のサムライが浪人と呼ばれるように、Ronin遺伝子はそれをコントロールするマスター(主人)遺伝子がいないように見えるということです。それは、つまりRoninこそがマスターである可能性も示唆しているということなのでしょう。著者の中に日本人はいないようですが、「椿三十郎」の映画でも好きな人がいるのかもしれません。

 Ronin遺伝子はネズミの胚発生のごく初期に働き、その働きを抑えると胚は着床前後に死んででしまいます。またES細胞でも働いているのですが、ES細胞の中で働くRonin遺伝子を抑えるとES細胞は増殖できなくなります。逆に、分化するような条件下に置いたES細胞の中で強制的に働かせると、細胞は分化しないまま(ES細胞にとどまったまま)増殖を続けるようになります。

 Roninタンパク質はHCF-1という転写調節因子と結合することが示されている上に、それ自身はTHAPと呼ばれる領域をもっています。THAPは特定の遺伝子に結合して、その働きを抑えることに関係している部分だということなので、Roninタンパク質そのものが遺伝子の発現を抑えて、細胞が分化することを抑制し、多分化能を維持させているマスターであることをうかがわせるものです。

 ES細胞をネズミに移植すると、通常は奇形種という良性のがん腫瘍ができるのですが、Ronin遺伝子を働き続けるようにしておいたES細胞を移植すると、悪性のがんになるという結果も出ているようです。

 私も詳しくところは良くわからなかったのですが、Oct4、Sox2、Nanogなどは特定の遺伝子に働きかけて、その働きを抑えることによって細胞の多能性を維持しているのに対して、Roninは一度にたくさんの遺伝子に網をかけるように働きかけて遺伝子の働きを抑え、細胞の多能性を維持しているので、こちらの方が「偉い」あるいはマスター遺伝子に近いところにあるというようなことを主張したいのだと思いました。

 ご参考までに、彼らの書いたモデルの図を引用転載させていただきます。(なんか、矢印の向きが逆のような気がしますが・・・・。)
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 iPS細胞に浮かれ気味の日本ですが、ESを使ったこういう良い研究もどんどん進行しています。あまり、具体的な応用にばかり目を奪われないで地道に幅広い基礎研究を振興していただきたいものです。
by stochinai | 2008-06-27 19:21 | 生物学 | Comments(12)
 先頃、CoSTEPチャンネルという動画の配信を始めたCoSTEPですが、またまた新しいサービスを開始しました。

 Science and You つながりのある科学の話題にジャンプ!

 プレス・リリース
 CoSTEPが新しいインターネットサービス「Science and You」をスタート

 「Science and You」は、あなたと科学技術の話題を結びつける、全く新しいインターネット上のコミュニケーションサービスです。URLはhttp://you.costep.jp/で公開します。

 使い方は次の二通りです。

1 「Science and You」のサイトに、あなたの関心があるウェブページのURLを入力してください。すると、そのページから科学技術に関係するキーワードを抽出し、キーワードに関連するサイトを紹介します。

2 「Science and You」では、専用のブログパーツも提供しています。あなたのブログに、「Science and You」のブログパーツを組み込むと、あなたのブログ記事から科学技術に関係するキーワードを抽出し、キーワードに関連するサイトをあなたのブログの読者に紹介します。このサービスは、CoSTEPが教育活動の一環として運用するために開発し、広く一般に無償公開するものです。
 残念ながら、このエキサイトブログではブログパーツを貼れませんので、以下のバナーリンクを使うしかありません。

Science and You

 これをクリックすると、以下のサイトにある関連記事をピックアップしてくれるのだそうです。

  * 『さっぽろサイエンス観光マップ』
  http://d.hatena.ne.jp/costep_webteam/
  * 『おすすめ科学の本』
  http://sts.sci.hokudai.ac.jp/book/
  * 『かがく探検隊コーステップ』
  http://costep.hucc.hokudai.ac.jp/project/radio/list.php

 試しに、いろいろとキーワードを入れておきます。どうなるでしょうか。

 サステナビリティ
 生物多様性
 進化
 珪藻
 炭酸ガス・二酸化炭素
 絶滅
 気候変動

 あまりヒットする感じではありません。また、この記事だけを参照するのではなく、このサイトにあるすべての記事を参照しているのかもしれませんね。
by stochinai | 2008-06-27 13:03 | CoSTEP | Comments(7)

社会実情データ図録 

 フリーソフトの樹さんのところで、とんでもなく有用なサイトが紹介されています。

 社会実情データ図録

 本当に、すごいです。息を呑むようなデータが図で示されており、しかも最新のデータがはいっているところが、貴重です。

 たとえば、「主な食糧の品目別自給率の推移」を見てみます。
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 米はまあまあなのですがそれを除くと軒並み自給率が下がっているのが良くわかります。逆に、1960年代には、かなりのものが自給できていたこともわかります。それを見ると、戻るのが無理ではないかも、と思わされます。

 続いて、「穀物等の国際価格の推移」を見てみます。
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 驚くべきことに、米の国際価格は今年になってから暴騰しており、タイ米などが去年から比べても3倍という狂乱上昇をしていることがわかります。私が疎いだけなのかもしれませんが、こんなことニュースでは聞いたことがありませんでした。米は自給率が高く、国際価格は関係ないというところかもしれませんが、やはり米についても国際的視野で考えなければならないことを思わされます。

 やはり、データの力というものは偉大です。活用していきたいと思います。
by stochinai | 2008-06-26 21:29 | コンピューター・ネット | Comments(5)
 ITmedia Biz.IDのニュースで、来日中のMozilla CEOのジョン・リリー氏のプレスリリースの模様が報道されています。

 次はSHIRETOKO ── Mozilla CEO、Firefox3.1を語る

 それによると、Firefox3は今年中にマイナー・バージョンアップをする予定で、次のFirefox3.1の開発が進んでいるそうです。そして、そのコードネームがSHIRETOKO
 世界遺産の北海道知床です。

 Firefoxは今までも、世界の国立公園の名前をコードネームに使って開発してきたのだそうですけれども、ボンエコーとか、グランパラディーゾ山とか聞いても、私にはさっぱりわからない地名です。前者はカナダ、後者はイタリアだそうですが、私が知らないだけで欧米人というのは、こうした文化的なことには結構世界的視野を持っている人がいるんですよね。感動しました。

 3.1では、さらに高速になる上に、ビデオやオーディオタグがサポートされ、何十ものタブを開いても大丈夫な、軽くてタフなブラウザーに進化してくれることでしょう。

ブルーの“e”がインターネットではないんだよ、といったことを人々に伝えていきたいと思っている

 期待してます。
by stochinai | 2008-06-26 21:07 | コンピューター・ネット | Comments(0)
 待ち望まれていた遺伝子チェッカーはこちらです。

 早速やってみました。「5号館のつぶやき」です。


遺伝子チェッカー


 かなりワイルドですが、私としてはあまり納得できませんemoticon-0130-devil.gif

 というわけで、「stochinai」で再チャレンジ。


遺伝子チェッカー


 こちらはまあまあ、妥当な線ですかねemoticon-0140-rofl.gif

 お試し下さい。

情報ソースは、こちらです。
by stochinai | 2008-06-25 22:02 | スマイル | Comments(1)

不耕起農法

 今月号の Scientific American に、不思議な記事を見つけました。ネットでも冒頭は読めます。

 No-Till: How Farmers Are Saving the Soil by Parking Their Plows

 No-Tillというのは文字通り、「耕さない」ということだとわかりましたが、耕さない農業というのがありうるとは知りませんでした。

 雑誌に載っている記事の副題は上のものとはちょっと違いますが、「静かな革命」というのはかなり強力なネーミングです。
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 記事によると、全世界の農地の7%近くが耕さない農地として使われているのだそうで、もちろん利点があるから行われているのだと思います。

 耕さないことの利点
  農地がくずれない
  水持ちが良い
  土が「健康」になる
  ガソリンや労働力が軽減できる
  農地からの土や肥料が流出して水を汚染することが少ない
  炭素の保持量が多い

 と、かなりエコであることが強調されています。もちろん、それとひきかえに欠点もあります。

 耕さないことの欠点
  旧来の農法からの転換が難しい
  必要な農機具が高価である(どんな機具がいるのでしょう?)
  除草剤を大量に使わなければならない
  雑草や病害虫の発生が予想外のパターンで起こる可能性がある
  初期には窒素肥料が大量に必要になるかもしれない
  作物の育成が遅く、収量も少ない可能性がある

 と、いろいろ難しいこともありそうです。

 特に除草剤を使わなければならないというところは、かなり大きなポイントになると思われ、アメリカなどでは、この農法は除草剤と除草剤耐性遺伝子組み換え作物の存在によって支えられているのかもしれないと考えると、諸手を挙げて賛成できるものではないのかもしれません。

 調べてみると「不耕起農法」や「不耕起栽培」という日本語もありました。日本でも、すでに実践している人も、プロアマ含めてかなりいらっしゃるようです。もちろんかなりの少数派とお見受けしましたが、少子高齢化が進み、休耕田や休耕畑があちこちに見られる日本では、もう少し真剣に考えてみても良いやり方なのかもしれないと感じました。

 私はズブの素人なので、栽培植物を植えるためにはしっかりと耕した柔らかい土が必須なものだと信じておりましたが、何年か前から余った苗などを、捨てるよりはマシという気持ちで、まったく耕してもいない砂利地に植えたりしたものが、意外なほど見事に育ったことを何度か経験しておりましたので、この記事を読んでなんとなく膝を打ちたい気持ちになっております。

 植物は意外と強いものです。

 そしてなにより、省力で楽そうなところがいいです。少し調べたり、実践したりしてみたくなりました。

 まだまだ、知らない世界がたくさんあります。
by stochinai | 2008-06-25 21:42 | つぶやき | Comments(2)
 飛騨牛の偽装事件で出てきた社長の会見のニュースを見ていると、だれしもミートホープの社長の会見と重なって見えてくると思います。

 この社長も、同じ食肉を扱う業者として、つい最近起こったミートホープ事件を知らなかったはずはないでしょうから、これは学習能力がうんぬんというような生やさしいものではなく、食品業界の構造として、こういうことが起こらざるを得ないのではないかとも思えてきます。

 この食肉卸売会社「丸明」ではブランド和牛「飛騨牛」を安く売っているということは、誰しもが知っている事実でした。安い「飛騨牛」には、理由があるはずです。

 もちろん、経営努力と製品購入ルートの工夫により、ある程度値段を下げることは可能ですから、一般の消費者は安い「飛騨牛」はそのようにして売られていると信じ(たがっ)て購入していたのだと思います。とはいえ、他の製品と比べてあまりにも安い場合には、ひょっとするとこれは純正の「飛騨牛」ではなく、偽装されている可能性があるかもしれないという一抹の不安を抱えて買っていた人が多かったと思います。

 一方、同業者からみると企業努力などで下げられる値段の限界というものははっきりとわかりますから、証拠はつかんでいないとしても同業者は「あれは、偽物だよ」と断定している人が多かったようです。

 そうなると、今回の「事件」に関しても今までの事件と同じように、業界のこともある程度知っていて、また消費者の立場にも近い小売業者の責任は大きいと感じます。

 小売業者というものは、たくさん売ることで販売利益を上げたいと思うでしょうから、少しでも安く仕入れたいと思う気持ちはわかります。一方、小売業者というものは、消費者に変わって製品の質を確認する能力を持っていることが期待されているのではないでしょうか。消費者は小売業者のそうした能力に対して、卸売の値段に利益を上積みして売ることを認めているのだと思います。

 つまり、小売業者には卸売業者(あるいはさらにその先の生産業者)を監視し、製品の質を維持する責任があります。もちろん、製品の質をチェックするにはコストがかかりますし、質の良いものはどうしても高いということになるでしょうから、小売業者が責任を果たせば果たすほど、そこで販売される製品は高くなってしまうことになってしまいます。

 さて、我々消費者側としてはそうしたコストが上乗せされた製品を購入する準備ができているでしょうか。消費者にその姿勢がなければ、小売業者も質は二の次にして安い製品を仕入れるということになるでしょう。そういう小売業者は、偽装してでも安く製品を卸す業者と関係が深くなるでしょう。偽装をいとわない卸業者は、時には危ない製品を手に入れてでも安く売ろうとすることがあるかもしれません。

 こうした連鎖の中では、食品の偽装は生まれるべくして生まれるものであり、ミートホープや今回の事件のような「たまたま表に出てきたもの」をたたいても、何も解決しないと思います。

 食品流通全体の構造改革をしなければならない時なのではないでしょうか。公務員制度の改革も必要なことですが、この国では民間にも改革しなければならないことがたくさんありそうです。
by stochinai | 2008-06-24 21:50 | つぶやき | Comments(0)

ふと咲けば山茶花の散りはじめかな        平井照敏


by stochinai